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人の金で、クリスマスをする人たち

銀座、六本木、西麻布。夜の歓楽街は、毎夜にぎわっています。月給で働く社員が、一晩で何十万円という領収書を、どんな気持ちで清算しているのでしょうか。娯楽とは本来、自分の金で楽しむもの。それができない者は、その場にふさわしいとは言えないのかもしれません。人の金で毎晩クリスマスをしようとする者が、最後にどこへ行き着くか——という話です。

A COMPANY READING ・ 自分の金で、楽しめているか

SUMMARY

銀座、六本木、西麻布。夜の歓楽街は、いつの時代も交際費でにぎわっています。一晩で何十万円という勘定を、自分の財布から出している人は、その中にどれだけいるでしょうか。多くは、会社の金です。そして翌朝、その領収書を清算するのは、月給で働く経理の社員だったりします。一晩の遊興費が、その人の月給を超えている——その請求書を、どんな気持ちで処理しているか。

娯楽とは本来、自分の金で楽しむものです。自分の稼ぎの中で背伸びをして、年に一度、大切な人に贈り物をする——人に許された分際は、本当はその程度のものかもしれません。

夜の街が、常識から外れて見える理由

夜の歓楽街が、どこか世間の常識から外れた場所に見えるのは、なぜでしょうか。ひとつの見方として、そこに「人の金で、毎日のようにクリスマスをしよう」とする人が集まっているから、という説明ができます。自分の金なら、人は加減を知ります。けれど、痛まない財布から出している限り、加減は効かない。痛みのないところに、節度は宿りにくいのです。

公私の線は、いちばん上から崩れる

経費とは、事業のために使う金です。その線引きは、本来とても単純なはずです。けれど、会社を私(わたくし)と混同しはじめた者にとって、その線は限りなく曖昧になる。自分の楽しみ、自分の見栄、自分の都合が、会社の金で賄われるようになる。そして、組織の規律は、いつもいちばん上から崩れます。痛まない金で楽しむ者が頂点にいる会社で、下の者だけが節度を守り続けることは、できません。

自分が損をしないと分かっているとき、人は驚くほど簡単に節度を失います。これは特別に強欲な人間の話ではなく、痛まない財布を持たされた、ごく普通の人間に起きることです。だからこそ、誰の金で楽しんでいるかを、ときどき自分に問う必要があります。
この記事は、交際接待や経費の使用そのものを否定するものではありません。事業に必要な交際は当然あり、その線引きは状況によります。ここで問うているのは、金額の多寡ではなく、「痛まない金で楽しむこと」が習い性になったとき、人と組織の節度に何が起きるか——という一点です。

COLUMN

その青年は、実家の大きな会社で、役員の椅子に座っていました。自分で勝ち取った椅子ではありません。生まれたときから、そこにあった椅子です。だから彼は、その座り心地のよさを、自分の実力だと取り違えていました。会社の金で夜の街に出て、人の財布の痛まなさで楽しむことを、当然の権利のように思っていた。そういう青年の前に、ひとりのシングルマザーの社員が現れます。経理にいた、聡い女でした。

女は、彼の見栄と、彼の退屈と、彼の満たされなさを、よく見ていました。手管というほど大げさなものではなく、ただ、彼がいちばん言ってほしい言葉を、いちばんいい間合いで差し出しただけです。あなたは本当はもっとできる人だ、家の名前に縛られているだけだ、と。痛まない金で生きてきた男にとって、その言葉は、痛まない酒よりもよく効きました。彼はやがて、妻と幼い我が子のいる家庭を捨てる決意を、固めていきます。

当然、まわりが見ていないはずがありません。ある日、代表者である父親に、彼は呼び出されました。父は、書類から目も上げずに言ったそうです。「で、お前、経理の女の子と出来てるらしいな。俺の孫と別居するらしいが——いつまで、そんな馬鹿が通じると思っている?」。考えてみれば、当たり前の話でした。離婚することになる妻も、その実家の会社に勤めている。相手の女も、同じ会社にいる。常識で少し考えれば、そんな筋書きに手を貸す者など、どこにもいないのです。

折しも、彼が描いていた絵——「実家の子会社の社長にしてもらって、外で好きにやる」という絵は、父がその会社を売却したことで、あっけなく崩れました。買い取ったのは、あるファンドです。新しい経営の担い手をなかなか見つけられず、ファンドが困っているところへ、彼は腰掛けのつもりで、するりと滑り込みました。そして、またしても同じ口を開くのです。「この会社を、僕のものにすれば、万事うまくいきますよ」と。

彼の口ぐせは、いつも同じでした。「僕に任せてもらえれば大丈夫」「僕が実家に話をつけて、買い戻しますよ」。できもしないことを、さも確実なことのように請け合う。その大言壮語は、かつて誰かを動かしたのと、寸分たがわぬものでした。女は、その言葉を信じました。いや、信じたふりをして、自分の取り分を計算していた、というほうが近いかもしれません。彼がうまくやれば、自分はいい地位で雇われ、息子との暮らしが保障される。女は、ぬか喜びの中で、次の冬の支度を思い描いていました。

けれど、ホラはいつまでもホラのままではいられません。激怒した父が、最後にすべてをひっくり返しました。「何を勝手に約束したのか知らんが、俺はそんなことに、一円も出さんぞ」。机の上のものが、音を立てて床に散らばったといいます。買い戻しの話は、もとより一度も存在しませんでした。ほどなく、愛人の女は実家の会社を解雇されます。無茶に無茶を重ねた末、公約のすべてがホラだと露見した青年は、ファンドからも解任されました。詰んだのです。

気がつけば、彼の足元には、もう何も残っていませんでした。実家では、堅実な兄が後継者になる路線で、とうに話が進んでいる。外で愛人を連れ歩いていた二年のあいだに、古巣に帰って座るつもりだった椅子は、見るからに頼りなく、ぐらついて見えました。ファンドに社宅として借りさせていたマンションは、取締役を退くと同時に、解約。痛まない金の蛇口が、ひとつ残らず締められていく。ついに、女と息子を食べさせる手立てを失った彼は、別れを切り出しました。

女は、泣きながら言いました。「生まれ変わったら、今度は、結婚しようね」。やさしい言葉に聞こえます。けれど、その意味は、やさしくありませんでした。——そう、「あなたが」生まれ変わったら。今度こそ、強い男に。痛まない金ではなく、自分の力で女と子を食わせられる、本物の雄に、生まれ変わってきたなら。そのときは、考えてあげてもいい、と。

背中に涙を見せながら、女は去っていきました。けれど、こちらに向けられていないその顔に、表情は、ありませんでした。何かを考え込んでいる風情だけは、あったといいます。次は、もっと強い雄を探さなければ。今度こそ、息子と自分を、最後まで守り抜いてくれる雄を。冬の街には、相変わらず、人の金で灯されたイルミネーションが、まばゆく光っていました。

あなたがいま楽しんでいるそれは、誰の金で成り立っていますか。

自分の稼ぎの中で背伸びをした楽しみには、後ろめたさがありません。痛みを引き受けているからです。けれど、痛まない金で続ける楽しみは、いつか必ず請求書が回ってきます。それを支払うのが自分でないなら、誰が支払っているのか——その顔を、思い浮かべられるかどうか。

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