水戸信用金庫——県都の信金が抱える、不良債権5.05%の意味
茨城県水戸市に本店を置く信用金庫の預貸率は42.4%、不良債権比率は5.05%。県都を地盤とする信金のやや高めの焦げ付き比率は、商業・サービスと近郊農業が混ざりあう県央経済の体温を映しています。
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茨城県の県都・水戸市に本店を置く水戸信用金庫は、地元で「水戸しん」と呼ばれています。預金1兆1,461億円、貸出金4,863億円、店舗66。水戸を核に、県央から県北にかけて広い支店網を持つ信用金庫です。
本店のある水戸市は、県庁の置かれた行政の中心であり、商業とサービス業の集まる県央の拠点です。同時に、市の周辺には近郊農業が広がり、米や野菜が首都圏向けに生産されています。茨城県全体で見ても、メロンの収穫量は日本一を誇ります。行政・商業・サービスと、近郊農業が一つの地域に混ざりあう——この県央らしい経済の混合が、水戸信用金庫の数字を読む鍵になります。
この信用金庫の預貸率は42.4%。集めた預金の4割あまりを貸出に回しています。運用型の信金ほど低くはなく、かといって高くもない中庸の水準です。注目したいのは、それと並ぶ不良債権比率5.05%という、やや高めの数字のほうです。
まず、数字を並べる
水戸信用金庫の預金は1兆1,461億円、貸出金は4,863億円、預貸率42.4%。自己資本比率は9.45%。不良債権比率は5.05%。
| 預金 | 1兆1,461億円 |
|---|---|
| 貸出金 | 4,863億円 |
| 預貸率 | 42.4% |
| 自己資本比率 | 9.45% |
| 不良債権比率 | 5.05% |
| 中小企業等向け貸出先 | 39,113先 |
| 店舗 | 66店 |
中小企業等への貸出先は約3万9千先。県都を中心に、幅広い業種に貸している信金です。
5.05%を、県央の経済の混合から読む
不良債権比率5.05%は、運用型の信用金庫(高知信用金庫0.47%)と比べれば、はっきり高い数字です。だが、これを「危うい」と読む前に、県都を地盤とする信金が貸す相手の幅を見ておきたいと思います。
水戸信用金庫が貸す相手は、県央の商業・サービス業の事業者や、周辺の近郊農業の担い手など、業種が幅広く混ざっています。県都を地盤とする信金は、地域の景気の影響を、商業やサービスといった内需型の業種を通じてまともに受けます。地方都市の商業やサービス業は、人口動態や消費の冷え込み、後継者不足といった構造的な課題を抱えがちです。そうした内需型の事業者に幅広く貸してきたことが、5.05%という比率の背にあると読むのが、実態に近いでしょう。
もっとも、不良債権比率には個別の大口先の事情や引当方針も絡むため、「地域経済の冷え込みがそのまま比率に出ている」と言い切ることはできません。ただ、県都の商業・サービスに幅広く貸す信金であれば、その焦げ付き比率には地域経済の体温が映りやすい、とまでは言えると思われます。県都を支えるということは、その地域の景気の浮き沈みを引き受けるということでもある——この数字は、そう読めます。
県都を地盤にするということ
水戸信用金庫は、県庁所在地という地域経済の中心に本店を構えています。県都を地盤にすることには、二つの面があります。一つは、行政・商業・サービスが集まり、貸す相手の母数が大きいこと。もう一つは、その地域の景気の影響を、内需型の業種を通じて直接受けやすいことです。5.05%という不良債権比率は、その後者の面——県都の景気を引き受ける立場——が表れた数字とも読めます。良くも悪くも、県都の経済とともにある信金だということです。
なぜ、こうなったのか——制度と地域
水戸信用金庫が地元の中小事業者に貸す信金であることの背景には、信用金庫という制度があります。信用金庫が融資できる相手は原則として「会員」に限られ、その資格は信用金庫法10条1項により、信用金庫の定める「地区」の中に住所や事業所がある人、その地区で働く人、と定められています。事業者には規模の制限もあり、大企業は会員になれません。
この枠のもとでは、貸す相手はおのずと地元の中小事業者や住民に絞られます。水戸信用金庫にとって、その「地元」とは、行政・商業・サービスと近郊農業が混ざる県央の地域経済そのものです。会員資格が地区内に絞られるという制度の枠が、結果として「県都の経済に貸す信金」という姿を形づくっています。
経営破綻した石岡信金の事業を引き受けた歴史
水戸信用金庫の成り立ちを語るうえで、ふれておかねばならない出来事がある。いまの水戸信用金庫は、経営が行き詰まった同じ茨城県内の信用金庫の事業を、受け皿として引き受けてきた。ここでは、公開された事実を中立に整理しておきたい。
2002年(平成14年)3月、茨城県石岡市に本店を置いていた石岡信用金庫が、財産をもって債務を完済できない状態にあるとして破綻し、預金保険法にもとづく金融整理管財人による業務・財産の管理を命じられた。その受け皿となったのが、県央に基盤を持つ水戸信用金庫だった。2002年9月24日、水戸信用金庫は石岡信用金庫の事業の全部を譲り受けた。この際、預金保険機構から水戸信用金庫に対して356億円の金銭の贈与が行われ、石岡信用金庫からは173億円の資産が買い取られた。破綻した信金の預金者と取引先を守るために、受け皿となる金融機関と公的な資金援助が果たした役割だった。
なお、水戸信用金庫は、この石岡信金の事業譲受のほかにも、2000年に龍ヶ崎信用金庫、2003年1月に土浦信用金庫と合併するなど、茨城県内の複数の信用金庫を集めてきた。こうした再編の歴史を経て、いまの県央を覆う支店網が形づくられた。一つの信金の破綻は、その地域の預金者や事業者を宙に浮かせかねない。それを受け止める受け皿があって、地域の金融は繋がれていく。水戸信用金庫が果たしてきたのは、そうした県央の受け皿としての役割でもあった。なお、ここで述べた事実は、金融庁・預金保険機構の公表など公開された記録にもとづく整理であり、個別の関係者の評価を下すものではない。
借り手にとっての意味
水戸信用金庫のように、県都の幅広い業種に貸してきた信用金庫は、地域の商業・サービス事業者にとって、地元の事情を知る相手になりえます。内需型の業種が抱える構造的な課題を承知のうえでリスクを取って貸す姿勢があるぶん、相談しやすい相手になりうる面があります。ただし、それでも審査は審査であり、預貸率の数字だけで「借りやすさ」を測れるわけではありません。預貸率という指標の読み方は、預貸率の読み方であらためて整理しています。
数字は、県都の体温を映す
運用益で稼ぐ信金もあれば、産業の厚い土地で高い預貸率を保つ信金もあります。そして水戸信用金庫のように、県都の幅広い業種に貸し、その地域の景気を引き受ける信金もあります。不良債権比率という一つの数字は、その金融機関がどんな土地で、どんな経済とともにあるかを映す鏡です。県都の信金が示す5.05%は、危うさの表れというより、地域経済の浮き沈みを引き受けてきた立場の表れと読めます。
本紀行には、同じ茨城県の茨城県信用組合も登場しています。茨城県信組は、県全域を地盤とする、信組としては破格の規模を持つ大型信組でした。県都・水戸を中心とする地区に根ざすこの水戸信用金庫と、県全域を束ねる茨城県信用組合(預貸率42.8%・中小先約4.2万)とを並べると、同じ茨城県でも、特定の地区を支える信金と、県域を束ねる大型信組とで、その広がりが異なることが見えてきます。県域の大型信組の姿は、茨城県信用組合の記事もあわせてどうぞ。
各地の金融機関には、それぞれの土地の経済と事情が刻まれた、それぞれの生き方があります。同じ茨城の地で、県内最大の地銀として幅広く貸す常陽銀行とあわせて読むと、同じ土地を支える地銀と信金の貸し方の違いが見えてきます。茨城県の他の金融機関とあわせて眺めたい方は、茨城県の地域金融機関のページもどうぞ。
水戸信用金庫は、地域に根ざした信用金庫です。借りる・備えるのどちらを考えるにしても、土台になるのは日頃の取引と信用。口座づくりから保証制度まで、どんな立場でも知っておきたい融資・銀行取引の基礎をまとめました。
- → 口座を育てる
- → 積立で信用をつくる
- → 与信枠の考え方
- → 創業支援保証とは
- → セーフティネット保証とは
執筆・監修:燧徹史(¥Today 編集責任者)
出典:預金・貸出金・預貸率・自己資本比率・不良債権比率・中小企業等向け貸出先=金融庁「中小・地域金融機関情報一覧」令和7年3月末。
水戸市・県央の経済(行政・商業・サービス・近郊農業)に関する記述=水戸市・茨城県・JA水戸の公開情報等。
信用金庫の地区・会員資格に関する記述=信用金庫法10条1項、および金融庁・全国信用金庫協会の公開資料等。
石岡信用金庫の破綻と水戸信用金庫による事業譲受の経緯(2002年3月の石岡信用金庫の破綻と金融整理管財人による管理、2002年9月24日の水戸信用金庫による事業の全部の譲受け、預金保険機構から水戸信用金庫への356億円の金銭贈与・石岡信用金庫からの173億円の資産買取り、および2000年の龍ヶ崎信用金庫・2003年1月の土浦信用金庫との合併)=金融庁・預金保険機構の公表および各種公開情報にもとづく。
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