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高知信用金庫——高知のゴールドマンサックスと呼ばれた信用金庫

預貸率9.3%という異様な数字。それは怠慢でも貸し渋りでもなく、人口減少地域の信用金庫が制度の枠のなかでたどり着いた、ひとつの合理的な生存戦略の結果だった。

ニホン銀行紀行 ・ 高知県

高知の金融業界に、ちょっと変わった通り名を持つ信用金庫がある。「高知のゴールドマンサックス」。世界有数の投資銀行になぞらえたその呼び名は、一信用金庫に対する評としては、いささか大げさにも聞こえる。だが、決算書を開くと、なるほどと思わされる数字がひとつ並んでいる。

高知県は、太平洋に面した温暖な土地だ。なす・しょうが・みょうがなどの施設園芸を中心とする農業、カツオの一本釣りで知られる水産業、そして四万十川や仁淀川といった自然を生かした観光が、県の経済を支えている。大きな製造業の集積は乏しく、人口減少は全国でも早い。この土地柄が、高知信用金庫の数字を読む鍵になる。

預貸率9.3%。預金として集めたお金のうち、貸出に回しているのは一割にも満たない。信用金庫は本来、地元の人や事業者からお金を預かり、地元に貸して回す相互扶助の組織だ。その本業の数字が9.3%というのは、控えめに言っても異様である。残りの九割はどこへ行ったのか——その答えに、この信用金庫の生き方が詰まっている。

数字を並べてみる

まず、絶対値から。高知信用金庫の預金は8,730億円、貸出金は813億円。自己資本比率は56.02%。当期純利益は119億円で、前年から14.6%増えている。預金規模だけ見れば堂々たる地域金融機関だが、貸出の少なさと自己資本の厚さが、一般的な信用金庫の姿とはかけ離れている。信用金庫の自己資本比率はおおむね10〜20%台。56%という数字は、業界の中でも突出している。

異様さは、同じ高知県の地方銀行と並べるとさらにくっきりする。

高知県内3行の比較(2025年3月期)
 高知信用金庫高知銀行四国銀行
種別信用金庫地方銀行地方銀行
預貸率9.3%74.9%71.2%
自己資本比率56.02%8.82%8.64%

同じ高知県で営業していても、地銀2行は預金の7割超を貸出に回している。高知信用金庫は9.3%。同じ土地の金融機関とは思えない落差がある。

では、貸さずに何で稼いでいるのか。119億円の当期純利益には、有価証券運用益が寄与している。集めた預金の大半を融資ではなく、債券や株式などの運用に投じ、そこから利益を上げている。「ゴールドマンサックス」という通り名は、この運用主導の収益構造を言い当てたものだ。からかい半分の評ではあるが、的は外していない。

なぜ、こうなったのか

ここで「貸す気のない信用金庫だ」と結論を急ぐと、本質を見誤る。この姿は、高知という土地の事情と、信用金庫という制度の制約が重なって生まれた、ひとつの合理的な帰結だからだ。

まず、制度の話から。信用金庫は、誰にでも貸せるわけではない。融資できる相手は原則として「会員」に限られ、その会員になれる資格が法律で定められている。信用金庫法10条1項は、会員になれる者を、信用金庫の「地区」の中に住所や事業所がある人、その地区で働く人、と画している。さらに事業者には規模の制限があり、一定以上の大企業は会員になれない。

ここは正確に書いておきたい。よくある誤解は「信用金庫は営業エリアの外に出られない」というものだが、これは厳密には違う。金融庁の金融審議会ワーキング・グループの資料でも整理されているとおり、「地区」とは営業できる範囲そのものではなく、会員になれる資格を画する地理的範囲である。地区の外との取引が一切できないわけではない。ただ、会員資格が地区内の中小事業者や住民に絞られる結果として、融資先は実質的に地元の中小事業者・個人に限られていく。信用金庫の原型が、地縁のなかで相手の人物を見て無担保で貸す、対人の信用にあったことを思えば、これは制度の本来の姿でもある。

問題は、その「地元」が縮んでいることだ。高知県は全国でも人口減少が著しい地域のひとつ。会員になれる地元の中小事業者や住民が減れば、貸せる相手も構造的に細っていく。借り手が縮むなかで、それでも無理に地区内へ融資を積み増せばどうなるか。限られた地域に資産を集中させることは、ポートフォリオの管理や経営の健全性という観点から、むしろリスクになる。先の金融庁ワーキング・グループも、地区内に事業を封じ込めることの弊害に問題意識を示している。

この制約のなかで、高知信用金庫が選んだ生存の最適解は、興味深いものだった。自らが県外に出ていく(店舗を広げる)のではなく、資金を県外・国外に出す——つまり有価証券運用を通じて、地元で貸し切れない資金を外の世界に投じる、という道だ。店舗は26店で四国の信用金庫としては最大規模だが、その多くは高知市内に集まり、県外に店舗はない。体は地元に置いたまま、お金だけが県境を越えて働きに出ている。

こう読み解くと、預貸率9.3%という数字の意味が変わってくる。それは怠慢や貸し渋りの表れというより、人口減少地域の信用金庫が制度の枠のなかでたどり着いた、ひとつの合理的な生き方の結果なのだと読み取れる。「高知のゴールドマンサックス」は、そう考えると、案外まっとうな勲章なのかもしれない。

借りたい人にとっては、どう映るか

ここで気をつけたいのは、預貸率が低いからといって「借りやすい」とは限らない、ということだ。むしろ逆のことすら起こりうる。

運用で十分に稼げている金融機関は、無理に貸出を増やす動機が薄い。貸すとしても、返済の確実な先を選ぶ余裕がある。となると、借り手にとってはむしろハードルが高い場合がある。「お金が余っていそうだから貸してくれるだろう」という素朴な期待は、運用型の金融機関には通用しないことがある。預貸率の数字をどう読むかについては、預貸率の読み方であらためて整理しているので、あわせて読んでほしい。

大事なのは、ひとつの数字を鵜呑みにせず、その金融機関がなぜその数字になっているのか、事情まで読みにいくことだ。高知信用金庫の9.3%は、その典型例といえる。

人口が減る時代の、ひとつの生き方

地域から人が減り、貸せる相手が細っていく。これは高知だけの話ではなく、日本中の地域金融機関がこれから直面する現実だ。そのなかで、地元に体を置いたまま資金だけを外で働かせるという高知信用金庫の選択は、賛否はあれど、ひとつの解答ではある。

正しいか正しくないかではなく、「なるほど、こういう生き方もあるのか」と読む。各地の金融機関には、それぞれの土地の事情が刻まれた、それぞれの生き方がある。高知県の他の金融機関とあわせて眺めたい方は、高知県の地域金融機関のページもどうぞ。

出典:預金・貸出金・預貸率・自己資本比率・不良債権比率=金融庁「中小・地域金融機関情報一覧」令和7年3月末。
当期純利益・有価証券運用益=高知信用金庫2025年3月期決算(同金庫発表・報道)。
店舗網=高知信用金庫公式店舗一覧。
信用金庫の地区・会員資格に関する記述=金融庁 金融審議会「協同組織金融機関のあり方に関するワーキング・グループ」資料『協同組織金融機関の「地区」のあり方』(2008年6月20日・神吉正三)。
高知県の農業・水産業・観光に関する記述=高知県公開情報・各種公開情報。

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