天草信用金庫——天草の島々で、不良債権8.98%を抱える信金は誰に貸すか
預貸率49.7%、不良債権比率8.98%、自己資本比率20.57%。天草市に本店を置く天草信用金庫。天草諸島に根ざす信金が、高い焦げ付きと厚い自己資本を抱える姿を、離島という土地から読みます。
熊本県天草市に本店を置く天草信用金庫は、地元で「あまくさしんきん」と呼ばれる信用金庫です。預金1,455億円、貸出金723億円、店舗11。熊本県南西部、天草諸島を地盤とする信用金庫です。
本拠地の天草は、熊本県の南西、有明海と東シナ海に浮かぶ大小の島々からなる地域です。かつてキリシタンの歴史を刻み、天草四郎ゆかりの地として知られ、いまも﨑津集落が世界文化遺産「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」の一角をなします。漁業(車エビ・真鯛などの養殖を含む)、農業、観光が主な産業ですが、本土と橋でつながりつつも、全国でもとりわけ人口減少と高齢化が著しく進む地域です。この、過疎の進む離島という土地柄が、天草信用金庫の数字を読む鍵になります。
数字の面で目を引くのは、不良債権比率8.98%という高さと、自己資本比率20.57%という際立った厚みの組み合わせです。あわせて預貸率49.7%という水準があります。この三つを、天草という離島から読みます。
まず、数字を並べる
天草信用金庫の預金は1,455億円、貸出金は723億円、預貸率49.7%。自己資本比率は20.57%と際立って厚い。不良債権比率は8.98%と高い。中小企業等向けの貸出先は7千件を超えます。
| 預金 | 1,455億円 |
|---|---|
| 貸出金 | 723億円 |
| 預貸率 | 49.7% |
| 自己資本比率 | 20.57% |
| 不良債権比率 | 8.98% |
| 中小企業等向け貸出先 | 7,735件 |
| 店舗 | 11店 |
不良債権8.98%・自己資本20.57%。高い焦げ付きを、際立つ守りで受け止める。
8.98%と20.57%を、天草の離島から読む
不良債権比率8.98%という高さと、自己資本比率20.57%という際立った厚み。この対照的な二つの数字の組み合わせは、過疎の進む離島で、地域に向き合いながら、極めて厚い守りでリスクを受け止める信金の姿を、はっきりと示しています。
天草信用金庫が貸す相手は、天草諸島の中小・零細な事業者と個人です。漁業・養殖に連なる事業者、農業、地域の商業・建設・サービス業、観光関連が、その融資先に含まれると考えられます。本土から離れた離島で、人口減少と高齢化が著しく進む天草では、漁業や農業の担い手の高齢化、後継者不足、水産・農産物の相場変動といった事情が、借り手の体力に重くのしかかる。不良債権比率8.98%という高さは、こうした厳しい条件のなかで、それでも島の事業者に貸し続けてきたことの帰結と読めます。本土の物差しで見れば高いこの数字は、「危ない信金」と短絡すべきものではなく、離島の経済を支える信金の宿命に近いものと読むほうが実態に近いと思われます。
そして注目すべきが、自己資本比率20.57%という際立った厚さです。これだけ高い焦げ付きを抱えながらも、それを十分に吸収できるだけの備えを、長い年月をかけて積んできた。過疎の離島で、外の銀行が踏み込みにくい場所で、島の事業者に資金を流し続けるために、損失への備えを極めて厚く固めてきたと読めます。預貸率が49.7%にとどまり半分強を運用に回しているのも、貸し先の限られた離島で無理をしない堅実さの表れです。もちろん、これらの比率には個別の大口先の事情や引当方針も絡むため断定はできませんが、過疎の進む天草という離島を抜きに、この対照的な数字は読めません。
なぜ、こうなったのか——制度と地域
天草信用金庫が地元の中小事業者に貸す信金であることの背景には、信用金庫という制度があります。信用金庫が融資できる相手は原則として「会員」に限られ、その資格は信用金庫法10条1項により、信用金庫の定める「地区」の中に住所や事業所がある人、その地区で働く人、と定められています。事業者には規模の制限もあり、大企業は会員になれません。
この枠のもとでは、貸す相手はおのずと地元の中小事業者や住民に絞られます。天草信用金庫にとって、その「地元」とは、過疎の進む天草諸島の地域経済そのものです。会員資格が地区内に絞られるという制度の枠のなかで、外の銀行が踏み込みにくい離島の経済を支え、そのリスクを厚い自己資本で受け止めるという道を、この信金は選んできたと読めます。
同じ熊本で、県の地銀と並べてみる
本紀行には、同じ熊本県の熊本銀行も登場しています。熊本銀行は、福岡のふくおかフィナンシャルグループに属する熊本の銀行でした。過疎の離島・天草に根ざし厚い守りで貸す天草信用金庫(不良債権8.98%・自己資本20.57%)と、グループの一員として県を相手にする熊本銀行とを並べると、同じ熊本県でも、離島の経済を単独で支える信金と、大きなグループに属する銀行とで、立場も役割も大きく異なることが見えてきます。県の銀行の姿は、熊本銀行の記事もあわせてどうぞ。
借り手にとっての意味
離島に根ざす信用金庫は、島の事業者にとって、最も身近な——ときに数少ない——本格的な貸し手です。島の産業の事情を知り、本土の銀行が踏み込みにくい場所で貸してきた経験は、島の事業者にとって心強いものです。厚い自己資本は、その信金が腰を据えて島に存続し続けられる備えでもあります。高い不良債権比率は、離島の条件のなかで貸し続けてきたことの裏返しでもあります。預貸率という数字の読み方は、預貸率の読み方であらためて整理しています。
数字は、天草の風土を映す
不良債権比率8.98%という高さと、自己資本比率20.57%という際立った厚みは、過疎の進む天草の島々に根ざし、高い焦げ付きを厚い守りで受け止めながら島の事業者に貸し続けてきた信金の姿を映しています。本土で積極的に貸す金融機関もあれば、天草信用金庫のように離島で備えを極めて厚くする信金もある。数字は、その金融機関がどんな風土のなかで、誰に向き合ってきたかを語ります。天草信用金庫の数字は、天草の島々を支える信金の、いまの記録です。
各地の金融機関には、それぞれの土地の風土と事情が刻まれた、それぞれの生き方があります。熊本県の他の金融機関とあわせて眺めたい方は、熊本県の地域金融機関のページもどうぞ。
出典:預金・貸出金・預貸率・自己資本比率・不良債権比率・中小企業等向け貸出先件数=金融庁「中小・地域金融機関情報一覧」令和7年3月末(預貸率は貸出金÷預金で算出)。
天草信用金庫の地盤(天草市本店、熊本県南西部・天草諸島を地盤とする信用金庫であること)に関する記述=天草信用金庫および各種公開情報にもとづく。
天草の地理と歴史(有明海・東シナ海の島々、キリシタンの歴史と天草四郎、﨑津集落の世界文化遺産、漁業・養殖・農業・観光、人口減少・高齢化)に関する記述=各種公開情報。
自己資本比率・預貸率の一般的な意味に関する記述=一般的な金融制度の説明にもとづく。
熊本銀行の位置づけ=各種公開情報および本紀行既出記事。
信用金庫の地区・会員資格に関する記述=金融庁 金融審議会「協同組織金融機関のあり方に関するワーキング・グループ」資料『協同組織金融機関の「地区」のあり方』(2008年6月20日・神吉正三)。