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気仙沼信用金庫——震災を越えた港町の信金は、なぜ自己資本を厚く積むのか

預貸率38.2%、自己資本比率32.07%、店舗11。気仙沼市に本店を置く気仙沼信用金庫。東日本大震災で甚大な被害を受けた三陸の港町に根ざし、厚い自己資本と低い預貸率で「守る」ことを選んだ信用金庫。その数字と歴史を読む。

ニホン銀行紀行 ・ 宮城県

宮城県の北東端、三陸海岸の港町・気仙沼市に、気仙沼信用金庫の本店はある。地元で「けせんぬましんきん」と呼ばれる、店舗11の小さな信用金庫だ。気仙沼を中心に、三陸沿岸の限られた地域に根ざして、地元の水産業と人々の暮らしを支えてきた。

気仙沼は、日本でも有数の漁港を抱える町だ。サンマ、カツオ、メカジキ、フカヒレ——遠洋漁業の基地として、また水産加工の集積地として、海とともに生きてきた。漁船、水産加工場、製氷、運送、そしてそれを支える商店や飲食店。町の経済は、海の恵みを軸に回ってきた。その港町に、気仙沼信用金庫は深く根を張っている。

だが、この町は、2011年の東日本大震災で、津波による壊滅的な被害を受けた。港も、水産加工場も、市街地も、流された。気仙沼信用金庫もまた、その渦中にあった。震災から十数年、港町とともに歩んできたこの信金の数字には、ある際立った特徴がある。自己資本比率32.07%という、突出した厚さだ。なぜ、これほど資本を厚く積むのか。数字とともに読みにいく。

数字を並べてみる

まず、絶対値から。気仙沼信用金庫の預金は1,320億円、貸出金は504億円。預貸率は38.2%で、預金の4割ほどしか貸出に回していない。自己資本比率は32.07%と極めて厚く、不良債権比率は6.47%とやや高い。店舗数は11、中小企業等への貸出残高は383億円にのぼる。

目を引くのは、自己資本比率32.07%という突出した厚さと、預貸率38.2%という低さの組み合わせだ。一般的な金融機関の自己資本比率が1割前後であることを思えば、3割を超えるこの数字は際立っている。集めた預金の4割ほどしか貸さず、残りを手厚い資本と運用で抱える——これは、「貸す」ことより「守る」ことに軸足を置いた経営の表れだと読める。同じ三陸の被災地に根ざす石巻信用金庫も、自己資本比率31.74%・預貸率45.6%と、似た姿を持つ。

三陸沿岸の二つの信用金庫(令和7年3月末)
 気仙沼信用金庫石巻信用金庫
本店気仙沼市石巻市
預金1,320億円1,831億円
預貸率38.2%45.6%
自己資本比率32.07%31.74%
不良債権比率6.47%6.18%

同じ三陸の被災地沿岸に立つ二つの信金は、よく似た数字を持つ。低い預貸率、突出して厚い自己資本、やや高い焦げ付き。震災を経た港町の信金が選んだ「守り」の形が、二行に共通して表れている。

港町とともに、震災を越えて

気仙沼信用金庫は、三陸の港町・気仙沼に根ざし、長く地元の水産業と暮らしを支えてきた信用金庫だ。漁業と水産加工という、海の恵みに依る産業は、豊漁と不漁、魚価の変動、燃料代の高騰といった波に絶えずさらされる。気仙沼信用金庫は、その波の大きい産業に寄り添いながら、堅実な経営を続けてきた。

2011年の東日本大震災は、この町に壊滅的な打撃を与えた。津波は港と市街地を呑み込み、多くの事業者が事業の基盤そのものを失った。気仙沼信用金庫は、被災した取引先の再建を支えながら、自らも復興の歩みをともにしてきた。震災という巨大な不確実性を経験した港町の金融機関にとって、厚い自己資本は、次に何が起きても地域を支え続けるための備えになる。突出した自己資本比率の背景には、こうした経験があると読める。

32%の資本と、38.2%の貸出を読む

気仙沼信用金庫の自己資本比率32.07%という厚さと、預貸率38.2%という低さは、一体のものとして読める。波の大きい水産業を地盤とし、震災という極限の事態を経験した港町で、「何があっても倒れない」ことを最優先にした経営——その選択が、この数字に表れている。集めた預金を無理に貸し込むのではなく、貸出を抑え、資本を厚く積み、運用と合わせて備える。

不良債権比率6.47%というやや高い数字は、漁業・水産加工という変動の大きい産業に深く関わり、震災の影響も抱えてきたことの裏返しだ。だが、それを32%という厚い自己資本がしっかりと吸収できる構えになっている。よく貸すことを競うのではなく、地域が次の困難に直面したときに、なお地域を支え続けられる体力を保つ——それが、この港町の信金の選んだ道だと読める。高知信用金庫のような運用特化とも、よく貸す都市型信金とも違う、被災地ならではの「守り」がここにある。預貸率という数字をどう読むかについては、預貸率の読み方もあわせてどうぞ。

三陸の海とともに

気仙沼信用金庫の数字は、海とともに生きる三陸の港町・気仙沼という土地と、震災を越えて「守る」ことを選んだ信金の歩みの、両方を映している。波の大きい水産業に寄り添い、未曾有の震災を経験し、それでも地域とともにあり続けるために、厚い自己資本を積み、貸出を抑えて備える。よく貸すことだけが地域金融の役割ではない——その一つの答えが、32%の資本と38.2%の貸出に表れている。

銀行や信用金庫の数字は、その土地の経済と、その金融機関の生き方を映す鏡だ。気仙沼信用金庫を見れば、海とともにある港町と、震災を越えて守りに徹する信金の姿が浮かぶ。預貸率という数字の読み方については、預貸率の読み方へ。宮城県の他の金融機関と並べて眺めたい方は、宮城県の地域金融機関のページへ。

預貸率とは 預貸率(よたいりつ)とは、金融機関の貸出金残高を預金残高で割った比率。預かった資金のうち、どれだけを貸出に回しているかを示す。預貸率が低い金融機関は、相対的に融資先を求めている可能性をうかがう一つの目安になる。ただし、有価証券運用や厚い自己資本で備えることを選ぶ金融機関は、預貸率が低くても融資に消極的とは限らない。 → くわしくは「預貸率の読み方

執筆・監修:燧徹史(¥Today 編集責任者)

出典:預金・貸出金・預貸率・自己資本比率・不良債権比率・中小企業等向け貸出残高・店舗数=金融庁「中小・地域金融機関情報一覧」令和7年3月末(信用金庫の計数は百万円単位を億円に換算。預貸率は貸出金÷預金で算出)。石巻信用金庫の数値も同出典。
沿革・地域(三陸の港町・気仙沼市に根ざす信用金庫であること、気仙沼が遠洋漁業の基地・水産加工の集積地であること、2011年の東日本大震災で津波による甚大な被害を受けたこと、被災した取引先の再建を支えながら復興の歩みをともにしてきたこと)に関する記述=気仙沼信用金庫および各種公開情報にもとづく。
気仙沼の地理・産業(三陸海岸、遠洋漁業、水産加工、フカヒレなどの特産)に関する記述=各種公開情報。

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