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近畿産業信用組合——全国一の規模を持つ信組は、どんな成り立ちか

預金1.6兆円、貸出金1.2兆円、預貸率74.9%。全国の信用組合で預金・貸出ともに最大規模の近畿産業信用組合。「きんさん」と呼ばれるこの広域信組の数字を、いくつもの信用組合を引き継いできた成り立ちから読みます。

ニホン銀行紀行 ・ 大阪府

大阪市に本店を置く近畿産業信用組合は、地元で「きんさん」と呼ばれる信用組合です。預金1兆6,079億円、貸出金1兆2,048億円、店舗33。預金積金・貸出金の残高は、全国の信用組合のなかで最大規模にあたります。信用組合は本来、地域や組合員に密着した小規模な存在であることが多いなかで、これだけの規模を持つのは異例です。この大きさが、どんな成り立ちから生まれたのか——そこに、この信組を読む鍵があります。

近畿産業信用組合の規模を理解する鍵は、いくつもの信用組合を引き継いできた歴史にあります。一つの地域でこつこつ育った信組ではなく、複数の信用組合の事業を承継することで、現在の広域・大規模な姿になりました。その承継の歴史には、関西を中心とする移民・定住者コミュニティの相互金融という、ひとつの系譜が関わっています。

まず、数字を並べる

近畿産業信用組合の預金は1兆6,079億円、貸出金は1兆2,048億円、預貸率74.9%。自己資本比率は11.32%、不良債権比率は1.05%。中小企業等向けの貸出先は1万2,142件、店舗は33にのぼります。

近畿産業信用組合(令和7年3月末)
預金1兆6,079億円
貸出金1兆2,048億円
預貸率74.9%
自己資本比率11.32%
不良債権比率1.05%
中小企業等向け貸出先12,142件
店舗33店

預金1.6兆円・店舗33。信用組合としては全国最大規模の、広域に展開する信組です。

芸能の職域から、事業承継へ——成り立ち

近畿産業信用組合の歴史は、その規模からは意外なほど小さな出発点から始まります。1953年(昭和28年)、京都で芸術・芸能関係者を対象とする職域の信用組合として創業しました。前身は日本芸術家信用組合で、その後、日芸信用組合、京都シティ信用組合と名称を変えながら歩んできた、もともとは特定の職域のための小さな信組でした。

この信組が現在の規模になったのは、2000年代に入ってからの一連の事業承継によります。2001年、信用組合大阪商銀の事業を譲り受け、名称を「近畿産業信用組合」に変更。2002年には信用組合京都商銀、信用組合関西興銀の事業を譲り受け、本店を大阪市に移しました。その後も長崎商銀信用組合との合併などを重ねています。これらの事業承継を通じて、近畿産業信用組合は全国有数の規模へと拡大しました。なお、承継した信用組合は資本的には別の組織であり、近畿産業信用組合が事業(取引先や店舗網)を引き継ぐかたちで再編が進められたものです。

移民・定住者コミュニティの相互金融という系譜

近畿産業信用組合が承継した大阪商銀・京都商銀・関西興銀といった信用組合は、いずれも「商銀」「興銀」と呼ばれる、在日コリアン(在日韓国人)の相互扶助を目的として設立された民族系の信用組合でした。戦後、日本で暮らす在日コリアンの商工業者は、一般の金融機関からの融資を受けにくい事情があったとされ、自分たちのコミュニティのなかで資金を融通し合うために、各地に商銀・興銀が設立されていきました。これは、移民・定住者のコミュニティが、自分たちの相互金融の仕組みを持つという、世界各地に見られる成り立ちのひとつです。

これらの商銀・興銀は、1990年代から2000年代にかけての金融再編のなかで、破綻や事業譲渡が相次ぎました。近畿産業信用組合は、その受け皿のひとつとして、大阪商銀・京都商銀・関西興銀などの事業を引き継ぎました。こうして、もとは芸能の職域信組だった組織が、在日コリアン系の相互金融の系譜を引き継ぐ広域信組へと姿を変えていったのです。なお、近畿産業信用組合は2004年に在日韓国人信用組合協会を退会しており、現在は協会に加盟する商銀そのものではありません。承継の歴史を通じて、移民・定住者コミュニティの相互金融という系譜を内に含んだ、広域の信用組合として営まれています。

74.9%を、規模と成り立ちから読む

近畿産業信用組合の預貸率74.9%は、本紀行で見てきた他の信用組合と比べても、かなり高い水準です。職域・業域の信組が預貸率2割前後だったのとは対照的に、近畿産業信用組合は集めた預金の7割以上を貸出に回しています。

この高い預貸率は、近畿産業信用組合が中小・零細事業者向けの貸出を中心とする、広域の地域金融機関として営まれていることの表れと読めます。承継してきた商銀・興銀は、いずれもコミュニティの商工業者への融資を本業としてきた信用組合でした。その事業を引き継いだ近畿産業信用組合もまた、中小事業者への貸出を中心に据えています。中小企業等向け貸出先が1万2千件を超え、店舗が33にのぼることも、この信組が広い範囲の事業者に貸す金融機関であることを示しています。地域や特定の職域に資金を眠らせるのではなく、中小事業者の資金需要に積極的に応える——この姿勢が、預貸率74.9%という高い水準に映っていると読めます。不良債権比率1.05%という水準は、これだけの規模で中小事業者に貸しながら、抑えられた数字といえます。自己資本比率11.32%という、協同組織として基準を満たす水準とあわせて、規模を生かして手堅く経営してきた姿がうかがえます。

近畿産業信用組合が示すのは、信用組合という小さな器が、事業承継を重ねて全国一の規模になったという、特異な成り立ちです。芸能の職域から始まり、移民・定住者コミュニティの相互金融の系譜を引き継ぎ、いまは中小事業者に広く貸す広域信組となっている。預貸率74.9%という高さは、その積極的な貸出姿勢の表れと読めます。

信用組合という、相互扶助の協同組織

近畿産業信用組合は、中小企業等協同組合法などにもとづく協同組織の信用組合です。信用組合は、組合員のための相互扶助を目的とし、組合員資格や地区が定められています。本紀行で見てきた医師や職員の職域信組が「職業」で組合員を画したのに対し、近畿産業信用組合は、承継してきた信用組合の系譜を引き継ぎながら、中小事業者を中心とする広い範囲を組合員としています。相互扶助のために金融機関を持つという信用組合の原点は、地域の信組も、職域の信組も、移民・定住者コミュニティの相互金融も、共通しています。その原点が、承継を重ねるなかで全国一の規模にまで育った——それが、近畿産業信用組合という信組の姿です。

借り手にとっての意味

近畿産業信用組合は、組合員資格や地区の定めのもとで、主に大阪を中心とする地域の中小事業者や個人に向き合う信用組合です。信用組合である以上、組合員資格や地区といった枠はありますが、職域・業域の信組のように対象が特定の職業に絞られているわけではなく、広い範囲の中小事業者を対象としています。高めの預貸率は、中小事業者への積極的な貸出姿勢の表れとも読めますが、それが個別の融資の可否を保証するものではありません。預貸率という数字の読み方は、預貸率の読み方であらためて整理しています。

数字は、組織の成り立ちを映す

預金1.6兆円・全国最大規模という大きさと、預貸率74.9%という高さは、芸能の職域から始まり、移民・定住者コミュニティの相互金融の系譜を含むいくつもの信用組合を引き継いで、中小事業者に広く貸す広域信組となった近畿産業信用組合の姿を映しています。一つの地域で育った信組もあれば、事業承継を重ねて規模を広げた信組もある。数字は、その金融機関がどんな成り立ちで、誰に向き合ってきたかを語ります。近畿産業信用組合の数字は、信用組合という協同組織のもうひとつのかたちの記録です。

各地の金融機関には、それぞれの成り立ちと事情が刻まれた、それぞれの生き方があります。大阪府の他の金融機関とあわせて眺めたい方は、大阪府の地域金融機関のページもどうぞ。

預貸率とは 預貸率(よたいりつ)とは、金融機関の貸出金残高を預金残高で割った比率。預かった資金のうち、どれだけを貸出に回しているかを示す。預貸率が低い金融機関は、相対的に融資先を求めている可能性をうかがう一つの目安になる。ただし、有価証券運用を主体とする金融機関は、預貸率が低くても融資に積極的とは限らない。 → くわしくは「預貸率の読み方

執筆・監修:燧徹史(¥Today 編集責任者)

出典:預金・貸出金・預貸率・自己資本比率・不良債権比率・中小企業等向け貸出先件数=金融庁「中小・地域金融機関情報一覧」令和7年3月末(預貸率は貸出金÷預金で算出)。
近畿産業信用組合の沿革(1953年に京都で芸術・芸能関係の職域信用組合として創業、前身は日本芸術家信用組合・日芸信用組合・京都シティ信用組合、2001年に信用組合大阪商銀の事業を譲り受け名称を近畿産業信用組合に変更、2002年に信用組合京都商銀・信用組合関西興銀の事業を譲り受け本店を大阪市に移転、長崎商銀信用組合との合併、2004年に在日韓国人信用組合協会を退会、全国の信用組合で最大規模であること、愛称「きんさん」)に関する記述=近畿産業信用組合の公開情報、Wikipedia、Weblio等にもとづく。
商銀・興銀が在日コリアンの相互扶助を目的に設立された民族系の信用組合であること、金融再編のなかで破綻・事業譲渡が相次ぎ近畿産業信用組合がその事業を承継したことに関する記述=Wikipedia、Weblio等の公開情報にもとづく。
信用組合の制度(中小企業等協同組合法等にもとづく協同組織であり、組合員資格と地区が定められること)に関する記述=関係法令および金融庁等の公開資料にもとづく一般的な説明。

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