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全東信・1151億円の粉飾破綻——都市銀行が退き、地銀と信組だけが残された

クレジットカード決済代行の全東信が、負債約1151億円を抱えて破産した。20年に及んだとされる粉飾、金融債権者63社、そしてその頂点に立っていたのは都市銀行ではなく、地方銀行と信用組合だった。事件の手口から与信のヒエラルキーまで、四つの章に分けて読み解く。

ニホン銀行紀行 特集 ・ 全東信(大阪市中央区)と債権者金融機関

2026年7月6日、大阪地方裁判所は、クレジットカード決済代行を手がける株式会社全東信(大阪市中央区)の破産手続き開始を決定した。負債総額は約1151億円で、2026年に入って最大規模の倒産となった。飲食店を中心とする加盟店のカード売上を、カード会社より先に立て替えて入金する「早期決済代行」を売りに、最盛期には加盟店20万店を超える決済網を築いた会社の、突然の消滅だった。

だが、この破綻がただの資金繰り倒産でないことは、すぐに明らかになった。東京商工リサーチ(TSR)の取材によれば、全東信は少なくとも20年前から粉飾決算を続けていたとみられ、帳簿上は約24億8000万円の純資産があるように見せかけていたが、粉飾を是正すれば実質は約605億円の債務超過だった可能性がある。そして、その資金を貸していた金融債権者は63社、貸付総額は約1130億円。そのリストの頂点にいたのは、メガバンクではなかった。

この記事は、全東信の破綻を四つの章に分けて読む。粉飾の手口をどう読むか。なぜ債権者リストに都市銀行がいないのか。なぜカード債権は市場で流動化できなかったのか。そして、こうした粉飾がなぜ現代ではもはや続けられないのか。各章は下の目次から開くことができる。以下、事実にもとづく分析に加え、刑事手続きが確定していない現時点での筆者の見立て(推論)を含む。推論部分はその旨がわかるように述べる。

CHAPTER 1粉飾の手口と、ニュースの読み方

TSRが報じた粉飾の数字は、四つの項目からなる。順に、預金残高の水増しが約170億円架空債権の計上が約154億円実質的に無価値な営業権(のれん)の過大計上が約88億2000万円、そして加盟店に対する未払立替精算金の未計上が約217億円。この四つを並べたとき、ニュースの読み方には順序がある。

「結果」と「手口」を分けて読む

まず押さえたいのは、預金残高の水増し約170億円は粉飾の「結果」であって、「手口」ではないということだ。預金は、それ自体を水増しする独立の技術があるわけではない。貸借対照表の左側(資産)で何かを膨らませれば、右側との辻褄を合わせるために、どこかの資産科目が実態から乖離する。その乖離が、たまたま「預金」という最も疑われにくい科目に寄せられていた、と読むのが自然だ。ではその乖離を生んだ「手口」は何か。それが、架空債権の計上と、のれんの過大計上である。この二つの手口は、いずれも日本の企業犯罪史に名を残す先行事件を補助線にすると、格段に理解しやすい。

架空債権の計上——IXI事件という教科書

架空債権の計上、より正確には架空循環取引という手口の典型例が、2007年に破綻したIXI(アイ・エックス・アイ)事件だ。大阪の東証2部上場のシステム開発会社だったIXIは、売上高を2004年3月期の113億円から、2006年3月期には403億円へと異常に急伸させていた。だが、その売上の8割から9割は架空だった。

手口の核心は、商品価値のないCD-ROM約400枚を、約300億円の価値があると偽って計上していたことにある。「販売予定」のディスクを在庫(資産)に、「販売済み」のディスクを売上高に計上し、決算書を作る。だが後にディスクの中身を確認すると、どのOSでもアプリでも作動しない、意味不明のデジタル情報が書き込まれているだけだった。無価値なものに値札をつけ、複数の企業の間で帳票と入出金の形式だけを整えて転がす。商品は書類上を転々とするだけで、起点の企業に戻ってくる。これが循環取引であり、IXIはこの手口で売上と債権を膨らませ続けた。

循環取引とは 複数の企業が共謀し、商品やサービスを実質的な価値の増加を伴わないまま帳簿上で転売し合い、売上を水増しする取引。起点の企業に商品が還流する「Uターン取引」が典型で、経由する各社が手数料を上乗せしていく。取引自体は形式的に成立するため回転期間などの財務指標が壊れにくく、外形からは検出しにくいのが特徴とされる。

IXI事件は、当時「架空循環取引」という言葉を世に広く知らしめた。そして経済誌は、この事件を、IXIを買収しては手放していった親会社たちの間の「ババ抜きゲーム」と評した。値札のついた無価値な資産が、企業から企業へと押し付けられていく——この構図は、後述する全東信の債権者の話にも重なってくる。

のれんの過大計上——オリンパス事件という教科書

もう一つの手口、営業権(のれん)の過大計上を理解する教科書が、2011年に発覚したオリンパス事件だ。オリンパスは1990年代の財テク投資で約1000億円規模の含み損を抱え、それを「飛ばし」——連結対象外のファンドに含み損のある金融商品を簿価で買い取らせ、帳簿から切り離す手法——で10年以上隠し続けた。

問題は、飛ばした損失をどこかで解消しなければならなかったことだ。そこでオリンパスはM&Aを使った。簿外ファンドが国内ベンチャー3社を安値で仕込み、それをオリンパスが著しい高値で買い取る。実体の乏しい3社を計約700億円超で買収し、買収額と企業価値の差額を「のれん」として計上した。英国の医療機器メーカー、ジャイラスの買収では、優先株の買戻し代金など約412億円をのれんに積んだ。こうして生まれた架空ののれんを10年かけて償却すれば、損失を薄く延ばして秘密裏に処理できる——それが狙いだった。

ここで、事件の性質として見落とせない点がある。第三者委員会の調査では、オリンパスの本業では架空売上や在庫の水増しは認められていない。損失の出所はあくまで財テク投資の失敗であり、内視鏡で世界的シェアを握る実業そのものは健全に利益を上げていた。飛ばしと、のれんによる穴埋め。この二段構えが、オリンパス事件の骨格である。

ただし、ここからは筆者の見立てになるが、オリンパスの「架空ののれんを10年で償却して収束させる」というスキームは、実のところ金融会社にしか通用しない発想だったとも読める。含み損を金融商品として簿価で凍結し、満期や解約まで放置しておける間はよかった。だが解消の局面では、ファンドの償還や融資返済が満期・解約の単位でばらばらに迫ってくる。そのたびに資金を還流させる取引を起票せねばならず、覆い隠せない機会が周期的に訪れる。実際、高値買収したのれんは翌期にはほぼ全額の減損を迫られた。損失を細切れに散らしてしまった以上、単年度で消しきれない——だとすれば、小型の子会社を複数作って数年おきに畳んでいく方が、まだ露見しにくかったのではないか。

全東信の数字を、逆算で読む

この二つの手口を頭に入れて、全東信の数字に戻る。架空債権約154億円(IXI型)と、のれん過大計上約88.2億円(オリンパス型)。この二つを足すと、約242億円の資産が水増しされていた計算になる。

粉飾は、資産の一方を膨らませただけでは完結しない。貸借対照表の左側(資産)を水増しすれば、右側(負債・純資産)にも同額の見合いが生じる。ここからは筆者の推論だが、全東信の場合、この見合いは三つの要素に分解して読める。

第一に、剰余金である。架空債権とのれんの計上は、いずれも見かけ上の利益を生む。その利益の累積が利益剰余金として純資産に積み上がる。第二に、資本金である。全東信の資本金は45億円で、ここに欠損は生じていない。粉飾によって黒字を装う以上、資本を毀損させる必要はなく、むしろ資本金は健全な外形を保つ土台として使われる。第三に、決済代行という業態に固有の月商相当の未収である。加盟店に先んじて立て替えるこの事業では、カード会社からの入金待ちの立替・売上が常時7億〜13億円規模で計上されていておかしくない。この経常的な未収は、粉飾がなくとも帳簿に立つ性質のものだ。

資産側の水増し約242億円(架空債権154億+のれん88.2億)に対し、この剰余金・資本金・月商相当の未収を見合いとして差し引くと、残りが約170億円。それが、最も疑われにくい科目である預金の水増しとして表に現れた。差額約72億円は、宙に消えたのではなく、剰余金・資本・未収という右側の見合いに対応している。数字は、そのように帳尻が合うよう組み立てられていた。

全東信・粉飾の内訳(TSR報道ベース)
項目金額性格
預金残高の水増し約170億円粉飾の「結果」
架空債権の計上約154億円手口(IXI型・循環取引)
営業権(のれん)過大計上約88.2億円手口(オリンパス型)
未払立替精算金の未計上約217億円簿外の負債
帳簿上の純資産約24.8億円是正後は約605億円の債務超過とみられる

資産側の水増し(架空債権154億+のれん88.2億=計約242億円)から、剰余金・資本金・月商相当の未収という右側の見合い(約72億円)を差し引いた残り約170億円が、預金の水増しとして現れた——という構造で読める(金額の内訳はTSR報道、逆算の解釈は筆者)。

そして重要なのは、IXI、オリンパス、全東信に共通する一点だ。いずれも実業が形の上では動いている事業体だった。システム開発、精密機器、決済代行。事業が回っている以上、金融のように損失を簿価で凍結して満期まで放置する、というわけにはいかない。飛ばした損失や膨らませた売上の辻褄を、決算期ごとに合わせ続けなければならない。埋め合わせの取引が次々と起票され、粉飾額は年度ごとに膨らんでいく。事業が動いているからこそ、粉飾は止まれず、太っていく。全東信の20年、605億円という数字は、その帰結として読める。

CHAPTER 2都市銀行が退き、地銀と信組だけが残された

全東信が裁判所に提出した破産申立書をもとに、TSRは金融債権者の一覧を明らかにした。金融債権者は63社、貸付総額は約1130億円。負債総額の大部分が金融債務で占められていた。決済代行という、加盟店に先んじて立て替えるビジネスは、常に多額の運転資金を必要とする。全東信は、その資金を金融機関からの借入に強く依存していた。

頂点にいたのは、メガバンクではなかった

債権額の最大は、大阪市中央区に本店を置く近畿産業信用組合の219億円だった(申立書ベース)。信用組合が、1000億円超の破綻の筆頭債権者に立つ。次いで東京スター銀行と東和銀行がそれぞれ約80億円、山口フィナンシャルグループ傘下の山口銀行が約74億円、大阪厚生信用金庫が60億円超。判明している主な債権者を下に並べる。

全東信・判明している主な金融債権者(申立書ベース/2026年7月時点)
金融機関種別債権額(申立書)
近畿産業信用組合信用組合219億円
東京スター銀行銀行80億円
東和銀行第二地銀80億円
山口銀行地方銀行74億円
大阪厚生信用金庫信用金庫60億円超
三十三銀行地方銀行50億円
バンカーズ(貸付型CF)ノンバンク約21億円
大光銀行第二地銀15億円
愛媛銀行第二地銀12.4億円
高知銀行第二地銀12億円
伊予銀行地方銀行11.4億円
島根銀行地方銀行8億円
第一勧業信用組合静岡銀行北おおさか信用金庫 ほか信組・地銀・信金額の公表なし

金融債権者は63社にのぼるが、実名と金額が判明しているのは報道・各社開示で確認できる主要先に限られ、残る約48社は非公開。地方銀行・第二地方銀行・信用金庫・信用組合が幅広く名を連ね、全国に散らばっている。

このリストを眺めて気づくのは、都市銀行(メガバンク)の名が、実質的に見当たらないことだ。全東信は公式サイトで、みずほ銀行や関西みらい銀行を主要取引銀行として挙げていた。ところがTSRによれば、過去には大手行との取引が確認できるにもかかわらず、申立書の金融債権者欄に大手行の記載はない。破綻の瞬間、金融債権者として名前が残っていたのは、地方銀行・第二地方銀行・信用金庫・信用組合——地域金融機関ばかりだった。

与信のヒエラルキー、という現実

ここには、日本の与信構造のヒエラルキーが、そのまま姿を現している。都市銀行を頂点として、地方銀行、第二地方銀行、信用金庫、信用組合へと降りていく序列。優良とされる貸出先は、まず頂点の都市銀行が押さえる。金利や条件で見劣りする、あるいはリスクが高いとみなされる案件は、序列を下って地域金融機関へと流れていく。これは善悪の問題ではなく、業態ごとの資金量・リスク許容度・審査体制の違いから生まれる、構造的な現実である。

全東信の破綻は、この序列の帰結を露わにした。ここからは筆者の推論だが、全東信という融資先は、かつては都市銀行が喉から手が出るほど欲しがる、成長する優良債権だったはずだ。加盟店20万店の決済網を持ち、手数料収入で回る会社。だが、その融資が、気づけば序列を下って地域金融機関へと組み替えられていた。もし都市銀行が、預金残高の不自然さ——のれんの過大計上と架空債権の総額に対して、常におおよそ辻褄の合ってしまう預金額の存在——に気づいていたとすれば、粉飾が表面化する前に、数年かけて債権を引き上げ、地域金融機関へと肩代わりさせていった可能性がある。大型倒産で、なぜか地方銀行と信用組合だけが主要債権者として残る。その典型例が、ここにある。

もっとも、これはあくまで推論であり、特定の都市銀行がそう振る舞ったと名指しできる証拠があるわけではない。序列の上位にいる銀行どうしが、最初は互いに押し付け合っていたであろうことを思えば、名宛人を一行に定めることにも無理がある。ここで言えるのは、規模に見合った大型融資の一部を分担したつもりが、進退窮まる不良債権に変わっていた——そういう構図が、地域金融機関の側に生じていた、ということだ。優良債権が上から下へ流れ、リスクが下に沈殿する。ヒエラルキーとは、そういうものだ。

「219億円」は、そのまま損失ではない

ただし、ここで最も注意すべき点がある。申立書に記載された債権額は、確定した債権額でも、最終的な損失額でもない。担保、相殺、保証、引当によって、実際の数字は大きく動く。全東信の破綻直後、各金融機関が自ら開示した数字は、そのことを鮮やかに示した。

最大債権者の近畿産業信用組合は、7月9日、全東信への貸出は申立書の219億円ではなく124億5600万円(7月8日現在)だったと開示した。2026年9月期に全額を引き当てるが、それでも2027年3月期は経常利益207億円、当期純利益150億円の黒字を確保できる見込みだという。山口銀行に至っては、貸出金74億円は担保等で全額保全されており、新たな与信費用の発生は見込まないと明らかにした。申立書で74億円の債権者が、実質的な損失見込みはゼロ、ということになる。

一方で、影響が重い先もある。東和銀行は貸出金80億円のうち、担保などで保全されていない58億8600万円を2027年3月期に引き当てるとした。この未保全額は、同行の2027年3月期の経常利益予想を上回る規模で、黒字回復のシナリオに傷がついた。三十三銀行は50億円のうち約27億円を引き当てる。高知銀行は12億円のうち未保全9億1500万円、島根銀行は8億円、大光銀行は15億円について、それぞれ取り立て不能・遅延のおそれを開示した。愛媛銀行(12.4億円)と伊予銀行(11.4億円)は、いずれも「個別の案件で答えられない」として詳細を明らかにしていない。

同じ「債権額」でも、担保と引当の有無で、金融機関への実際の打撃はまるで違う。債権額の大きさは、損失の大きさではない。219億円が124億円へ、74億円が実質ゼロへ。この落差こそ、破綻報道を読むときに最も冷静に見るべき一点である。各行が実際に開示した数字は、この記事の末尾にまとめた。

この破綻で名前の挙がった地域金融機関のうち、いくつかは「ニホン銀行紀行」で個別に訪ねている。愛媛銀行は、四国の二行を対比した特集「愛媛銀行 × 高知信用金庫」で、預金の8割近くを貸しに回す「貸す動機の強い銀行」として描いた行だ。その愛媛銀行が、今回は全東信の債権者として名を連ねている。融資に積極的であることは、こうしたリスクと表裏でもある。
CHAPTER 3なぜカード債権は流動化できなかったか

ここまで読んで、一つの素朴な疑問が浮かぶ。全東信は、加盟店のカード売上を立て替える会社だった。手元には、カード会社から入金される予定の売上債権が大量にあったはずだ。ならば、その債権を市場で流動化——証券化して投資家に売り、資金を回収する——すればよかったのではないか。なぜ、借入に依存し、あげく粉飾にまで手を染めることになったのか。

歓楽ビジネスの債権は、市場に出しにくい

ここからは筆者の見立てを含むが、まず全東信が抱えていた債権の「質」に理由がある。全東信の加盟店には、審査の通りにくい飲食店、そして歓楽街のビジネス——水商売や風俗を含む業態が、少なからず含まれていたとみられる。こうした業態の売上債権は、そもそも証券化の対象になりにくい。キャバクラや風俗の売上を裏付けとする債権が、証券化商品として西欧社会の市場で流通することは、まずありえない。将来のキャッシュフローが景気や規制に大きく左右されるうえ、投資家保護や社会的信用の観点から、こうした業態を裏付け資産に据えた商品は市場に受け入れられないためだ。トランシェを組んで格付を取り、機関投資家に売る——その入口に立つことすら難しい。

これは印象論ではない。近年、クレジットカードの国際ブランドは、アダルトコンテンツへの決済を急速に締め付けている。VisaとMastercardの2社で国内のカード決済シェアの約7割を占めるが、2020年のPornhub問題、そして2022年に米カリフォルニア州の連邦地裁がVisaの責任の一部を認めた判決を契機に、DMM、ニコニコ、DLsite、FANZAといった大手サイトで国際ブランド決済の停止・制限が相次いだ。カード会社の加盟店規約にも、公序良俗に反する商材は取扱禁止として明記されている。歓楽・アダルト系の決済は、いつ止まるか分からないリスクを構造的に抱えている。そうした業態の売上を裏付けにした債権を、監査を通し、格付を取り、証券として市場に流す——それは容易ではない。

粉飾が、流動化の道をふさぐ

そして、より深い理由がある。債権を証券化して市場に流すには、発行体の財務内容と債権の内訳を監査の目に晒すことが避けられない。証券化とは、投資家に「この商品は確かだ」と示す手続きであり、その前提に監査がある。ところが全東信は、20年にわたる粉飾を抱えていた。財務を監査に晒せば、粉飾が露見する。だから、債権を流動化する道は、粉飾を抱えた瞬間から自らふさがれていた。

ここに、抜け出せない循環が生まれる。粉飾に起因した問題は、本来ならどこかで折り目をつけ、債権を流動化して資金を回収できていれば、解決の糸口があったはずだ。ところが粉飾そのものが監査を拒み、流動化を封じる。資金は借入に頼るほかなく、その借入を正常に見せるために、さらに粉飾を重ねる。粉飾が流動化を封じ、流動化できないから借入に依存し、借入を糊塗するために粉飾が膨らむ——この無限循環に、全東信は20年間はまり込んでいた、と読める。

プラットフォーマーが、突き放せなかったもの

もう一つ、決済代行という業態の弱点が、この破綻の底に横たわっている。ここも筆者の推測を含む。全東信は、20万を超える加盟店を束ねる決済のプラットフォーマーだった。フリマアプリに質のよくない出品者が紛れ込むのと同じで、巨大なプラットフォームの末端に、どのような加盟店が紛れているかを一件ずつ見抜くことは、規模が大きくなるほど難しくなる。決済代行が、決済のたびに個々の取引内容をチェックすることは実務上ほぼ不可能だ、という指摘は、業界の議論でも繰り返されてきた。

全東信は「早期決済代行」、つまり加盟店に先に立て替え、後でカード会社から回収する仕組みで回っていた。この「先に立て替える」構造が、弱点になる。もし後になって、カード発行体が「これは現金化目的の取引だ」「これは規約違反の業態だ」として支払いを拒否(チャージバック)してきたら、どうなるか。全東信は、すでに加盟店へ立て替え済みの資金が宙に浮く。本来ならその加盟店に返却を求めればよい。だが——ここが肝心なところだが——相手が裏社会の関与する蓋然性の高いビジネスであった場合、「規制がかかったから返せ」と、そう簡単に突き放すことはできなかったのではないか。

折しも、全東信が粉飾を始めたとされる20年前ごろは、クレジットカードのショッピング枠を使った「現金化」や、歓楽ビジネスの決済に対する規制が、段階的に厳しくなっていく時期にあたる。2008年の割賦販売法の大幅改正で悪質商法の排除が進み、その後、決済代行業者(PSP)が規制の空白で悪質加盟店を抱え込みやすい構造が問題視され、2018年施行の改正でついに決済代行業者にも加盟店調査が義務づけられた。規制が厳しくなるほど、突き放せない悪性の債務は、決済代行の手元に沈んでいく。それが自腹の焦付きとなり、穴埋めの必要が生じ、粉飾の入口になった——そう考えると、辻褄が合う。

言い換えれば、カード決済代行というビジネスは、本来なら粉飾をする必要がどこにもない。手数料で堅実に回るはずの事業だ。それが1151億円の粉飾破綻に至ったということ自体が、正常な決済業務だけでは説明のつかない、別の何かが介在していた可能性を示している。全東信は、その決済網を悪用された側——プラットフォーマーとしての被害者の側面を、色濃く持っていた、と見ることもできる。

CHAPTER 4粉飾は、もう隠せない

最後に、この事件が投げかける、もっとも実務的な教訓に触れておきたい。全東信の粉飾は20年続いたとされる。だが、同じことが、これから先も20年続けられるだろうか。答えは、おそらく「否」だ。

名寄せと突合の時代

全東信の粉飾の中心は、預金残高の水増しだった。帳簿に、実在しない預金を約170億円も載せていた。20年前であれば、これはある程度隠しおおせたかもしれない。金融機関の残高を第三者が確かめるには書面での照会が必要で、時間もかかり、網羅性も乏しかったからだ。

だが、この十数年で、状況は一変した。行政機関と金融機関のあいだの預貯金照会は、急速にオンライン化している。国税庁は2021年に預貯金等照会のオンラインサービスを全面導入し、以降、省庁・自治体・金融機関へと利用が広がった。銀行・信用金庫・信用組合の約8割以上が、すでにオンライン照会に対応している。口座の有無や取引状況が、電子的に、短時間で照会・突合できる環境が整いつつある。2025年には、関係6省庁が預貯金照会のオンライン化の拡大方針を決定している。

ここからは筆者の見立てだが、こうした透明化が進んだ現在、粉飾を疑った金融機関は、おそらく預金の名寄せと突合によって、実残高を確かめられる時代になっている。のれんの過大計上と架空債権の総額に対して、常におおよそ辻褄の合ってしまう預金額。その不自然さは、書面と時間の壁が薄れた今、かつてよりはるかに早く露見する。預金を水増しして黒字を装う——全東信が20年続けたこの型の粉飾は、もはや成立しにくくなっている、と考えられる。

事業が動く限り、粉飾は太る

第1章で見たとおり、IXIも、オリンパスも、全東信も、実業が形の上では動いている事業体だった。だからこそ、飛ばした損失や膨らませた売上の辻褄を、決算期ごとに合わせ続けねばならず、粉飾は止まれず、年を追って太っていった。IXIは売上の8割から9割が架空になるまで、オリンパスは実質600億円近い損失を隠すまで、全東信は605億円の債務超過に至るまで。粉飾は、始めた者が思うようには、決して小さく畳めない。

そして今、その粉飾を覆い隠していた壁——書面の壁、時間の壁、照会の壁——は、透明化の技術によって、一枚ずつ剥がされている。粉飾はいつか露見し、露見したときには、始めたときには想像もつかない規模に膨れ上がっている。全東信の1151億円は、その残酷な算術の、最新の実例だった。

粉飾決算は、やめたほうがいい。それは倫理の問題である以前に、もはや割に合わない——事業が動く限り雪だるま式に膨らみ、透明化した金融環境の前ではいずれ必ず露見する、という、冷徹な計算の問題なのだ。

各金融機関の公式開示(一次資料)

本文で触れた債権額のうち、各金融機関が自ら開示した数字と、その一次資料へのリンクを以下にまとめる。申立書ベースの数字とは異なる場合がある点に留意されたい。なお、開示を行っていない金融機関、または非上場等で適時開示の対象外である金融機関については、リンクを掲げていない。

全東信向け債権に関する各社開示(2026年7月)
金融機関開示した貸出額引当・保全の状況開示
近畿産業信用組合124.56億円2026年9月期に全額引当。引当後も黒字見込み公式
東和銀行80億円未保全58.86億円を2027年3月期に引当開示PDF
三十三銀行50億円うち約27億円を引当開示PDF
山口銀行(山口FG)74億円担保等で全額保全・与信費用の発生見込みなし報道
大光銀行15億円取立不能・遅延のおそれを開示公式
高知銀行12億円未保全9.15億円公式
島根銀行8億円取立不能・遅延のおそれを開示開示PDF
バンカーズ約21億円融資先ファンドについて開示公式

開示PDFは各社の適時開示原文(東和銀行・三十三フィナンシャルグループ・島根銀行)。高知銀行・大光銀行・近畿産業信用組合・バンカーズは各社公式サイトを、山口フィナンシャルグループは開示内容を報じた一次報道を掲げた。数字は各社の公表・開示にもとづく。

のれん(営業権)とは 企業を買収する際に、買収価額が買収先の純資産額を上回る場合の差額。買収先のブランド力や収益力など、目に見えない価値に対する対価とされる。適正なら問題ないが、実体の乏しい企業を著しい高値で買収して差額を大きく計上すれば、損失の一時的な繰り延べに悪用されうる。オリンパス事件を機に、金融庁はM&Aで生じるのれん代を重点的に審査する方針を打ち出した。

執筆・監修:燧徹史(¥Today 編集責任者)

出典:全東信の破産・負債総額・粉飾の内訳(預金水増し・架空債権・のれん過大計上・未払立替精算金・債務超過額)・金融債権者63社および債権額=東京商工リサーチ(TSR)、帝国データバンク(TDB)、および日本経済新聞・時事通信・Bloomberg・東洋経済オンライン等の各報道(2026年7月)。
粉飾内訳からの逆算(資本・剰余金と未収分による帳尻)、都市銀行の撤退・与信ヒエラルキーに関する解釈、カード債権の流動化困難と粉飾の循環、名寄せ・突合に関する見立ては、いずれも筆者の推論。
IXI事件(架空循環取引・無価値なCD-ROMの計上・売上急伸と破綻)=各報道および公表資料にもとづく一般的な事件の説明。
オリンパス事件(飛ばし・国内3社の高値買収・優先株買戻しによるのれん計上・第三者委員会報告)=各報道および公表資料にもとづく一般的な事件の説明。
アダルト・歓楽系決済に対する国際ブランドの制限(Pornhub問題・2022年カリフォルニア州連邦地裁判決・各サイトの決済停止)=各報道の公開情報。
クレジットカード現金化の仕組みと規制(買取式・キャッシュバック式・出資法違反での摘発例・関係機関の注意喚起)、割賦販売法の2008年改正および2016年改正(2018年施行)による加盟店調査義務・決済代行業者の登録制=経済産業省・日本クレジット協会等の公開資料。
預貯金照会のオンライン化(国税庁の導入・対応金融機関の割合・関係省庁の共通化方針)=デジタル庁・内閣官房等の公開資料。
各金融機関の全東信向け債権額・引当・保全の状況=各社の適時開示・公表(近畿産業信用組合/東和銀行/三十三銀行/山口フィナンシャルグループ/大光銀行/高知銀行/島根銀行/バンカーズ)。
※本記事には、刑事手続きが確定していない事案に関する筆者の推論を含む。事実部分と推論部分は本文中で区別して記述している。

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