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東京証券信用組合——証券界が自らつくった信組は、誰に貸すのか

預貸率25.9%、自己資本比率10.19%。証券会社や証券界に関わる人々を対象とする業域の信用組合。証券の街・茅場町に本店を置く「証券しんくみ」の数字を、業界の相互扶助という成り立ちから読みます。

ニホン銀行紀行 ・ 東京都

東京都中央区日本橋茅場町、証券会社が集まる兜町のすぐ隣に、ひとつの金融機関があります。東京証券信用組合——その名のとおり、証券会社や証券界に関わる人々を対象とする信用組合です。預金891億円、貸出金231億円、店舗はわずかに1つ。証券の街の中に置かれた、証券業界のための金融機関です。

この信用組合を理解する鍵は、土地ではなく、「どの業界のための金融機関か」にあります。一般の信用組合が地域の住民や事業者を対象とするのに対し、ここは証券会社、証券会社の役職員、証券界に関わる人々を対象としています。こうした、特定の業界に関わる人を組合員とする信用組合を、ここでは「業域信用組合」と呼びます。医師の職域信組が「職業」で組合員を画したのに対し、こちらは「証券業界」という業界で画する。この業域というあり方が、東京証券信用組合の数字を読む鍵になります。

この信用組合の数字で目を引くのは、預貸率25.9%という低さです。集めた預金のうち、貸出に回しているのは4分の1ほど。なぜ、これほど貸さないのか。その答えは、組合員が証券業界に関わる人々に限られているという、この組織の成り立ちそのものにあります。

まず、数字を並べる

東京証券信用組合の預金は891億円、貸出金は231億円、預貸率25.9%。自己資本比率は10.19%、不良債権比率は該当なし(0%)。中小企業等向けの貸出先は392件です。

東京証券信用組合(令和7年3月末)
預金891億円
貸出金231億円
預貸率25.9%
自己資本比率10.19%
不良債権比率該当なし
中小企業等向け貸出先392件
店舗1店

店舗ひとつ、貸出先392件。対象を証券業界に絞った業域信組ならではの姿です。

証券界の総意で——成り立ち

東京証券信用組合は、証券業界が自らの必要から生み出した金融機関です。1955年(昭和30年)、証券界の総意により、証券業域の信用組合として設立されました。当時、証券界自身の金融機関を持つ必要があるとの声が高まり、証券各社のほか、東京証券取引所、日本証券業協会、日本証券金融という証券界の主要3機関の出資も得て、東京証券取引所内の一室を営業所として産声をあげたとされます。

以来、証券の街・日本橋兜町を中心に店舗を構え、現在は兜町の隣・茅場町の東京証券会館に本店を置いています。70年にわたり、「証券界の発展に貢献する金融機関」としての役割を担ってきた、業界自前の信用組合です。営業エリアは当初の東京都内から、2007年に一都三県へ、2018年には全国へと広がりました。

証券会社への資金繰り融資——業界の相互扶助

東京証券信用組合の最も基本的な役割は、証券会社への資金繰り融資(いわゆる証券金融)にあります。組合自身がそう説明しています。証券会社が事業を営むうえで必要とする資金を、業界の中の金融機関が支える。これが、この信組の中心的な機能です。あわせて、証券会社の役職員向けのローンや、証券会社の顧客に対する投資資金の融資など、個人向けの貸出も取り扱っています。

信用組合は、共通のつながりを持つ組合員が、相互扶助の精神のもとで支え合う協同組織です。東京証券信用組合の場合、その「共通のつながり」とは証券業界です。証券会社や証券関連団体、証券界の役職員から預金・出資金を預かり、それを証券会社を中心とした組合員への融資という形で還元する。証券界の中でお金を回す——業界の相互扶助という成り立ちが、この信組の姿を形づくっています。取引先となる証券会社は、大手証券から地場証券、さらに近年はFXや暗号資産を扱う会社にも広がり、業界の移り変わりを映してきました。

25.9%を、「業域」という仕組みから読む

預貸率25.9%という低さは、東京証券信用組合が「貸さない」のではなく、「貸せる相手が、証券業界に関わる人々に限られている」ことの表れです。

地域を対象とする信用組合は、地区内の住民や中小事業者を広く組合員にできます。だが業域信用組合は、組合員になれる人が特定の業界に絞られる。東京証券信用組合の場合、それは証券会社やその役職員、証券界に関わる人々です。組合員の母数が、証券業界という限られた範囲に絞られる以上、貸出を大きく伸ばすことには、構造的な上限がある。預貸率25.9%という数字は、この業域の枠が映ったものと読めます。一方で、証券会社や証券界から集まる預金・出資金は厚い。集めた資金に対して、貸せる相手が業界内に限られる——この非対称が、低い預貸率となって表れています。あふれた資金は、組合自身が説明するとおり、預金の支払準備や資金運用のため、社債・株式その他の証券への投資に向かいます。証券界の金融機関らしく、運用先もまた証券というのは、この信組の性格をよく表しています。

不良債権比率が「該当なし」となっているのも、組合員が証券業界という、相手の見えやすい範囲に限られていることと無縁ではないでしょう。証券会社という、業界の中で素性のはっきりした借り手を中心に貸す。自己資本比率10.19%という、協同組織として基準を満たす水準とあわせて、業界の中で手堅く資金を回す姿がうかがえます。

東京証券信用組合が示すのは、「預貸率が低い=借りやすい」が通用しない業域信組の例です。預金の4分の1しか貸さないのは、お金が余っているからではなく、そもそも貸せる相手が証券業界に絞られているから。集めた資金は、業界らしく証券の運用にも向かいます。

医師の職域信組と並べてみる

本紀行では、富山県医師信用組合や石川県医師信用組合といった医師の職域信組も取り上げています。医師信組が「医師」という職業で組合員を画したのに対し、東京証券信用組合は「証券業界」という業界で画する。どちらも、組合員を特定の範囲に絞ることで、預貸率が低くなるという共通の構造を持っています。医師信組(預貸率2割前後)と東京証券信用組合(25.9%)の数字がよく似ているのは、土地の産業ではなく、組合員を限るという制度の枠が数字を決めているからです。よく似た低い預貸率の職域信組の姿は、石川県医師信用組合の記事もあわせてどうぞ。

業域信組という、制度のかたち

東京証券信用組合のような業域・職域の信用組合は、中小企業等協同組合法などにもとづく協同組織です。信用組合のなかでも、組合員の資格を地域ではなく、職業や業界によって画するのが特徴です。証券業界に関わる人々が、自分たちの相互扶助のために金融機関を持つ——その成り立ちが、「店舗ひとつ・低い預貸率・証券への運用」という独特の姿を形づくっています。地域金融機関を読むとき、その組織が地域を対象とするのか、職域・業域を対象とするのかを知ることは、数字の意味を正しく受け取るために欠かせません。

借り手にとっての意味

東京証券信用組合は、証券会社や証券界に関わる人々のための金融機関です。一般の事業者や個人が広く借りられる先ではありません。逆にいえば、対象となる証券会社やその役職員にとっては、証券業界の事情に通じた、相談しやすい専門の金融機関ということになります。預貸率の低さは、借りやすさとは関係なく、対象が業域に絞られていることの表れです。預貸率という数字の読み方は、預貸率の読み方であらためて整理しています。

数字は、組織の成り立ちを映す

預貸率25.9%という低さは、証券業界という範囲に組合員を絞り、その相互扶助のために業界の中で資金を回してきた信用組合の姿を映しています。地域に広く貸す金融機関もあれば、特定の業界のために手堅く運営する金融機関もある。数字は、その金融機関が誰のために、どんな成り立ちで存在しているかを語ります。東京証券信用組合の数字は、業界が自らつくった業域信組という、地域金融のもうひとつのかたちの記録です。

各地の金融機関には、それぞれの成り立ちと事情が刻まれた、それぞれの生き方があります。東京都の他の金融機関とあわせて眺めたい方は、東京都の地域金融機関のページもどうぞ。

預貸率とは 預貸率(よたいりつ)とは、金融機関の貸出金残高を預金残高で割った比率。預かった資金のうち、どれだけを貸出に回しているかを示す。預貸率が低い金融機関は、相対的に融資先を求めている可能性をうかがう一つの目安になる。ただし、有価証券運用を主体とする金融機関は、預貸率が低くても融資に積極的とは限らない。 → くわしくは「預貸率の読み方

執筆・監修:燧徹史(¥Today 編集責任者)

出典:預金・貸出金・預貸率・自己資本比率・不良債権比率・中小企業等向け貸出先件数=金融庁「中小・地域金融機関情報一覧」令和7年3月末(預貸率は貸出金÷預金で算出)。
東京証券信用組合が証券会社・証券界に関わる人々を対象とする業域信用組合であること、1955年(昭和30年)に証券界の総意により設立され東京証券取引所・日本証券業協会・日本証券金融の出資を得たこと、証券会社への資金繰り融資(証券金融)を基本的役割とすること、本店所在地(中央区日本橋茅場町・東京証券会館)、営業エリアが全国に拡大したことに関する記述=東京証券信用組合の公開情報、Wikipedia、Weblio等にもとづく。
業域・職域信用組合の制度(中小企業等協同組合法等にもとづく協同組織であり、組合員資格が職域・業域に画されること)に関する記述=関係法令および金融庁等の公開資料にもとづく一般的な説明。
医師信用組合の数値・性格に関する記述=金融庁「中小・地域金融機関情報一覧」令和7年3月末および本紀行既出記事。

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