東京都職員信用組合——都職員のための信組は、なぜ預金の7割を貸せるのか
預貸率69.7%、自己資本比率21.37%、不良債権比率0.28%。東京都・特別区の職員と教員を対象とする職域の信用組合。「都職信」と呼ばれるこの信組の数字を、福利厚生という成り立ちから読みます。
新宿区西新宿、東京都庁第一本庁舎の16階に、ひとつの金融機関があります。東京都職員信用組合——地元で「都職信(としょくしん)」と呼ばれる、東京都および特別区の職員、そして教員を対象とする信用組合です。預金612億円、貸出金426億円、店舗はわずかに1つ。都庁の中に本店を置く、職員のための金融機関です。
この信用組合を理解する鍵は、土地ではなく、「誰のための金融機関か」にあります。一般の信用組合が地域の住民や事業者を対象とするのに対し、ここは東京都・特別区の職員や教員を組合員としています。こうした、特定の職業や勤め先に従事する人を組合員とする信用組合を「職域信用組合」と呼びます。本紀行で取り上げた医師信用組合と同じく、地域ではなく職域で組合員を画する仕組みです。この職域というあり方が、東京都職員信用組合の数字を読む鍵になります。
この信用組合の数字で目を引くのは、ふたつあります。ひとつは、不良債権比率0.28%という際立った低さ。もうひとつは、預貸率69.7%という、職域信組としては高めの水準です。医師信用組合の預貸率が2割前後だったことを思えば、対照的な数字です。この二つを、「都職員という組合員」から読みます。
まず、数字を並べる
東京都職員信用組合の預金は612億円、貸出金は426億円、預貸率69.7%。自己資本比率は21.37%と厚く、不良債権比率は0.28%と極めて低い。中小企業等向けの貸出先は4,695件です。
| 預金 | 612億円 |
|---|---|
| 貸出金 | 426億円 |
| 預貸率 | 69.7% |
| 自己資本比率 | 21.37% |
| 不良債権比率 | 0.28% |
| 中小企業等向け貸出先 | 4,695件 |
| 店舗 | 1店 |
不良債権0.28%・預貸率69.7%。職員という安定した組合員に支えられた、堅い職域信組の姿です。
大正10年から——成り立ち
東京都職員信用組合の歴史は、信用組合のなかでも古い部類に入ります。1921年(大正10年)3月30日、当時の東京府・東京市の職員を対象とした職域組合として、有限責任府市信用購買利用組合の名称で設立されました。その後、1949年(昭和24年)に信用組合となり、東京都・特別区の職員のための金融機関として歩んできました。創立から一世紀を超える、長い歴史を持つ職域信組です。
その設立の理念を、組合自身は「東京都及び特別区の職員のみなさまの福利厚生事業の一翼を担う」ことと掲げています。相互扶助の精神から生まれた、協同組合組織の非営利の金融機関——それが、この信組の自己定義です。職場の中に金融機関を持ち、職員がお互いに預け、必要なときに利用する。地域ではなく「職場」を単位とした相互扶助のかたちが、ここにあります。
「身近な職場の金融機関」——福利厚生という性格
東京都職員信用組合が他の地域金融機関と最も異なるのは、その性格が「福利厚生」にあることです。組合員は、東京都・特別区の職員と教員、そしてその関係者。給与振込や住宅ローン、各種の生活資金など、職員の暮らしに密着した金融サービスを、職場の福利厚生の一環として提供してきました。
これは、医師信用組合が医師という専門職の事業資金に応えるのとは、やや性格が異なります。都職信の中心にあるのは、職員という勤め人の生活資金です。住宅の購入、教育、暮らしの中で生じるさまざまな資金需要に、職場の金融機関として応える。給与が安定し、勤め先がはっきりしている職員という組合員は、金融機関から見れば、返済の見通しが立てやすい借り手でもあります。福利厚生としての性格と、安定した借り手という性格が、ここでは重なり合っています。
69.7%と0.28%を、「職員」という組合員から読む
預貸率69.7%は、医師信用組合などの職域信組と比べると、かなり高い水準です。なぜ、都職信はこれだけ貸せるのか。鍵は、組合員である職員の生活資金需要にあります。
医師信用組合の場合、貸す相手は医師の事業(開業・設備投資)が中心で、その母数は県内の医師という限られた集団でした。一方、東京都・特別区の職員は数が多く、住宅ローンをはじめとする生活資金の需要が継続的に生まれます。職員という安定した組合員が、生活のなかで資金を必要とし、それに福利厚生として応える——この循環があるからこそ、都職信は集めた預金の7割近くを貸出に回せていると読めます。中小企業等向け貸出先4,695件という数字も、組合員である職員一人ひとりへの貸出の積み重ねを映しています。
そして、不良債権比率0.28%という際立った低さ。これは、組合員が東京都・特別区の職員という、給与の安定した勤め人に限られていることの表れと読めます。勤め先と収入がはっきりした借り手に、福利厚生として貸す。焦げ付きが生じにくい構造が、この極めて低い不良債権比率に映っています。自己資本比率21.37%という厚みとあわせて、堅実そのものの経営がうかがえます。職域信組のなかでも、預貸率は高く、焦げ付きは低い——都職信の数字は、「職員のための福利厚生金融」という成り立ちが、そのまま形になったものと読めます。
医師信用組合と並べてみる
本紀行では、富山県医師信用組合や石川県医師信用組合といった医師の職域信組も取り上げています。医師信組の預貸率が2割前後と低かったのに対し、都職信は69.7%と高い。同じ「職域信組」でも、組合員が医師(事業者)か職員(勤め人)かで、数字の姿はまるで違う。医師信組では事業資金の母数に上限があり預貸率が低く、都職信では職員の生活資金需要が継続して貸出が伸びる。職域信組という制度の枠は同じでも、組合員の職業の性格が数字を分けます。低い預貸率の職域信組の姿は、石川県医師信用組合の記事もあわせてどうぞ。
職域信組という、制度のかたち
東京都職員信用組合のような職域信用組合は、中小企業等協同組合法などにもとづく協同組織です。信用組合のなかでも、組合員の資格を地域ではなく職業や勤め先によって画するのが職域信組の特徴です。都職員という勤め人の集団が、自分たちの福利厚生と相互扶助のために金融機関を持つ——その成り立ちが、「店舗ひとつ・高めの預貸率・極めて低い不良債権」という姿を形づくっています。地域金融機関を読むとき、その組織が地域を対象とするのか、職域を対象とするのか、そして職域なら組合員がどんな職業かを知ることは、数字の意味を正しく受け取るために欠かせません。
借り手にとっての意味
東京都職員信用組合は、東京都・特別区の職員や教員、その関係者のための金融機関です。一般の事業者や個人が借りられる先ではありません。逆にいえば、対象となる職員にとっては、職場の福利厚生として身近に使える、生活資金の相談しやすい金融機関ということになります。高めの預貸率は、職員という組合員の生活資金需要に応えてきたことの表れであって、誰にでも借りやすいことを意味するわけではありません。預貸率という数字の読み方は、預貸率の読み方であらためて整理しています。
数字は、組織の成り立ちを映す
預貸率69.7%という高さと、不良債権比率0.28%という低さは、東京都・特別区の職員という組合員に福利厚生として向き合い、その生活資金に応えてきた信用組合の姿を映しています。同じ職域信組でも、医師の事業に応えるものもあれば、職員の暮らしに応えるものもある。数字は、その金融機関が誰のために、どんな成り立ちで存在しているかを語ります。東京都職員信用組合の数字は、職場の福利厚生を担う職域信組という、地域金融のもうひとつのかたちの記録です。
各地の金融機関には、それぞれの成り立ちと事情が刻まれた、それぞれの生き方があります。東京都の他の金融機関とあわせて眺めたい方は、東京都の地域金融機関のページもどうぞ。
執筆・監修:燧徹史(¥Today 編集責任者)
出典:預金・貸出金・預貸率・自己資本比率・不良債権比率・中小企業等向け貸出先件数=金融庁「中小・地域金融機関情報一覧」令和7年3月末(預貸率は貸出金÷預金で算出)。
東京都職員信用組合が東京都・特別区の職員および教員を対象とする職域信用組合であること、1921年(大正10年)3月30日に有限責任府市信用購買利用組合として設立され1949年に信用組合となったこと、略称「都職信」、福利厚生事業の一翼を担う相互扶助・非営利の協同組織金融機関であること、本店所在地(新宿区西新宿・東京都庁第一本庁舎)に関する記述=東京都職員信用組合の公開情報、Weblio、gBizINFO等にもとづく。
職域信用組合の制度(中小企業等協同組合法等にもとづく協同組織であり、組合員資格が職域に画されること)に関する記述=関係法令および金融庁等の公開資料にもとづく一般的な説明。
医師信用組合の数値・性格に関する記述=金融庁「中小・地域金融機関情報一覧」令和7年3月末および本紀行既出記事。