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富山県医師信用組合——医師だけの信組は、なぜ預金の2割しか貸さないのか

預貸率21.7%、自己資本比率23.14%。富山県の医師と医療機関だけを対象とする職域の信用組合。店舗ひとつ、預貸率2割という数字を、「組合員を医師に絞る」という職域信組ならではの仕組みから読みます。

ニホン銀行紀行 ・ 富山県

富山市黒崎、富山県医師会館の2階に、ひとつの金融機関があります。富山県医師信用組合——その名のとおり、富山県の医師や医療機関を対象とする信用組合です。預金375億円、貸出金81億円、そして店舗はわずかに1つ。これまで本紀行で見てきた、地域に支店網を広げる信用金庫や信用組合とは、まるで姿が違います。

この信用組合を理解する鍵は、土地ではなく、「誰のための金融機関か」にあります。一般の信用組合が地域の住民や事業者を対象とするのに対し、ここは富山県医師会に所属する医師とその家族、医療機関だけを対象としています。こうした、特定の職業に従事する人を組合員とする信用組合を「職域信用組合」と呼びます。福井県の特集で触れた福井県医師信用組合と同じ仕組みです。この職域というあり方が、富山県医師信用組合の数字を読む鍵になります。

この信用組合の数字で目を引くのは、預貸率21.7%という低さです。集めた預金のうち、貸出に回しているのは2割あまり。なぜ、これほど貸さないのか。その答えは、「お金が余っている」からでも「貸し渋り」でもなく、組合員が医師に限られているという、この組織の成り立ちそのものにあります。そしてその成り立ちには、戦後の医師がおかれた金融上の事情が関わっています。

まず、数字を並べる

富山県医師信用組合の預金は375億円、貸出金は81億円、預貸率21.7%。自己資本比率は23.14%と厚く、不良債権比率は2.61%。中小企業等向けの貸出先は282件です。

富山県医師信用組合(令和7年3月末)
預金375億円
貸出金81億円
預貸率21.7%
自己資本比率23.14%
不良債権比率2.61%
中小企業等向け貸出先282件
店舗1店

店舗ひとつ、貸出先282件。対象を医師に絞った職域信組ならではの、小さく堅い姿です。

なぜ、医師の金融機関が生まれたのか——成り立ち

医師だけの信用組合が各地に生まれた背景には、戦後の医師がおかれた金融上の事情があります。戦後の復興期から高度経済成長期にかけて、市中銀行の融資は産業優先で進められ、医師への融資の優先順位は高くありませんでした。診療所の経営内容は一般の金融機関からは把握しにくく、個々の医師が資金を調達するのは容易ではなかったとされます。そうしたなかで、各地の都道府県医師会を母体に、「医師会員の相互扶助」を目的とした独自の金融機関が、昭和30年代から40年代にかけて次々と設立されていきました。

富山県医師信用組合もそのひとつです。昭和40年(1965年)7月、富山県内の医師を対象に、相互扶助を基本理念として、組合員の経済的地位の向上を図るために設立された医師専門の金融機関です。以来、富山県医師会と密接な関係を保ちながら、医師とその家族のための金融機関として営まれてきました。

「お互いに預け、必要なときに利用する」——相互扶助の仕組み

信用組合は、組合員のための相互扶助を目的とする協同組織です。富山県医師信用組合は、その理念を「組合員である医師がお互いに預金し、必要なときに資金を利用する」相互扶助の精神として掲げています。組合員になるには、出資金(1口1万円)の払い込みと普通預金口座の開設が必要で、富山県医師会への加入が前提となります。

この相互扶助の仕組みは、組合員にとっての福利厚生的な機能を伴います。富山県医師会の案内によれば、他の金融機関よりも普通預金・定期預金・定期積金・融資などが有利な金利となっているとされます。医師が直面する資金需要——開業資金、高額な医療機器の設備投資、医院の運転資金や事業承継など——は、金額が大きく特殊です。勤務医から開業医へという医師特有の経歴もあります。医業経営の実態を理解した金融機関が、そうした資金需要に応える——それが、医師自らの金融機関を持つ意味でした。

21.7%を、「職域」という仕組みから読む

預貸率21.7%という低さは、富山県医師信用組合が「貸さない」のではなく、「貸せる相手が、医師とその関係者に限られている」ことの表れです。

信用組合は、組合員のための相互扶助を目的とする協同組織です。地域を対象とする信用組合は、地区内の住民や中小事業者を広く組合員にできます。だが職域信用組合は、組合員になれる人が特定の職業に絞られる。富山県医師信用組合の場合、それは富山県医師会の会員である医師や医療機関です。組合員の母数が、県内の医師という限られた集団に絞られる以上、貸出を大きく伸ばすことには、構造的な上限がある。預貸率21.7%という数字は、この職域の枠が映ったものと読めます。一方で、医師や医療機関から集まる預金は厚い。集めた預金に対して、貸せる相手が限られる——この非対称が、低い預貸率となって表れています。あふれた資金は、有価証券などの運用に向かいます。

自己資本比率23.14%という厚みも、この成り立ちと無縁ではありません。限られた組合員のために、堅実で安定した運営を旨とする。派手に貸して規模を追うのではなく、組合員の資産を手堅く守り、必要な医療関連の資金需要——開業資金や医療設備の購入、医院の運転資金など——に応える。富山の医師とその家族のための、いわば「身内の金融機関」として、小さく堅く営まれているのが、この信用組合の姿です。

富山県医師信用組合が示すのは、「預貸率が低い=借りやすい」が通用しない典型例です。預金の2割しか貸さないのは、お金が余っているからではなく、そもそも貸せる相手が医師に限られているから。数字の裏にある仕組みを知って初めて、その意味がわかります。

福井県医師信用組合と並べてみる

本紀行では、福井県の銀行図鑑のなかで、福井県医師信用組合という、よく似た職域信組を取り上げました。福井県医師信用組合も、預貸率14.5%、自己資本比率36.38%という、低い預貸率と厚い自己資本を持っていました。富山県医師信用組合(21.7%・23.14%)と、数字の性格はよく似ています。医師という職域に組合員を絞る信用組合は、県は違っても、似た数字の姿になる。これは、土地の産業よりも、「職域」という制度の枠が数字を決めていることの、わかりやすい証拠といえます。福井県の金融機関の地層は、福井県の銀行図鑑であわせてどうぞ。

職域信組という、制度のかたち

富山県医師信用組合のような職域信用組合は、中小企業等協同組合法などにもとづく協同組織です。信用組合のなかでも、組合員の資格を地域ではなく職業によって画するのが職域信組の特徴です。医師という専門職の集団が、自分たちの相互扶助のために金融機関を持つ——その成り立ちが、「店舗ひとつ・低い預貸率・厚い自己資本」という独特の姿を形づくっています。地域金融機関を読むとき、その組織が地域を対象とするのか、職域を対象とするのかを知ることは、数字の意味を正しく受け取るために欠かせません。

借り手にとっての意味

富山県医師信用組合は、富山県医師会に所属する医師やその家族、医療機関のための金融機関です。一般の事業者や個人が借りられる先ではありません。逆にいえば、対象となる医師にとっては、医療経営や職域の事情に通じた、相談しやすい専門の金融機関ということになります。預貸率の低さは、借りやすさとは関係なく、対象が職域に絞られていることの表れです。預貸率という数字の読み方は、預貸率の読み方であらためて整理しています。

数字は、組織の成り立ちを映す

預貸率21.7%という低さと、自己資本比率23.14%という厚みは、富山県の医師という職域に組合員を絞り、その相互扶助のために小さく堅く営まれてきた信用組合の姿を映しています。地域に広く貸す金融機関もあれば、職域の組合員のために手堅く運営する金融機関もある。数字は、その金融機関が誰のために、どんな成り立ちで存在しているかを語ります。富山県医師信用組合の数字は、職域信組という、地域金融のもうひとつのかたちの記録です。

各地の金融機関には、それぞれの成り立ちと事情が刻まれた、それぞれの生き方があります。富山県の他の金融機関とあわせて眺めたい方は、富山県の地域金融機関のページもどうぞ。

出典:預金・貸出金・預貸率・自己資本比率・不良債権比率・中小企業等向け貸出先件数=金融庁「中小・地域金融機関情報一覧」令和7年3月末(預貸率は貸出金÷預金で算出)。
富山県医師信用組合が富山県医師会の会員である医師・医療機関を対象とする職域信用組合であること、昭和40年(1965年)7月設立で相互扶助を基本理念とすること、組合加入に出資金(1口1万円)と県医師会への加入を要すること、有利な金利等の案内、本店所在地(富山市黒崎・富山県医師会館)に関する記述=富山県医師信用組合および富山県医師会の公開情報等。
医師信用組合が各地の医師会を母体に戦後設立された歴史的経緯・医師特有の資金需要に関する記述=関係資料にもとづく一般的な説明。
福井県医師信用組合の数値=金融庁「中小・地域金融機関情報一覧」令和7年3月末。
職域信用組合の制度(中小企業等協同組合法等にもとづく協同組織であり、組合員資格が職域に画されること)に関する記述=関係法令および金融庁等の公開資料にもとづく一般的な説明。

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