事業計画書は、誰に出すかで書き分ける——公庫と民間で、見るところが違う
創業計画書、事業計画書。同じ「計画書」でも、誰に差し出すかで、相手が見るところはまるで違います。政策金融公庫と民間の金融機関。この二つの読み手の違いを知ることが、計画書づくりの出発点です。書面で何を、どう伝えるのかを掘り下げます。
はじめに——これは「地方の金融機関」共通の話
ここで述べる手続き・心得は、地方金融機関のいずれでも共通するフローだと思ってください。都市銀行(メガバンク)を別にすれば、地域の金融機関や政策金融公庫との付き合い方は、おおむね同じ作法で通ります。
同じ計画書でも、読み手が違う
創業の融資を申し込むとき、たいてい事業計画書や創業計画書を書くことになります。けれど、その計画書を「どこに出すか」で、書き方は実ははっきり二つに分かれます。政策金融公庫に出すのか、民間の金融機関に出すのか。同じ一枚のつもりで使い回すと、どちらにも中途半端になりかねません。まず、相手の違いから入ります。
公庫——書類の要件を、まず満たす
政策金融公庫は、事業の中身そのものより、資金計画が穏当か、自己資金が基準を満たして充実しているかを、重点的に見ます。極端に言えば、公庫が配っている所定の事業計画書を、破綻なく埋められていることが第一条件です。それ以外の情報は、あまり真剣には見られないものだと思っておいてください。
では、何が「引っかかる」と通りやすいのか。目安になるのは、次のようなところです。
- 開業後、最低でも三か月分の運転資金があること
- 借りる額の二割は、自己資金で用意できていること
- 半年くらいは食べていけそうな預貯金があること
こうした項目に引っかかる——つまり条件を満たしている——ほど、審査は通りやすくなり、額も伸びやすくなります。裏を返せば、書類審査上の要件を満たすことが第一であって、そこに余計な情報を盛り込んでも、得られるものはほとんどありません。
この三つの目安は、あくまで「最低限」としてよくできています。逆に言えば、これをギリギリで満たしているだけの人は、なかなか苦しい。すぐに売上が立たなければ厳しく、最初から快進撃でも起きないかぎり、公庫の基準の範囲内ぎりぎりだと、ひやひやしながら走ることになります。手元にそれだけしか用意できないのなら、たとえば一人暮らしの方なら実家に戻って自宅の家賃を消す——支出そのものをなくしてしまう——といった、厳しい戦いに備えた暮らしの見直しも、検討の候補に入れておくべきです。
たとえば、夏に開業して、十月まで二か月、赤字だったとします。客の入らない日が多く、まるまる損が出た。けれど立地から考えて、お花見のシーズンになれば人の流れが変わるかもしれない——そうなると、そこまでの半年を、同じ赤字の状態でしのがなければならない可能性があります。そのとき、涼しい顔をして、半年をやり過ごせるか。計画書の数字とは、そういう現実と地続きです。念を押しておきますが、儲かってからなら、贅沢はいくらでもできます。苦しい時期を越える足場を、先に固めておくことです。
もちろん、担当者が興味を持って、事業の中身を知りたがることもあります。そのときは、あらかじめ用意しておいたパンフレットやプレゼン資料を渡せば十分です。ただし大前提として、それらが門外漢が見てもわかる言葉に翻訳されていることは、忘れないでください。
民間——中身も、そして「声」も聴かれる
一方、民間の金融機関は、公庫ほど無愛想な計画書では、なかなか厳しいでしょう。
もしまだ作っていないなら、それを持って印刷屋さんに発注できそうなくらいの、製品や会社の特徴の説明をまとめておきたいところです。飲食店なら料理、サービス業ならサービスの中身。そこに、公庫と同じくらいしっかりした資金面の説明を添えていきます。
そして、民間にはもう一つ特徴があります。彼らは、あなたの声も聴きます。面と向かって話すなかで、借金の恐怖や大金への怯えがにじんでしまうと、相手は内心「こりゃダメだ」と引いてしまう。嘘をつけという話ではありません。嘘のないことを、自信を持って、堂々と説明に応じる。その落ち着きそのものが、見られています。
売上の根拠——「みんながやること」は、根拠にならない
計画書でいちばん難しいのは、売上の見込みです。
正直なところ、先のことは誰にも完全にはわかりません。「わかりません」と書いてしまえば「ではダメですね、さようなら」となりますが、わからない部分があること自体は、相手も十分に承知しています。盛りすぎの大嘘では話になりませんが、検証を重ねた手堅い数字を、見通せる範囲で書く。これが基本です。範囲は長ければいいというものではなく、半年なら半年で構いません。
信憑性ということで、一つ例を挙げます。飲食店で「開業したらタウン誌に広告を打ちまくります、だから客が来るはずです」——これは、通じません。それは、みんながやっていることだからです。そして、その多くが廃業していきます。
問われているのは、もっと確かな何かを持っているか、です。たとえば、自分の個人インスタグラムのアカウントに、地元のフォロワーが千人いる。今の時代、そういう事実のほうが、よほど信憑性のある売上の根拠になります。誰でも言えることではなく、あなただからある事実を探してください。
銀行員が、そのまま使える形で渡す
もう一段、踏み込みます。あなたの計画書は、最終的に銀行員の手で稟議に上げられます。その稟議書を書くのは、あなたではなく相手です。だから、相手が書き写しやすいように作っておくと、強い。
相手がデータで受け取れるなら、データで渡しても構いません。けれど、たいていはそうもいきません。そこで、引用してほしい・コピーしてほしいところを、目立たせる工夫が要ります。" " で囲う、「 」をつける、大きな色文字にする。そして、すぐに打ち込めるよう、なるべく短い表現にしておく。こうした半手先回りの一手間が、あなたの計画書を「使ってもらえる計画書」に変えます。この構えそのものについては、自己紹介の準備の話でも触れています。
いちばんのつまずき——あなたは今、ハイになっている
最後に、両方に共通する、いちばん大事な戒めです。
「もうすぐ開業だ」。そのとき、あなたのテンションは、上ずっていませんか。そう、あなたは今、ハイになっています。だからこそ、立ち止まって自己点検してほしいのです。
その仕入れは、本当に必要なものですか。必要なものと、欲しいものの区別は、今ついていますか。余計なものを買う計画になっていないか。店舗だって、探せばもっと割安で良い場所があるかもしれません。しっかり検討して、手堅い計画にまとめ直すことを、どうか忘れないでください。
品質についても同じです。その仕入れ先、友達に約束したから、というだけでそこに決めていませんか。肉や魚の品質は、たとえば飲食業なら致命的です。義理で目をつぶってよいところと、いけないところがある。吟味し直すべきところは、本当に、もうありませんか。
計画書を書くという作業は、相手を説得する紙を作ることであると同時に、舞い上がった自分を一度、地面に戻す作業でもあります。手堅く、嘘なく、そして自分に厳しく。そうやって整えた計画書は、誰に出しても、不思議と筋が通って見えるものです。
あなたは今、必要なものと、欲しいものを、分けて考えられていますか。
開業を前にした高揚は、誰にでも訪れます。その高ぶりのなかで引いた一本の線が、手堅い計画と、危うい計画を分けます。計画書は、その線をあなた自身に引かせるための紙でもあるのです。
提供:¥Today