尾西信用金庫——世界有数の毛織物産地「尾州」で、信金は何を支えるか
愛知県一宮市に本店を置く尾西信用金庫は、日本最大・世界有数の毛織物産地「尾州(びしゅう)」の中心に根ざす信用金庫です。預貸率50.4%、不良債権比率1.68%。長い構造変化を抱える繊維産地にありながら、その焦げ付き比率は意外なほど低い。その理由を読み解きます。
愛知県一宮市に本店を置く尾西信用金庫は、地元で「びしん」と呼ばれる信用金庫です。預金5,194億円、貸出金2,618億円、店舗24。一宮市を中心に、稲沢・江南・岩倉・小牧、名古屋市の一部などを地盤としています。
本店のある一宮市を含む尾張西部一帯は、「尾州」と呼ばれる毛織物の産地です。繊維の生産に適した気候風土に恵まれ、古くから麻・絹・綿の産地が形成されてきました。明治以降、日本人の洋装化とともに毛織物の製造に着手し、戦後の復興期に大きく飛躍。日本最大であり、世界でも有数の毛織物産地として知られ、糸の紡績から染色、織り、仕上げまでを一貫して担う総合産地を築きました。一方で、バブル後の長い不況のなかで、産地は構造変化を抱え続けてもいます。この、栄光と構造変化の両方を抱える繊維産地が、尾西信用金庫の数字を読む鍵になります。
まず、数字を並べる
尾西信用金庫の預金は5,194億円、貸出金は2,618億円、預貸率50.4%。自己資本比率は9.84%。不良債権比率は1.68%。中小企業等への貸出先は約1万5千先です。
| 預金 | 5,194億円 |
|---|---|
| 貸出金 | 2,618億円 |
| 預貸率 | 50.4% |
| 自己資本比率 | 9.84% |
| 不良債権比率 | 1.68% |
| 中小企業等向け貸出先 | 15,066先 |
| 店舗 | 24店 |
中小企業等への貸出先は約1万5千先。尾州の産地に根を張る信金です。
1.68%という低さを、どう読むか
この記事で最も注目したいのは、不良債権比率1.68%という低さです。構造変化を抱える繊維産地に貸す信金、と聞くと、焦げ付きが高めだろうと予想しがちです。実際、同じ繊維産地でも、両毛の足利小山信用金庫は4.78%、三河の蒲郡信用金庫は4.16%と、やや高めの不良債権比率を抱えています。それに対して、日本最大の毛織物産地に立つ尾西信用金庫が1.68%と低いのは、一見、意外に思えます。
この低さの背景は、数字だけからは断定できません。ただ、いくつかの読み筋は立てられます。一つは、尾州が単なる衰退産地ではなく、高品質・高感度な素材で世界に通用する産地として、構造変化を生き抜いてきたこと。多品種少量生産へと転換し、世界の一流ブランドにも素材を供給する産地として価値を保ってきた事業者には、相応の体力があります。もう一つは、尾西信用金庫が立地する尾張西部が、名古屋経済圏に近く、繊維以外の商工業の取引先にも貸せる環境にあること。繊維一本に依存せず、貸し先がある程度分散していることも、比率の安定に寄与していると考えられます。
もっとも、不良債権比率には景気や引当方針、個別の大口先の事情も絡むため、低さがそのまま盤石を意味するわけではありません。ただ、構造変化を生き抜いた産地の底力と、名古屋経済圏に近い立地の分散効果——この二つが重なって、繊維産地の信金としては低めの数字になっている、とは読めると思われます。
50.4%という預貸率と、産地への姿勢
預貸率50.4%は、信用金庫として中庸の水準です。集めた預金のおよそ半分を、地元に貸している。運用に偏らず、かといって無理に貸し込むのでもない、産地に着実に寄り添う姿勢が読み取れます。自己資本比率9.84%も、国内基準行に求められる水準を十分に上回る、堅実な水準です。
なぜ、こうなったのか——制度と地域
尾西信用金庫が地元の中小事業者に貸す信金であることの背景には、信用金庫という制度があります。信用金庫が融資できる相手は原則として「会員」に限られ、その資格は信用金庫法10条1項により、信用金庫の定める「地区」の中に住所や事業所がある人、その地区で働く人、と定められています。事業者には規模の制限もあり、大企業は会員になれません。
この枠のもとでは、貸す相手はおのずと地元の中小事業者や住民に絞られます。尾西信用金庫にとって、その「地元」とは、毛織物の尾州産地と、それを取り巻く尾張西部の商工業です。会員資格が地区内に絞られるという制度の枠が、結果として「尾州の産地に貸す信金」という姿を形づくっています。なお、同じ愛知県でも、三河の織物のまちには蒲郡信用金庫があり、それぞれの繊維産地に、それぞれの信金が根を張っています。三河の信金の姿は、蒲郡信用金庫の記事もあわせてどうぞ。
数字は、産地の底力を映す
構造変化を抱えて高い焦げ付きと向き合う産地の信金もあれば、運用に振る信金もあります。そして尾西信用金庫のように、世界有数の産地の底力に支えられ、繊維産地でありながら低い不良債権を保つ信金もあります。不良債権比率という一つの数字は、その金融機関が向き合う産業が、どれだけしぶとく価値を保っているかを映す鏡でもあります。日本最大の毛織物産地の信金が示す低い数字は、構造変化を生き抜いてきた尾州そのものの底力の表れと読めます。
本紀行には、同じ愛知県の東春信用金庫も登場しています。東春信金は、自動車関連や機械の製造業が集積する尾張北部・小牧に根ざす信金でした。尾州の毛織物の産地に根ざすこの尾西信用金庫(預貸率50.4%)と、尾張北部の製造業に根ざす東春信用金庫(預貸率48.5%)とを並べると、同じ尾張でも、西部の繊維と北部の機械・自動車関連とで、それぞれの地場産業を背負って信金が地域を支えていることが見えてきます。尾張北部のものづくりの信金の姿は、東春信用金庫の記事もあわせてどうぞ。
各地の金融機関には、それぞれの土地の産業と事情が刻まれた、それぞれの生き方があります。愛知県の他の金融機関とあわせて眺めたい方は、愛知県の地域金融機関のページもどうぞ。
出典:預金・貸出金・預貸率・自己資本比率・不良債権比率・中小企業等向け貸出先=金融庁「中小・地域金融機関情報一覧」令和7年3月末。
尾州毛織物産地(歴史・特徴・現況)に関する記述=愛知県・一宮市・尾西毛織工業組合等の公開情報等。
足利小山信用金庫・蒲郡信用金庫の数値=金融庁「中小・地域金融機関情報一覧」令和7年3月末。
信用金庫の地区・会員資格に関する記述=信用金庫法10条1項、および金融庁・全国信用金庫協会の公開資料等。