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蒲郡信用金庫——三河の織物のまちで、信金は誰に貸してきたか

愛知県蒲郡市に本店を置く信用金庫の預貸率は43.2%、不良債権比率は4.16%。やや高めのこの焦げ付き比率は、織物・みかん・観光という、波のある地場産業に寄り添ってきた信金の歩みを映しています。

ニホン銀行紀行 ・ 愛知県

愛知県の東部、三河湾に面した蒲郡市に本店を置く蒲郡信用金庫は、地元で「がましん」と呼ばれています。預金1兆4,508億円、貸出金6,272億円、店舗44。愛知県でも有数の規模を持つ信用金庫で、本店のある蒲郡を核に、豊橋・岡崎など東三河を中心に支店網を広げています。

蒲郡を含む三河地方は、古くからの織物産地です。江戸時代以来の歴史を持ち、いまもインテリア織物や寝装・寝具、ロープや漁網といった繊維製品をつくる事業者が集まっています。加えて、温暖な海辺の気候を生かした温室みかんの産地であり、三河湾沿いに四つの温泉郷を抱える愛知県内有数の観光地でもあります。織物・みかん・観光——この三つが折り重なった土地柄が、蒲郡信用金庫の数字を読む鍵になります。

この信用金庫の預貸率は43.2%。集めた預金のうち、4割あまりを貸出に回している計算です。預金の1割も貸さない高知信用金庫(9.3%)のような運用偏重型とは違い、地元にそれなりに貸している。だが地方銀行ほど高くもない。この中庸の数字と、やや高めの不良債権比率を重ねて読むと、地場産業のまちで貸してきた信金の素顔が見えてきます。

まず、数字を並べる

蒲郡信用金庫の預金は1兆4,508億円、貸出金は6,272億円、預貸率43.2%。自己資本比率は14.00%で、信用金庫としては標準よりやや厚い水準です。不良債権比率は4.16%。

蒲郡信用金庫(令和7年3月末)
預金1兆4,508億円
貸出金6,272億円
預貸率43.2%
自己資本比率14.00%
不良債権比率4.16%
中小企業等向け貸出先25,917先
店舗44店

中小企業等への貸出先は約2万6千先。地元の事業者に幅広く貸している信金です。

4.16%を、三河の地場産業から読む

まず目を引くのは、不良債権比率4.16%という数字です。運用型の信用金庫(高知信用金庫0.47%)と比べれば、ずいぶん高く見えます。だが、この数字を「経営が危うい」と単純に読むのは早計です。

蒲郡信用金庫が貸す相手の多くは、三河の地場産業の事業者です。繊維産地のまちであることを思い出してください。インテリア織物や寝装・寝具、ロープ・漁網といった三河の繊維産業は、長い歴史を持つ一方で、安価な輸入品との競争や生活様式の変化のなかで、ゆるやかな構造変化を抱え続けてきた業種でもあります。みかん農家も、価格や天候に左右されます。三河湾の観光業は、景気や旅行需要の波をまともに受けます。こうした浮き沈みのある地場産業に貸し続けてきたことが、4.16%という比率の背にあると読むのが、実態に近いでしょう。

もっとも、不良債権比率には個別の大口先の事情や、各金庫の引当方針も絡みます。「地場産業の不振がそのまま比率に出ている」と言い切ることはできません。ただ、構造変化を抱える繊維産地や、波のある観光のまちで貸す信金であれば、その焦げ付き比率には土地の産業の体温が映りやすい、とまでは言えると思われます。貸さなければ焦げ付きは生まれません。リスクを引き受けて地元に貸してきたからこそ、この水準になっている——そういう読み筋です。

自己資本14.00%という、もう一つの顔

不良債権比率がやや高めである一方で、蒲郡信用金庫の自己資本比率は14.00%と、信用金庫としては標準よりやや厚い水準にあります。国内基準行に求められる4%という最低ラインの、3倍以上です。

この二つの数字を並べると、一つの姿勢が浮かびます。波のある地場産業に貸す以上、焦げ付きはある程度避けられない。だからこそ、その振れ幅を受け止められるだけの自己資本を厚めに積んでおく——攻めと守りのバランスを取った経営、と読むことができます。地場産業のまちの信金が長く続いていくには、こうした厚い備えが要る、ということかもしれません。

なぜ、こうなったのか——制度と地域

蒲郡信用金庫が地元の中小事業者に貸す信金であることの背景には、信用金庫という制度があります。信用金庫が融資できる相手は原則として「会員」に限られ、その資格は信用金庫法10条1項により、信用金庫の定める「地区」の中に住所や事業所がある人、その地区で働く人、と定められています。事業者には規模の制限もあり、大企業は会員になれません。

この枠のもとでは、貸す相手はおのずと地元の中小事業者や住民に絞られます。蒲郡信用金庫にとって、その「地元」とは、繊維・みかん・観光を基幹とする三河の地域経済そのものです。会員資格が地区内に絞られるという制度の枠が、結果として「三河の地場産業に貸す信金」という姿を形づくっています。

借り手にとっての意味

蒲郡信用金庫のように、波のある地場産業に寄り添って貸してきた信用金庫は、運用型の金融機関とは借り手への向き合い方が違います。地域の事業者の事情を知り、構造変化のただ中にある業種にもリスクを取って貸す姿勢があるぶん、地元の繊維事業者や観光業、農家にとっては相談しやすい相手になりえます。ただし、それでも審査は審査であり、預貸率の数字だけで「借りやすさ」を測れるわけではありません。預貸率という指標の読み方は、預貸率の読み方であらためて整理しています。

数字は、土地の産業を映す

運用益で稼ぐ信金もあれば、自己資本を厚く積んで守りに徹する信金もあります。そして蒲郡信用金庫のように、波のある地場産業に寄り添い、攻めと守りのバランスを取りながら貸し続ける信金もあります。不良債権比率という一つの数字は、その金融機関がどんな土地で、どんな産業に向き合ってきたかを映す鏡です。三河の織物のまちの信金が示す4.16%は、危うさの表れというより、地場産業と歩んできた距離の近さの表れと読めます。

各地の金融機関には、それぞれの土地の産業と事情が刻まれた、それぞれの生き方があります。同じ愛知の繊維産地でも、毛織物の「尾州」に根ざす尾西信用金庫とあわせて読むと、産地ごとの信金の違いが見えてきます。愛知県の他の金融機関とあわせて眺めたい方は、愛知県の地域金融機関のページもどうぞ。

出典:預金・貸出金・預貸率・自己資本比率・不良債権比率・中小企業等向け貸出先=金融庁「中小・地域金融機関情報一覧」令和7年3月末。
三河繊維産地・温室みかん・三河湾の観光に関する記述=愛知県・蒲郡市・蒲郡市観光協会・蒲郡商工会議所の公開情報等。
信用金庫の地区・会員資格に関する記述=信用金庫法10条1項、および金融庁・全国信用金庫協会の公開資料等。

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