東奥信用金庫——単独の道を選んだ津軽の信金は何に貸すか
預貸率46.7%、預金1,816億円、自己資本比率14.45%。弘前市に本店を置く東奥信用金庫。1県1信金構想から離脱し単独の道を選んだ津軽の信金が、りんごの里で貸す姿を読みます。
青森県弘前市に本店を置く東奥信用金庫は、「とうしん」と呼ばれる信用金庫です。預金1,816億円、貸出金848億円、店舗15。弘前市をはじめとする津軽エリアを地盤とする、地域に密着した信金です。
本店のある弘前市は、青森県西部・津軽地方の中心都市です。りんごの生産量は全国一を誇り、岩木山(津軽富士)を望むりんご畑が広がる「りんご色のまち」。江戸時代には津軽氏の城下町として栄え、弘前城をはじめ歴史と文化の香る土地でもあります。県の文化圏としては、八戸を中心とする「南部」と対をなす「津軽」に属します。このりんごの里・津軽という地盤と、単独の道を選んだ歩みが、東奥信用金庫の数字を読む鍵になります。
東奥信用金庫は、1971年7月、弘前・黒石の両信用金庫が合併して発足しました。弘前市を中心に、黒石市・平川市・五所川原市と南津軽郡を加えた津軽エリアに21店を展開しています。注目すべきは、その後の選択です。2009年、青森県内の信金を一つにまとめる「1県1信金構想」が進むなか、東奥信金は臨時総代会で合併への反対が多数を占め、構想から離脱して単独での生き残りを選びました。隣の南部では八戸信金を軸に青い森信用金庫が生まれましたが、津軽の東奥信金は一つになる道を採らなかったのです。数字の面で目を引くのは、預貸率46.7%と、自己資本比率14.45%という厚さです。
まず、数字を並べる
東奥信用金庫の預金は1,816億円、貸出金は848億円、預貸率46.7%。自己資本比率は14.45%と厚く、不良債権比率は4.55%。中小企業等向けの貸出先は1万2,414件にのぼります。
| 預金 | 1,816億円 |
|---|---|
| 貸出金 | 848億円 |
| 預貸率 | 46.7% |
| 自己資本比率 | 14.45% |
| 不良債権比率 | 4.55% |
| 中小企業等向け貸出先 | 12,414件 |
| 店舗 | 15店 |
預貸率46.7%・自己資本14.45%。単独を選んだ津軽の信金の数字。
46.7%と14.45%を、単独の道から読む
預貸率46.7%という、預金の半分弱を貸出に回す水準と、自己資本比率14.45%という厚さ。この組み合わせは、単独での生き残りを選んだ信金の堅実な構えを示していると読めます。
東奥信用金庫が貸す相手は、津軽の地元の中小事業者です。りんご農業やその加工・流通、弘前の商業・観光、津軽の地場の小売・サービス業が、その融資先に含まれます。預貸率46.7%は、集めた預金の半分強が貸出に回らず運用に向かっていることを示します。人口減少と高齢化の進む津軽で、安全に貸せる先が限られていることの表れと読めます。
注目したいのは、自己資本比率14.45%という厚さです。信用金庫のなかでもかなり高い水準で、守りを厚く固めていることがうかがえます。これは、単独での生き残りを選んだことと無縁ではないと読めます。一つにまとまる道を採らなかった以上、自らの体力で地域を支え続けなければならない。だからこそ、貸出を慎重に絞り、自己資本を厚く積んで、独り立ちの足場を固めてきた——そう読むことができます。不良債権比率4.55%はやや高めで、人口減の津軽で地元に貸し続けることの難しさを映していますが、厚い自己資本がそれを受け止める構えになっています。もちろん、これらの比率には個別の事情も絡むため断定はできませんが、りんごの里・津軽という地盤と、単独を選んだ歩みを抜きに、この数字は読めません。
なぜ、こうなったのか——制度と地域
東奥信用金庫が地元の中小に貸す信金であることの背景には、信用金庫という制度があります。信用金庫が融資できる相手は原則として「会員」に限られ、その資格は信用金庫法10条1項により、信用金庫の「地区」の中に住所や事業所がある人、その地区で働く人、と定められています。事業者には規模の制限もあり、大企業は会員になれません。
この制度のもとでは、貸す相手はおのずと地元の中小事業者や住民に絞られます。東奥信金にとって、その「地区」は、人口減少の進む津軽です。規模を追って合併する道もあるなかで、東奥信金は地区に密着した小さな信金であり続けることを選んだ。15店という店舗数は、津軽という地区にしっかり根を張る範囲です。厚い自己資本は、規模に頼らず単独で会員を支え続けるための備えと読めます。一つにまとまらなかったことは、地区に根ざすという信金の役割を、自らの足で果たすという選択でもありました。
同じ青森で、南部の信金と並べてみる
本紀行には、同じ青森県の青い森信用金庫も登場しています。弘前(津軽)に本店を置く東奥信金に対し、青い森信金は八戸(南部)に本店を置き、しかも2009年の県内信金再編で、経営危機の信金を救済合併して生まれました。合併に加わらず単独を選んだ東奥信金(預貸率46.7%・自己資本14.45%)と、救済合併で大きくなった青い森信金とは、同じ青森でありながら対照的な道を歩んだことになります。津軽と南部、単独と合併——二つの信金を並べると、人口減の北の県で信金が選んだ別々の生き方が見えてきます。南部の信金の姿は、青い森信用金庫の記事もあわせてどうぞ。
借り手にとっての意味
地元に密着した信用金庫は、地域の中小事業者にとって、身近な相談相手です。とりわけ単独を貫く東奥信金は、津軽という地区の事情を知り抜いた存在です。預貸率が低めであることは貸出に慎重な局面を示すとも読めますが、それが個別の融資の可否を一律に決めるわけではありません。預貸率という数字の読み方は、預貸率の読み方であらためて整理しています。
数字は、選んだ道を映す
預貸率46.7%という水準と、自己資本比率14.45%という厚さは、一つになる道を採らず、津軽で単独の生き残りを選んだ信金の堅実な構えを映しています。合併で規模を得る信金もあれば、東奥信用金庫のように単独で足場を固める信金もある。数字は、その金融機関がどんな選択をして地域に立ち続けてきたかを語ります。東奥信用金庫の数字は、りんごの里・津軽で独り立ちを保つ「とうしん」の、いまの記録です。
各地の金融機関には、それぞれの土地と選択の事情が刻まれた、それぞれの生き方があります。青森県の他の金融機関とあわせて眺めたい方は、青森県の地域金融機関のページもどうぞ。
出典:預金・貸出金・預貸率・自己資本比率・不良債権比率・中小企業等向け貸出先件数=金融庁「中小・地域金融機関情報一覧」令和7年3月末(預貸率は貸出金÷預金で算出)。
東奥信用金庫の沿革(1971年7月に弘前・黒石の両信用金庫が合併して発足、本店は弘前市、津軽エリアに21店を展開、2009年の1県1信金構想〔青い森信用金庫〕から臨時総代会の反対多数で離脱し単独での生き残りを選択)に関する記述=東奥信用金庫および各種公開情報にもとづく。
弘前市・津軽地方の経済(りんご生産量全国一、弘前城・岩木山、城下町、人口減少)に関する記述=各種公開情報。
青い森信用金庫の位置づけ=各種公開情報および本紀行既出記事。
信用金庫の地区・会員資格に関する記述=金融庁 金融審議会「協同組織金融機関のあり方に関するワーキング・グループ」資料『協同組織金融機関の「地区」のあり方』(2008年6月20日・神吉正三)。