熊本銀行 × 肥後銀行——同じ城下町、別々のメガ地銀グループ
同じ熊本市に本店を置く2つの地銀が、九州を二分する別々のメガ地銀グループに属している。ふくおかフィナンシャルグループの熊本銀行と、九州フィナンシャルグループの肥後銀行。グループの資金力、預貸率127.2%対85.9%、そして1先あたりの平均融資額——半導体に沸く熊本で、激しく2行がつばぜり合いをしている。
熊本市。加藤清正が築いた熊本城を望むこの城下町に、2つの地方銀行が本店を置いている。肥後銀行と熊本銀行だ。県内のシェアでは肥後銀行が圧倒的なトップで、熊本銀行がそれを追う。同じ県都に本拠を構える、いわば地元の二強である。
だが、この2行を「同じ熊本の地銀」とひとくくりにすると、肝心なところを見落とす。2行は、いま、九州を二分する別々のメガ地銀グループに属している。熊本銀行は、福岡銀行を中核とするふくおかフィナンシャルグループ(FFG)の一員。肥後銀行は、鹿児島銀行と組んだ九州フィナンシャルグループ(九州FG)の中核だ。同じ城下町に本店を構えながら、背負っているグループが違う。その違いが、2行の貸し方の数字に、くっきりと表れている。
今回は、この2行を並べる。グループの資金力、預貸率、そして——融資先の数から割り出した「1先あたりの平均融資額」という、ふだんあまり光の当たらない数字から、2行が何にどう貸しているのかを読みにいく。
まず、数字を並べる
| 熊本銀行 | 肥後銀行 | |
|---|---|---|
| 種別 | 第二地方銀行 | 地方銀行 |
| 所属グループ | ふくおかFG | 九州FG |
| 預金 | 16,692億円 | 54,741億円 |
| 貸出金 | 21,227億円 | 47,028億円 |
| 預貸率 | 127.2% | 85.9% |
| 自己資本比率 | 10.75% | 10.92% |
| 不良債権比率 | 1.54% | 1.21% |
| 店舗 | 70店 | 124店 |
預金・貸出金の規模では肥後銀行が上回る。一方、預貸率では熊本銀行が127.2%と突出する。
規模で見れば、肥後銀行が一回り大きい。預金は3.3倍、貸出金は2.2倍。県内シェア約6割を握る盟主と、それを追う第二地銀という関係が、絶対値にそのまま出ている。
ところが、預貸率を見ると景色が変わる。熊本銀行127.2%、肥後銀行85.9%。集めた預金に対してどれだけ貸しているかでは、熊本銀行のほうが大きく上回る。熊本銀行は、預金を3割も超えて貸し出している。預金が貸出の原資である以上、ふつう預貸率は100%を超えない。この異例の数字は、後で見るグループの資金力と深く関わっている。
ギミック——1先あたり、いくら貸しているか
ここで、ひとつ別の角度から2行を見てみたい。金融庁の公開データには、各行が中小企業等へいくら貸しているか(貸出残高)に加えて、その貸出先が何件あるか(貸出先件数)も載っている。この2つを割り算すると、「中小企業1先あたり、平均していくら貸しているか」が分かる。残高を件数で割るだけの素朴な計算だが、2行の貸し方の性格が、ここに浮かび上がる。
| 熊本銀行 | 肥後銀行 | |
|---|---|---|
| 中小企業等向け貸出残高 | 12,584億円 | 28,127億円 |
| 中小企業等向け貸出先件数 | 86,406件 | 149,031件 |
| 1先あたり平均融資額 | 約1,456万円 | 約1,887万円 |
残高÷件数で算出した、ごく素朴な平均。肥後銀行のほうが1先あたり約430万円大きい。
計算してみると、熊本銀行は1先あたり約1,456万円、肥後銀行は約1,887万円。肥後銀行のほうが、1先あたり約430万円、率にして約3割大きい。これは何を意味するのか。
もちろん、この数字だけで断定はできない。だが、ひとつの読み筋として、盟主・肥後銀行は、相対的に規模の大きな取引先に厚く貸す比重が高く、熊本銀行は、より小口の取引先に薄く広く貸しているという姿が浮かぶ。県内シェア約6割の肥後銀行には、地場の中堅・有力企業のメイン口座が集まりやすい。一方、第二地銀である熊本銀行は、もともと相互銀行を出自とし、中小・零細との小口取引を地盤としてきた。1先あたり平均融資額の430万円の差は、その出自と立ち位置の違いを映していると読める。同じ熊本の地銀でも、「誰に」「どれくらいの大きさで」貸すかは、こうして数字に表れる。
なぜ預金を超えて貸せるのか——グループの資金力
熊本銀行の預貸率127.2%という異例の数字に戻りたい。預金を超えて貸し出すには、預金以外の原資が要る。それを可能にしているのが、ふくおかフィナンシャルグループ(FFG)の一員という立場だ。FFGは、福岡銀行を中核に、熊本銀行・十八親和銀行・福岡中央銀行などを傘下に持つ、国内最大級の地域金融グループである。グループ全体で資金を融通し合うなかで、熊本銀行は一行単体の預金量を超えて貸し出すことができる。127.2%は、熊本銀行が単独で無理をしているのではなく、グループの資金力を背に、熊本という市場へ積極的に貸している姿の表れと読める。
一方の肥後銀行は、2015年に鹿児島県のトップバンク・鹿児島銀行と経営統合し、九州フィナンシャルグループ(九州FG)を設立した。それぞれの県でシェアトップの地銀同士が対等に組んだ、初の事例として注目された統合だ。本社機能は熊本市、登記上の本店は鹿児島市に置く。肥後銀行の預貸率85.9%は、地銀として十分よく貸す水準だが、預金を超えるほどではない。県内シェア約6割という分厚い預金基盤を持つぶん、預金の範囲のなかで貸す余裕がある、とも読める。
同じ土地に、同じ追い風——TSMC
2行が貸す相手の土地は、同じ熊本だ。そしていま、熊本は全国でも有数の、資金需要の旺盛な土地になっている。世界最大の半導体受託製造企業・TSMCが県内菊陽町に進出し、関連企業の集積、工場・住宅・店舗の建設、人の流入が相次いでいる。農業県としての底堅さに、半導体をめぐる新しい資金需要が重なった。
この追い風は、2行に共通して吹いている。熊本銀行は、熊本県内での個人・法人向け貸出が伸び、金利上昇も加わって、2025年3月期の当期純利益が前の期比49.0%の増益となった。肥後銀行も、県内シェア約6割という基盤を生かし、この動きの中心で貸し先を得ている。2行の旺盛な貸出は、グループの資金力という「貸せる仕組み」と、半導体投資に沸く熊本という「貸す先のある土地」が重なったところに立っている。同じ追い風を受けながら、背負うグループと出自の違いが、預貸率と平均融資額の差になって表れている——それが、いまの熊本2行の姿だ。
歴史を一行——盟主と、追う者
2行の立ち位置の違いは、歴史にも根がある。肥後銀行の源流は、1879年(明治12年)設立の第百三十五国立銀行にさかのぼる。昭和金融恐慌を安田財閥の支援で乗り越え、2〜4代頭取を安田家から迎えた。明治の国立銀行に源を持ち、財閥に支えられて危機を越えた、文字どおりの県の盟主である。一方の熊本銀行は、第二地方銀行として、相互銀行を出自とする中小・零細との取引を地盤に育ち、2007年にふくおかフィナンシャルグループ入りした。盟主として地場の有力企業に厚く貸す肥後銀行と、グループの資金力を背に小口へ薄く広く攻める熊本銀行。1先あたり平均融資額の差は、この歩みの違いの、いまの姿でもある。
数字は、グループと土地を映す
同じ城下町に本店を置く2行を並べると、「熊本の地銀」というひとつの言葉のなかに、まるで違う2つの姿があることが見えてくる。預貸率127.2%と85.9%。1先あたり平均融資額、約1,456万円と約1,887万円。これらの差は、背負うグループの違い(ふくおかFGと九州FG)と、出自の違い(第二地銀と県の盟主)が、半導体に沸く同じ熊本という土地のうえで描いた、それぞれの貸し方の地図だ。
2行それぞれをより詳しく知りたい方は、熊本銀行の個別記事(預貸率127.2%とグループの資金力)と、肥後銀行の個別記事(安田財閥に支えられた熊本の盟主)をどうぞ。預貸率という数字の読み方は預貸率の読み方で、熊本県の他の金融機関は熊本県の地域金融機関のページでどうぞ。
執筆・監修:燧徹史(¥Today 編集責任者)
出典:預金・貸出金・預貸率・自己資本比率・不良債権比率・中小企業等向け貸出残高・中小企業等向け貸出先件数・店舗数=金融庁「中小・地域金融機関情報一覧」令和7年3月末(預貸率は貸出金÷預金で算出)。
1先あたり平均融資額=上記の中小企業等向け貸出残高を中小企業等向け貸出先件数で割って算出(熊本銀行=12,584億円÷86,406件、肥後銀行=28,127億円÷149,031件)。あくまで残高を件数で割った平均値であり、個別の融資額を示すものではない。
熊本銀行の当期純利益・増益率=熊本銀行2025年3月期決算(同行発表・各種報道)。
ふくおかフィナンシャルグループ・九州フィナンシャルグループの構成・経営統合(2015年の肥後銀行・鹿児島銀行統合、2007年の熊本銀行のFFG入り等)に関する記述=各社・各グループ公開情報。
肥後銀行の沿革(第百三十五国立銀行を源流とし、昭和金融恐慌を安田財閥の支援で越え、2〜4代頭取を安田家から迎えたこと)・県内メインバンクシェア(約6割)に関する記述=各種公開情報。
TSMCの熊本県菊陽町への進出と関連する地域経済の動向に関する記述=各種公開情報・報道。
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