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あぶくま信用金庫——原発事故の被災地に根ざす信金は、なぜ自己資本が突出して厚いのか

預貸率32.5%、自己資本比率35.63%。南相馬市に本店を置くあぶくま信用金庫。福島・浜通りの被災地に根ざす信金が、突出して厚い自己資本を持つ数字を、震災と復興の歩みから確かな事実にもとづいて読みます。

ニホン銀行紀行 ・ 福島県

福島県南相馬市に本店を置くあぶくま信用金庫は、地元で「あぶしん」と呼ばれる信用金庫です。預金3,126億円、貸出金1,016億円、店舗16。福島県浜通り(太平洋沿岸地域)の各地と、その北側の宮城県東南部の沿岸に店舗を展開する信用金庫です。「あなたの街の親近バンク」をキャッチフレーズに掲げてきました。

本拠地の浜通りは、福島県の太平洋沿岸地域です。この地域は、2011年の東日本大震災と、それに伴う東京電力福島第一原子力発電所の事故という、未曾有の災害の影響を最も深く受けた土地です。あぶくま信用金庫も、原発事故に伴う避難区域に所在する複数の店舗が、長く営業休止を余儀なくされました。震災と原発事故、そしてその後の長い復興という、他に類を見ない歩みが、この信金の置かれた状況を決定づけています。この土地の事情を抜きに、あぶくま信用金庫の数字は読めません。

あぶくま信用金庫は、1950年に設立され、浜通りとともに歩んできました。数字の面で際立つのは、二つの点です。ひとつは預貸率32.5%という低さ。もうひとつは自己資本比率35.63%という、信用金庫としては突出した厚みです。なぜ、これほど貸さず、これほど資本が厚いのか。その答えは、震災と復興の歩みのなかにあります。

まず、数字を並べる

あぶくま信用金庫の預金は3,126億円、貸出金は1,016億円、預貸率32.5%。自己資本比率は35.63%と極めて厚い。不良債権比率は1.94%。中小企業等向けの貸出先は3千件を超えます。

あぶくま信用金庫(令和7年3月末)
預金3,126億円
貸出金1,016億円
預貸率32.5%
自己資本比率35.63%
不良債権比率1.94%
中小企業等向け貸出先3,123件
店舗16店

預貸率32.5%・自己資本35.63%。突出して厚い資本の意味を、復興の歩みから読む。

32.5%と35.63%を、震災と復興の歩みから読む

自己資本比率35.63%は、信用金庫として突出した厚みです。本紀行でこれまで見てきた信金のなかでも、際立って高い水準にあります。そして預貸率は32.5%——集めた預金の3分の1ほどしか貸出に回していない。この二つの数字は、浜通りという土地が歩んできた、特別な事情と切り離せません。

背景にある確かな事実として、あぶくま信用金庫は2012年に、整理回収機構から175億円の公的資金の注入を受けています。これは、東日本大震災と原発事故という未曾有の災害のなかで、被災地の金融機能を維持し、地域経済を支え続けられるよう、経営基盤を強化するための措置でした。突出して厚い自己資本比率は、こうした経緯と無関係ではないと考えられます。被災地の信用金庫が、地域とともに復興を歩むためには、何があっても揺らがない財務基盤が要る。厚い自己資本は、その備えと読めます。

預貸率32.5%という低さも、同じ文脈で読めます。原発事故の影響で人口が大きく減り、避難や産業の停止が続いた地域では、貸出を伸ばせる資金需要そのものが大きく損なわれました。預金は集まっても、貸せる先が限られる。あふれた預金は運用に向かい、預貸率は低くとどまります。不良債権比率1.94%が比較的低く保たれているのも、貸出を慎重に絞ってきたことの表れでしょう。これらの数字は、被災地という土地の現実と、そこで地域を支え続けようとする信金の姿が、合わさって表れたものと読めます。なお、個別の被害や復興の状況は地域や時期によって大きく異なり、ここで断定的に描くことは控えます。確かなのは、この信金が困難な土地で地域とともにあり続けてきた、という事実です。

あぶくま信用金庫が示すのは、未曾有の災害を経た土地で、揺らがぬ基盤を保ち地域を支え続ける信金の姿です。公的資金の注入を経て厚く積まれた自己資本と、損なわれた地域の資金需要を映す低い預貸率。35.63%と32.5%は、被災地の復興を支えるという、重い役割の表れと読めます。

復興のために、自治体と手を組む

あぶくま信用金庫は、金融の数字の外でも、地域の復興に深く関わってきました。確かな事実として、原発事故の被害を受けた大熊町・富岡町・双葉町といった自治体と、復興に向けた連携協定を結んでいます。住民が広く避難を強いられ、行政機能も移転を余儀なくされた地域で、金融機関が自治体と手を組み、被災地の情報発信や地域の再建を支える——これは、ふつうの信用金庫の業務の枠を超えた取り組みです。地域とともにあり続けるという信用金庫の役割が、この土地では復興の担い手という形をとっている、と言えます。

なぜ、こうなったのか——制度と地域

あぶくま信用金庫が地元の中小事業者に貸す信金であることの背景には、信用金庫という制度があります。信用金庫が融資できる相手は原則として「会員」に限られ、その資格は信用金庫法10条1項により、信用金庫の定める「地区」の中に住所や事業所がある人、その地区で働く人、と定められています。事業者には規模の制限もあり、大企業は会員になれません。

この枠のもとでは、貸す相手はおのずと地元の中小事業者や住民に絞られます。あぶくま信用金庫にとって、その「地元」とは、震災と原発事故を経て復興を歩む浜通りそのものです。地区が定められ、地域とともにあるという信用金庫の制度が、最も困難な局面において、「地域を支え続ける」という役割を、この信金に課しているとも言えます。

同じ福島の、会津の信金と並べてみる

本紀行には、同じ福島県の会津信用金庫も登場しています。会津信金は、福島県西部・内陸の会津地方に根ざす信金でした。浜通りの被災地に根ざすあぶくま信用金庫(預貸率32.5%・自己資本35.63%)と、内陸・会津に根ざす会津信用金庫とを並べると、同じ福島県でも、浜通り・中通り・会津という三つの地域がそれぞれ異なる事情を抱え、信金もまた異なる姿をしていることが見えてきます。福島という県の複雑な地理と歩みのなかの、もう一つの信金の姿は、会津信用金庫の記事もあわせてどうぞ。

借り手にとっての意味

困難な土地で揺らがぬ基盤を保つ信用金庫は、被災地の事業者や住民にとって、再建を支える身近な存在です。厚い自己資本は、地域が困難に直面しても資金を回し続けられる安心の裏づけになります。預貸率の低さは地域の事情によるもので、それが個別の融資の可否を一律に決めるわけではありません。預貸率という数字の読み方は、預貸率の読み方であらためて整理しています。

数字は、復興を支える役割を映す

預貸率32.5%という低さと、自己資本比率35.63%という突出した厚みは、震災と原発事故という未曾有の災害を経た浜通りに根ざし、揺らがぬ基盤を保って地域の復興を支え続けてきた信金の姿を映しています。順風の土地で貸す信金もあれば、あぶくま信用金庫のように最も困難な土地で地域を支える信金もある。数字は、その金融機関がどんな土地に立ち、どんな役割を担ってきたかを語ります。あぶくま信用金庫の数字は、復興の道を歩む浜通りに根ざす信金「あぶしん」の、いまの記録です。

各地の金融機関には、それぞれの土地と歩みの事情が刻まれた、それぞれの生き方があります。福島県の他の金融機関とあわせて眺めたい方は、福島県の地域金融機関のページもどうぞ。

出典:預金・貸出金・預貸率・自己資本比率・不良債権比率・中小企業等向け貸出先件数=金融庁「中小・地域金融機関情報一覧」令和7年3月末(預貸率は貸出金÷預金で算出)。
あぶくま信用金庫の沿革・地盤(1950年設立、南相馬市本店、福島県浜通りおよび宮城県東南部沿岸を地盤とすること、原発事故に伴い避難区域の店舗が営業休止となったこと、2012年に整理回収機構から175億円の公的資金注入を受けたこと、大熊町・富岡町・双葉町と復興に向けた連携協定を結んでいること)に関する記述=あぶくま信用金庫および各種公開情報にもとづく。
浜通りが東日本大震災・東京電力福島第一原子力発電所事故の影響を受けた地域であることに関する記述=各種公開情報。個別の被害状況の詳細には立ち入らず、確認できる事実にもとづいて記述しています。
会津信用金庫の位置づけ=各種公開情報および本紀行既出記事。
信用金庫の地区・会員資格に関する記述=金融庁 金融審議会「協同組織金融機関のあり方に関するワーキング・グループ」資料『協同組織金融機関の「地区」のあり方』(2008年6月20日・神吉正三)。

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