網走信用金庫——流氷の街の信金は、なぜ自己資本を34%も積むのか
預貸率34.7%、自己資本比率34.06%、店舗19。網走市に本店を置く網走信用金庫。オホーツク海と流氷の街に根ざし、突出して厚い自己資本と低い預貸率で「守る」ことを選んだ信用金庫。最果ての一次産業地帯の数字を読む。
北海道の北東部、オホーツク海に面した網走市に、網走信用金庫の本店はある。地元で「あばしりしんきん」と呼ばれる、店舗19の信用金庫だ。冬には流氷が押し寄せるこの街を中心に、オホーツク圏の限られた地域に根ざして、地元の一次産業と人々の暮らしを支えてきた。
網走を含むオホーツク地方は、日本でも有数の一次産業地帯だ。ホタテやサケ、カニといった海の幸、テンサイ・ジャガイモ・小麦などの大規模な畑作、そして酪農。海と大地の恵みが、この地方の経済の柱である。観光地としても知られるが、人口は決して多くなく、冬の寒さは厳しい。広大な土地に、漁業者と農業者、それを支える加工業や運送業、商店が点在する——それが、網走信用金庫の地盤だ。
この信金の数字には、ある際立った特徴がある。自己資本比率34.06%という、突出した厚さだ。同時に、預貸率は34.7%と低い。集めた預金の3分の1ほどしか貸さず、極めて厚い資本を積む——なぜ、最果ての一次産業地帯の信金は、これほど「守り」を固めるのか。数字とともに読みにいく。
数字を並べてみる
まず、絶対値から。網走信用金庫の預金は3,057億円、貸出金は1,060億円。預貸率は34.7%で、預金の3分の1ほどしか貸出に回していない。自己資本比率は34.06%と極めて厚く、不良債権比率は4.25%。店舗数は19、中小企業等への貸出残高は712億円にのぼる。
目を引くのは、自己資本比率34.06%という突出した厚さと、預貸率34.7%という低さの組み合わせだ。一般的な金融機関の自己資本比率が1割前後であることを思えば、3割を超えるこの数字は際立っている。集めた預金の3分の1ほどしか貸さず、残りを手厚い資本と運用で抱える——これは、「貸す」ことより「守る」ことに軸足を置いた経営の表れだと読める。同じオホーツク圏の北見信用金庫も、預貸率36.3%と低めで、この地方に共通する姿がうかがえる。
| 網走信用金庫 | 北見信用金庫 | |
|---|---|---|
| 本店 | 網走市 | 北見市 |
| 預金 | 3,057億円 | 5,737億円 |
| 預貸率 | 34.7% | 36.3% |
| 自己資本比率 | 34.06% | 15.42% |
| 店舗 | 19 | 29 |
同じオホーツク圏の信金でも、自己資本の積み方は異なる。隣の北見信用金庫も預貸率は低めだが、網走信用金庫の自己資本比率34.06%は、そのなかでも際立って厚い。最果ての一次産業地帯で、より守りを固めている姿が映る。
オホーツクの一次産業とともに
網走信用金庫は、オホーツク海に面した網走を中心に、長く地元の漁業・農業と暮らしを支えてきた信用金庫だ。漁業も農業も、自然条件に大きく左右される産業である。漁獲量の変動、天候による作柄の振れ、価格の上下——一次産業を地盤とする金融機関は、こうした自然の波を絶えず引き受けることになる。網走信用金庫は、その波の大きい産業に寄り添いながら、堅実な経営を積み重ねてきた。
そして、この地方が抱えるもう一つの現実が、人口の減少だ。最果ての地にあって、人口は緩やかに減り続けている。貸す相手となる事業者も、長い目で見れば先細りの傾向にある。自然の波が大きく、人口も減っていく土地で、なお地域を支え続けるには、何が起きても揺るがない厚い資本が要る——突出した自己資本比率の背景には、こうした最果ての一次産業地帯ならではの事情があると読める。
34%の資本と、34.7%の貸出を読む
網走信用金庫の自己資本比率34.06%という厚さと、預貸率34.7%という低さは、一体のものとして読める。自然条件に左右される一次産業を地盤とし、人口減という長期の重みを抱えるオホーツクの地で、「何があっても倒れない」ことを最優先にした経営——その選択が、この数字に表れている。集めた預金を無理に貸し込むのではなく、貸出を抑え、資本を極めて厚く積み、運用と合わせて備える。
貸す相手の限られた土地で無理に貸出を伸ばせば、焦げ付きのリスクが高まる。それよりも、堅実な貸出にとどめ、厚い資本で守りを固めるほうが、長く地域に在り続けるには理にかなっている。よく貸すことを競うのではなく、地域が細っていく時代にあって、なお最後まで地域とともにある——それが、この流氷の街の信金の選んだ道だと読める。高知信用金庫や稚内信用金庫といった、低い預貸率と厚い自己資本を持つ信金と同じ系譜にある、最果ての「守り」の経営だ。預貸率という数字をどう読むかについては、預貸率の読み方もあわせてどうぞ。
オホーツクの海と大地とともに
網走信用金庫の数字は、流氷の押し寄せるオホーツクの網走という土地と、一次産業と人口減を抱えて「守る」ことを選んだ信金の歩みの、両方を映している。自然の波の大きい漁業・農業に寄り添い、人口の減る最果ての地で、それでも地域とともにあり続けるために、極めて厚い自己資本を積み、貸出を抑えて備える。よく貸すことだけが地域金融の役割ではない——その一つの答えが、34%の資本と34.7%の貸出に表れている。
銀行や信用金庫の数字は、その土地の経済と、その金融機関の生き方を映す鏡だ。網走信用金庫を見れば、海と大地の恵みに依るオホーツクと、最果てで守りに徹する信金の姿が浮かぶ。同じ北海道の最果ての守りの信金は、稚内信用金庫の記事もあわせてどうぞ。預貸率という数字の読み方については、預貸率の読み方へ。北海道の他の金融機関と並べて眺めたい方は、北海道の地域金融機関のページへ。
執筆・監修:燧徹史(¥Today 編集責任者)
出典:預金・貸出金・預貸率・自己資本比率・不良債権比率・中小企業等向け貸出残高・店舗数=金融庁「中小・地域金融機関情報一覧」令和7年3月末(信用金庫の計数は百万円単位を億円に換算。預貸率は貸出金÷預金で算出)。北見信用金庫の数値も同出典。
沿革・地域(オホーツク海に面した網走市に根ざす信用金庫であること、オホーツク地方が漁業・畑作・酪農などの一次産業地帯であること、冬に流氷が押し寄せること、人口減少の傾向にあること)に関する記述=網走信用金庫および各種公開情報にもとづく。
オホーツク地方の地理・産業(オホーツク海、流氷、ホタテ・サケ・カニなどの漁業、テンサイ・ジャガイモ・小麦などの畑作、酪農、観光)に関する記述=各種公開情報。