留萌信用金庫——ニシンで栄えた日本海の港町で、信金は何に貸すか
預貸率51.6%、自己資本比率16.65%。留萌市に本店を置く留萌信用金庫「るしん」。ニシンと数の子で知られる北海道日本海側の港町に根ざし、旭川・札幌へも広がる信金の数字を読みます。
北海道留萌市に本店を置く留萌信用金庫は、地元で「るしん」と呼ばれる信用金庫です。預金2,596億円、貸出金1,340億円、店舗16。留萌市を中心に、留萌管内から旭川市・札幌市にまたがる道北・道央地区を営業基盤とし、小平町・苫前町・初山別村の指定金融機関を受託しています。
本店のある留萌市は、北海道の日本海側、増毛山地と海に挟まれた港町です。かつてこの一帯は、ニシン漁で大いに栄えました。春になると沿岸に押し寄せるニシンの群れは「群来(くき)」と呼ばれ、留萌をはじめとする日本海沿岸には、ニシン漁で財をなした網元の番屋が立ち並びました。そして留萌は、いまも数の子(ニシンの卵)の加工で全国に知られる町です。港に水揚げされ、あるいは輸入された原料を加工する水産加工業が、この町の経済を支えてきました。海とともに生きてきた日本海の港町という土地柄が、留萌信用金庫の数字を読む鍵になります。
留萌信用金庫の歩みは、1932年に保証責任留萌信用組合として設立されたことに始まり、1953年に信用金庫となりました。数字の面で目を引くのは、預貸率51.6%という水準と、自己資本比率16.65%という厚みの組み合わせです。地方の信金として、よく貸しながらも厚い守りを固めている。この二つを、留萌の土地から読みます。
まず、数字を並べる
留萌信用金庫の預金は2,596億円、貸出金は1,340億円、預貸率51.6%。自己資本比率は16.65%と厚く、不良債権比率は2.66%。中小企業等向けの貸出先は6,471件です。
| 預金 | 2,596億円 |
|---|---|
| 貸出金 | 1,340億円 |
| 預貸率 | 51.6% |
| 自己資本比率 | 16.65% |
| 不良債権比率 | 2.66% |
| 中小企業等向け貸出先 | 6,471件 |
| 店舗 | 16店 |
預貸率51.6%・自己資本16.65%。よく貸しつつ厚い守りも固める信金の数字。
51.6%と16.65%を、港町の地盤から読む
預貸率51.6%という水準と、自己資本比率16.65%という厚み。この組み合わせは、地方の港町に根ざしながらも、広域に貸し先を広げ、なおかつ堅実に守りを固める信金の姿を示しています。
留萌信用金庫が貸す相手は、留萌の水産加工業をはじめとする地元の中小事業者です。数の子をはじめとする水産加工、港の関連事業、地域の商業・建設業が、その融資先に含まれると考えられます。本紀行で見てきた、預貸率が3〜4割にとどまる地方の信金もあるなかで、留萌信用金庫の51.6%は、預金の半分を超える額を貸出に回しており、しっかり貸している方です。これを支えているのが、営業エリアの広さです。留萌信用金庫は、人口の限られる留萌管内だけでなく、道北の中心都市・旭川や、道都・札幌にも店舗を構えている。本拠地だけでは限られる貸出先を、人口の多い都市部で補ってきたことが、この預貸率を支えていると読めます。
一方で、自己資本比率16.65%という厚みは、この信金が堅実な守りも固めていることを示します。水産業は、漁獲量や相場の変動に左右されやすく、その浮き沈みは地元の融資先の経営に響きます。変動の大きい産業を抱える土地で貸し続けるには、不測の事態に耐えるだけの自己資本が欠かせない。不良債権比率2.66%は、地方の信金として極端に高くはない水準で、厚い自己資本とあわせて、攻めと守りのバランスをとった経営がうかがえます。もちろん、これらの比率には個別の事情や経営方針も絡むため断定はできませんが、ニシンで栄えた日本海の港町という土地を抜きに、この信金の数字は読めません。
なぜ、こうなったのか——制度と地域
留萌信用金庫が地元に貸す信金であることの背景には、信用金庫という制度があります。信用金庫が融資できる相手は原則として「会員」に限られ、その資格は信用金庫法10条1項により、信用金庫の「地区」の中に住所や事業所がある人、その地区で働く人、と定められています。事業者には規模の制限もあり、大企業は会員になれません。
この制度のもとでは、貸す相手はおのずと地元の中小事業者や住民に絞られます。留萌信用金庫にとって、その「地元」とは、留萌の水産業を中心としつつ、旭川・札幌までを含む道北・道央の地域経済です。広域に店舗を展開しているのも、人口の限られる留萌だけでは、地区内の会員への貸出を十分に伸ばせないという事情があると考えられます。地区の中の中小事業者や住民の相互扶助を担うという信金の役割を、より人口の多いエリアへ広げることで、経営を成り立たせてきたと読めます。
同じ北海道の、信用金庫と並べてみる
同じ北海道には、日本最北の地に根ざす稚内信用金庫があります。稚内信用金庫は、人口希薄な最北の地で守りを固め、預貸率を低めに抑えた信金でした。留萌信用金庫(預貸率51.6%)は、同じ日本海側の港町ながら、旭川・札幌という都市部にも貸し先を広げることで、より高い預貸率を保っています。同じ北海道の日本海側でも、最北の地で守りに徹する信金と、都市部へ広域展開して貸す信金とでは、数字の形が異なる。これは優劣ではなく、それぞれの営業エリアと戦略の差です。最北の信金の姿は、稚内信用金庫の記事もあわせてどうぞ。
借り手にとっての意味
地元に根ざす信用金庫は、地域の中小事業者にとって、身近な相談相手です。とりわけ、留萌の水産加工業のように、産業の変動と向き合う事業者にとって、土地の事情を知る信金の存在は心強いものです。預貸率の水準は貸出への姿勢の表れとも読めますが、それが個別の融資の可否を保証するものではありません。預貸率という数字の読み方は、預貸率の読み方であらためて整理しています。
数字は、港町の歩みを映す
預貸率51.6%という水準と、自己資本比率16.65%という厚みは、ニシンで栄え、いまも数の子の加工で知られる日本海の港町・留萌に根ざし、都市部にも貸し先を広げながら堅実に守りを固めてきた信金の姿を映しています。守りに徹する信金もあれば、広域に貸して攻めと守りを両立する信金もある。数字は、その金融機関がどんな土地で、どう経営を成り立たせてきたかを語ります。留萌信用金庫の数字は、群来の記憶が残る港町に立つ「るしん」の、いまの記録です。
本紀行には、同じ北海道の室蘭信用金庫も登場しています。室蘭信金は、太平洋側の鉄鋼の企業城下町・室蘭に根ざし、預貸率30.9%・自己資本比率27.68%と、貸出を絞り資本を極端に厚く積む信金でした。日本海側の港町に根ざし、旭川・札幌の都市部にも貸し先を広げる留萌信用金庫(預貸率51.6%)と、太平洋側の工業都市で守りを固める室蘭信用金庫(預貸率30.9%)とを並べると、広い北海道のなかでも、日本海側と太平洋側、港町と工業都市とで、信金の数字の形が異なることが見えてきます。鉄の街の信金の姿は、室蘭信用金庫の記事もあわせてどうぞ。
各地の金融機関には、それぞれの土地と産業の事情が刻まれた、それぞれの生き方があります。北海道の他の金融機関とあわせて眺めたい方は、北海道の地域金融機関のページもどうぞ。
出典:預金・貸出金・預貸率・自己資本比率・不良債権比率・中小企業等向け貸出先件数=金融庁「中小・地域金融機関情報一覧」令和7年3月末(預貸率は貸出金÷預金で算出)。
留萌信用金庫の沿革(1932年に保証責任留萌信用組合として設立、1953年に信用金庫へ改組)、留萌市を本店とし留萌管内・旭川市・札幌市を営業基盤とすること、小平町・苫前町・初山別村の指定金融機関であることに関する記述=留萌信用金庫および各種公開情報にもとづく。
留萌市の歴史と産業(ニシン漁・群来・数の子の加工・水産加工業、日本海側の港町)に関する記述=各種公開情報。
稚内信用金庫の位置づけ=各種公開情報および本紀行既出記事。
信用金庫の地区・会員資格に関する記述=金融庁 金融審議会「協同組織金融機関のあり方に関するワーキング・グループ」資料『協同組織金融機関の「地区」のあり方』(2008年6月20日・神吉正三)。