¥Today ニホン銀行紀行

石巻信用金庫——三陸の港町で、信金はなぜ自己資本を31%も積むのか

自己資本比率31.74%、預貸率45.6%、預金1,831億円。石巻市に本店を置く石巻信用金庫。東日本大震災で被災した三陸の港町に根ざし、突出して厚い自己資本を持つ信用金庫。その数字と歴史を読む。

ニホン銀行紀行 ・ 宮城県

宮城県の三陸沿岸、石巻市に本店を置く石巻信用金庫は、地元で「いしのまきしんきん」と呼ばれる信用金庫だ。預金1,831億円、店舗13。石巻市を中心に、宮城県北東部の沿岸地域を地盤としている。地域に密着した中規模の信金だ。

本拠の石巻は、三陸の豊かな漁場を背景に、水産業で栄えてきた港町だ。石巻漁港は全国でも有数の水揚げを誇り、水産加工業も集積する。漫画家・石ノ森章太郎ゆかりの地として、まちおこしにも取り組んできた。一方で、この地は2011年の東日本大震災で、津波により甚大な被害を受けた地域でもある。石巻信用金庫もまた、本店をはじめ多くの店舗が被災しながら、地域の復興とともに歩んできた。

この信金の数字でまず目を引くのは、自己資本比率31.74%という突出した厚さだ。信用金庫の自己資本比率は1割前後が標準的ななかで、3割を超えるこの数字は際立っている。預貸率45.6%は標準的だが、資本の厚さが群を抜く。なぜ、三陸の港町の信金はこれほど資本を積むのか。同じ宮城県の三陸の信金とも比べながら、数字を読みにいく。

数字を並べてみる

まず、絶対値から。石巻信用金庫の預金は1,831億円、貸出金は835億円。預貸率は45.6%で、預金の半分弱を貸出に回している。自己資本比率は31.74%と極めて厚く、不良債権比率は6.18%とやや高めだ。店舗数は13、中小企業等への貸出残高は646億円。

際立つのは、自己資本比率31.74%という厚さだ。同じ宮城県の三陸沿岸で、東日本大震災により甚大な被害を受けた気仙沼を地盤とする気仙沼信用金庫(自己資本比率32.07%・預貸率38.2%)と並ぶ、極めて高い水準である。三陸沿岸の二つの信金が、ともに3割を超える厚い自己資本を持つ。これは偶然ではなく、震災という大きな災害を経験し、水産業という変動の大きい産業を地盤とする土地で、不測の事態に備えて体力を厚く保つという選択の表れだと読める。不良債権比率6.18%というやや高めの数字も、厚い自己資本がその備えとして効いてくる。

宮城県・三陸沿岸の二つの信用金庫(令和7年3月末)
 石巻信用金庫気仙沼信用金庫
本店石巻市気仙沼市
預金1,831億円1,320億円
預貸率45.6%38.2%
自己資本比率31.74%32.07%
不良債権比率6.18%6.47%

同じ三陸沿岸に立ち、ともに東日本大震災で被災した二つの信金。両者とも3割を超える厚い自己資本を持つ。気仙沼信用金庫と並ぶ、変動の大きい土地で守りを固める姿が数字に出ている。

三陸の港町とともに——石巻信用金庫の歩み

石巻信用金庫は、水産業で栄えた石巻の事業者の相互扶助の金融機関として育ってきた。漁業者、水産加工業者、そして港町の商店や個人——こうした人々が預金を預け、必要なときに資金を借りる。三陸の海とともに生きる地域の経済を、石巻信用金庫は長く支えてきた。

2011年の東日本大震災では、石巻は津波により大きな被害を受けた。石巻信用金庫も店舗や設備が被災し、地域の事業者も甚大な打撃を受けた。そうした困難のなかで、石巻信用金庫は地域の復興とともに歩んできた。水産業という変動の大きい産業を地盤とし、なおかつ大きな災害を経験したという土地柄が、この信金の経営の根底にあると読める。安定を最優先し、不測の事態にも揺るがない体力を保つ——その姿勢が、厚い自己資本に結びついている。

31.74%の資本を、三陸から読む

石巻信用金庫の自己資本比率31.74%という突出した厚さは、変動の大きい水産業を地盤とし、大きな災害を経験した土地で、長く地域とともに在り続けるための備えとして読める。漁業や水産加工は、漁獲や市況、自然災害の影響を受けやすい。地域経済が落ち込んでも貸し続けられる体力、そして再び災害が起きても揺るがない守り——厚い自己資本は、その両方を支える土台になる。

預貸率45.6%という標準的な水準は、地元にしっかり貸しながらも、無理な貸し込みを避けていることを示す。不良債権比率6.18%というやや高めの数字は、変動の大きい地場産業の事情を映すが、3割を超える厚い自己資本があれば十分に吸収できる。派手に貸して規模を追うのでなく、厚い資本で守りを固め、三陸の港町に静かに寄り添い続ける——それが、石巻信用金庫の数字に表れた生き方だと読める。同じ三陸の気仙沼信用金庫とよく似たこの姿は、震災を経験した土地の信金が共有する選択だと読める。預貸率という数字をどう読むかについては、預貸率の読み方もあわせてどうぞ。

石巻の経済とともに

石巻信用金庫の数字は、水産業で栄え、震災を経験した三陸・石巻という土地と、その変動の大きい経済のなかで守りを固める信金の歩みの、両方を映している。豊かな漁場と港町に根ざし、大きな災害を越えて、厚い自己資本と標準的な預貸率で地域に寄り添ってきた。不測の事態に備える姿勢が、31.74%という突出して厚い自己資本に表れている。

銀行や信用金庫の数字は、その土地の経済と、その金融機関の生き方を映す鏡だ。石巻信用金庫を見れば、水産と震災を経た三陸・石巻の経済と、そこで守りを選んだ信金の姿が浮かぶ。同じ宮城県の三陸沿岸の信金は、気仙沼信用金庫の記事、東北最大の地銀は七十七銀行の記事もあわせてどうぞ。預貸率という数字の読み方については、預貸率の読み方へ。宮城県の他の金融機関と並べて眺めたい方は、宮城県の地域金融機関のページへ。

預貸率とは 預貸率(よたいりつ)とは、金融機関の貸出金残高を預金残高で割った比率。預かった資金のうち、どれだけを貸出に回しているかを示す。預貸率が中位の金融機関は、地元の資金需要に応えつつ、運用とのバランスを取っている一つの目安になる。ただし、自己資本の厚さとあわせて見ることで、その経営が守りをどれだけ重んじているかがより立体的に見えてくる。 → くわしくは「預貸率の読み方

執筆・監修:燧徹史(¥Today 編集責任者)

出典:預金・貸出金・預貸率・自己資本比率・不良債権比率・中小企業等向け貸出残高・店舗数=金融庁「中小・地域金融機関情報一覧」令和7年3月末(信用金庫の計数は百万円単位を億円に換算。預貸率は貸出金÷預金で算出)。気仙沼信用金庫の数値も同出典。
沿革・地域(石巻市に本店を置き、宮城県北東部の沿岸を地盤とする信用金庫であること、石巻が三陸の漁場を背景に水産業・水産加工で栄えた港町であること、石ノ森章太郎ゆかりの地であること、2011年の東日本大震災で津波により被災したこと)に関する記述=石巻信用金庫および各種公開情報にもとづく。
石巻・三陸の地理・産業(三陸沿岸、石巻漁港、水産業、水産加工、東日本大震災)に関する記述=各種公開情報。

← ニホン銀行紀行へ | ¥Today トップへ