石巻商工信用組合——震災を越えた港町・石巻で、信組は何を抱えて貸すか
預貸率57.6%、自己資本比率21.77%、不良債権比率10.56%。石巻市に本店を置く石巻商工信用組合。石巻商工会議所を母体に生まれ、震災最大級の被災地・港町に根ざす信組の数字を読みます。
- 2026.06.19【保証協会】26年度補正予算成立、セーフティネット保証5号の事前相談を開始。指定業種で、直近月の売上高が前年同月比で5%以上減少等の要件(経産省PDF)を満たす中小事業者が対象。
宮城県石巻市に本店を置く石巻商工信用組合は、預金1,032億円、貸出金595億円、店舗12。石巻市を中心に、宮城県北東部の沿岸地域を地盤とする信用組合です。
本店のある石巻市は、宮城県の北東部、太平洋に面した県内最大級の港町です。世界三大漁場のひとつ・三陸沖を控えた石巻漁港を擁する、水産と水産加工のまちであり、北上川の河口に開けた商業の集積地でもあります。だが、この土地を語るうえで避けられないのが、2011年の東日本大震災です。石巻は津波により市街地と沿岸部が壊滅的な被害を受け、東日本大震災で最も多くの犠牲者を出した自治体のひとつとなりました。そこからの長い復興の歩みが、いまも続いています。この、海の恵みと震災の傷を併せ持つ土地柄が、石巻商工信用組合の数字を読む鍵になります。
この信用組合は、1955年、石巻商工会議所を母体・仮店舗として設立されました。商工業者の相互扶助の組織として出発し、石巻のまちの事業者とともに歩んできた信組です。数字の面で目を引くのは、不良債権比率10.56%という高さと、自己資本比率21.77%という厚い守りの、一見ちぐはぐな組み合わせです。
まず、数字を並べる
石巻商工信用組合の預金は1,032億円、貸出金は595億円、預貸率57.6%。自己資本比率は21.77%、不良債権比率は10.56%。中小企業等向けの貸出先は3,589件です。
| 預金 | 1,032億円 |
|---|---|
| 貸出金 | 595億円 |
| 預貸率 | 57.6% |
| 自己資本比率 | 21.77% |
| 不良債権比率 | 10.56% |
| 中小企業等向け貸出先 | 3,589件 |
| 店舗 | 12店 |
不良債権10.56%・自己資本21.77%。震災を越えた港町に根ざす信組の数字を読む。
10.56%と21.77%を、震災を越えた港町から読む
まず目を引くのは、不良債権比率10.56%という高さです。これは本紀行で見てきた信用組合・信用金庫のなかでも、際立って高い水準です。数字だけを見れば守りに強い不安を覚えるところですが、ここで土地の事情を抜きに断じるのは早計です。石巻は、東日本大震災で最大級の被害を受けた港町です。津波で事業の基盤そのものを失った事業者は数多く、その傷は、その地に資金を貸してきた信組の貸出の質に、いまも深く影を落としています。10.56%という数字は、この土地とともに在り続けてきたことの重みでもあります。
注目したいのは、その高い不良債権と並んで、自己資本比率21.77%という、信用組合として際立って厚い守りを保っている点です。傷の大きさに備え、厚く自己資本を積んで経営の健全性を守る——この厚い守りがあるからこそ、高い不良債権を抱えながらも、地域への資金供給を続けられていると読めます。預貸率57.6%という、信組として相応に高い水準は、震災を越えてなお地元の事業者に貸し続けてきたことの表れです。石巻商工信用組合が貸す相手は、水産・水産加工、港の商業、まちの建設業やサービス業といった地元の事業者です。
もちろん、これらの比率には個別の事情や経営方針も絡むため断定はできませんが、震災の傷を抱える石巻という土地を抜きに、この信組の数字は読めません。高い不良債権比率は、楽観できる数字ではありません。だが、それを「経営の失敗」とだけ読むのは、この港町が背負ってきたものを見落とすことになります。厚い守りを固めながら、それでも貸し続ける——そこにこの信組の姿勢が表れています。
なぜ、こうなったのか——制度と地域
石巻商工信用組合が地元に貸す信組であることの背景には、信用組合という制度があります。信用組合が融資できる相手は原則として「組合員」に限られます。組合員になれるのは、中小企業等協同組合法などにより、その信用組合の地区内に住所や事業所がある中小事業者・勤労者などで、員外への貸出には制限があります。事業者には規模の制限もあり、大企業は組合員になれません。
この制度のもとでは、貸す相手はおのずと地元の中小事業者や住民に絞られます。石巻商工信用組合にとって、その「地元」とは、震災を経た石巻の港町経済です。地区の外へ自由に逃れられない信組は、地域が傷つけばその傷を共に負い、地域が立ち直ろうとすればその歩みに資金を添える立場にあります。高い不良債権を抱えながら厚い自己資本を積み、なお貸し続けるその姿は、地区とともに在り続ける協同組織金融機関のありようを、震災を越えた石巻という土地の上で映した数字とも読めます。
同じ県の、金融機関と並べてみる
同じ宮城県を代表する地銀として、七十七銀行(預貸率70.1%)も本紀行に登場しています。県土全体を相手にする県地銀・七十七銀行(預貸率70.1%)と、石巻の港町に根ざすこの石巻商工信用組合(預貸率57.6%)とを並べると、同じ宮城でも、県全域を相手にする地銀と、特定地域に密着する信組とで、貸す範囲も性格も異なることが見えてきます。県全体を支える地銀の姿は、七十七銀行の記事もあわせてどうぞ。
同じ石巻には、石巻信用金庫もあります。預貸率45.6%の石巻信用金庫と、預貸率57.6%の石巻商工信用組合は、同じ港町を地盤としながら数字の形が異なります。同じ石巻の震災を越えた信金と信組。それぞれの守りと貸出の姿は、石巻信用金庫の記事もあわせてどうぞ。
借り手にとっての意味
地元に根ざす信用組合は、地域の中小事業者にとって、身近な相談相手です。とりわけ、震災を越えて事業を続ける石巻の事業者にとって、土地の事情を知る信組の存在は心強いものです。預貸率は数字の一面にすぎず、それが個別の融資の可否を保証するものではありません。預貸率という数字の読み方は、預貸率の読み方であらためて整理しています。
数字は、根を張る土地を映す
不良債権比率10.56%という高さと、自己資本比率21.77%という厚さは、東日本大震災で最大級の被害を受けた港町・石巻に根を張り、傷を抱えながらも地域とともに歩んできた信組の姿を映しています。数字は、その金融機関がどんな土地で、誰に向き合ってきたかを語ります。石巻商工信用組合の数字は、海の恵みと震災の記憶を併せ持つ港町に残った信組の、いまの記録です。
各地の金融機関には、それぞれの土地と産業の事情が刻まれた、それぞれの生き方があります。宮城県の他の金融機関とあわせて眺めたい方は、宮城県の地域金融機関のページもどうぞ。
石巻商工信用組合は、地域に根ざした信用組合です。借りる・備えるのどちらを考えるにしても、土台になるのは日頃の取引と信用。口座づくりから保証制度まで、どんな立場でも知っておきたい融資・銀行取引の基礎をまとめました。
- → 口座を育てる
- → 積立で信用をつくる
- → 与信枠の考え方
- → 創業支援保証とは
- → セーフティネット保証とは
執筆・監修:燧徹史(¥Today 編集責任者)
出典:預金・貸出金・預貸率・自己資本比率・不良債権比率・中小企業等向け貸出先件数=金融庁「中小・地域金融機関情報一覧」令和7年3月末(預貸率は貸出金÷預金で算出)。
石巻商工信用組合の沿革(1955年に石巻商工会議所を母体・仮店舗として設立)、石巻市を中心に宮城県北東部沿岸を地区とすることに関する記述=石巻商工信用組合公開情報・各種公開情報にもとづく。
石巻市の石巻漁港・水産加工業・北上川河口の商業、東日本大震災の被害と復興に関する記述=各種公開情報。
七十七銀行・石巻信用金庫の数値=金融庁「中小・地域金融機関情報一覧」令和7年3月末。
信用組合の組合員・員外貸出に関する記述=中小企業等協同組合法ほか関係法令にもとづく一般的な整理。
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