長野県信用組合——「信用組合」という、もうひとつの地域金融
銀行でも信用金庫でもない「信用組合」。長野県信用組合は預金約1兆円まで育ちながら、貸出に回すのは3割あまり。信金よりさらに狭い組合員の枠が、貸せる範囲をどう形づくっているのかを読む。
地域の金融機関というと、地方銀行や信用金庫を思い浮かべる人が多いでしょう。だが、もうひとつ「信用組合」という種類があります。長野県長野市に本店を置く長野県信用組合は、その代表格のひとつです。地元では「けんしん」と呼ばれています。
長野県は、全国でも有数の製造業県です。県内総生産の四分の一前後を製造業が占め、光学機器や電子部品といった精密・加工組立型の産業が集積しています。加えて、野菜・果樹・花きの園芸農業も盛んです。広い県土に経済圏がいくつにも分かれているのも、この県の特徴です。この土地柄が、長野県信用組合の数字を読む鍵になります。
この信用組合、規模は小さくありません。預金は9,994億円、ほぼ1兆円に届きます。信用組合の業界では全国でも有数の大きさです。にもかかわらず、貸出金は3,454億円で、預貸率は34.6%。集めた預金のうち、貸出に回しているのは3割あまりにとどまります。なぜ、これほどの預金を集めながら、貸出は控えめなのか。その答えは、「信用組合」という制度そのものにあります。
まず、数字を並べる
| 預金 | 9,994億円 |
|---|---|
| 貸出金 | 3,454億円 |
| 預貸率 | 34.6% |
| 自己資本比率 | 14.33% |
| 不良債権比率 | 4.67% |
| 当期純利益 | 2期連続の最高益(有価証券運用益が寄与) |
| 店舗 | 52店・長野県内各地 |
預金は信用組合として全国有数。だが貸出に回すのは3割あまり。残りは運用へ。
当期の利益は、2期連続の最高益となりました。前の期(2024年3月期)の税引き利益は約83億円で2期ぶりの最高益、そして2025年3月期はそれを上回ったと報じられています。利益を押し上げたのは、有価証券の運用益です。貸出に回さない資金を運用に振り向け、そこから利益を生む——この点では、四国の高知信用金庫とも通じる構図があります。ただ、長野県信用組合の場合、その低い預貸率の背景には、信用組合という制度の固有の事情が色濃くにじんでいます。
「信用組合」は、信用金庫とどう違うのか
銀行・信用金庫・信用組合は、どれも地域でお金を扱いますが、よって立つ法律が違います。銀行は銀行法。信用金庫は信用金庫法。そして信用組合は、中小企業等協同組合法と、協同組合による金融事業に関する法律(協金法)にもとづく協同組織です。
違いの核心は、「誰に貸せるか」の枠の狭さにあります。信用金庫も、融資先は原則として地区内の中小事業者や住民である会員に限られます。だが信用組合は、その枠がさらに狭い。信用組合の貸出は原則として組合員に対して行うものとされ、組合員以外への貸出(員外貸出)は、信用金庫よりも厳しく制限されています。組合員になれる資格も、地区内の住民・事業者などに限定されます。つまり、銀行 → 信用金庫 → 信用組合と進むほど、制度が定める「貸せる相手の枠」は段階的に狭くなっていきます。
この制度の段差が、預貸率に効いてきます。貸せる相手が制度によって絞られているほど、いくら預金が集まっても、それを貸出に変えられる範囲は限られます。長野県信用組合が、ほぼ1兆円の預金を抱えながら預貸率34.6%にとどまるのは、けっして貸す気がないからではなく、信用組合という器が許す貸出の範囲が、預金の伸びに追いつかないという構造の表れと読み取れます。あふれた資金は、自然と運用に向かいます。
広い県土という、もうひとつの事情
制度に加えて、長野という土地の事情もあります。長野県は全国でも有数の広い県土を持ち、地形も山がちで、経済圏がいくつにも分かれています。長野県信用組合は52の店舗を県内各地に広げ、その隅々から預金を集めていますが、広く分散した地域から集めた資金を、同じ広いエリアの組合員へ満遍なく貸し出すのは、簡単なことではありません。集めやすさと貸しやすさのあいだには、地理的な開きがあります。なお、不良債権比率4.67%は、こうした広域での貸出に伴うものとも考えられますが、自己資本比率14.33%はそれを受け止める水準にあると読めます。比率の数字には引当方針なども絡むため、断定は避けたいと思います。
4.67%を、長野の産業から読む
もう一歩、この不良債権比率4.67%という数字を、長野という土地の側から読んでみたいと思います。長野県の基幹産業は、実は製造業です。県内総生産の四分の一前後を製造業が占め、それも光学機器や電子部品といった、精密・加工組立型の産業が集積しています。戦前の製糸業から、戦中に疎開してきた光学・通信機器の工場を経て、いまや光学分野や電子部品で全国上位の出荷を誇ります。加えて、野菜・果樹・花きといった園芸農業も盛んです。
ここに、信用組合の貸し手としての特徴が重なります。長野県信用組合が貸す相手は、制度上、地区内の中小・小規模の事業者が中心になります。そのなかには、大手メーカーの下請けとして精密部品や電子部品をつくる小さな工場も多いと見られます。こうした加工組立型の中小製造業は、為替の動き、原材料の高騰、そして大手の海外調達へのシフトに、経営が左右されやすいです。リーマンショックのときに輸出が落ち込んだように、世界経済の揺れが、そのまま地元の小さな工場の受注に響く構造です。
だから、不良債権比率4.67%という数字には、こうした製造業の振れ幅も影響していると思われます。近年の原材料高や為替の振れは、輸入コストや受注の面で中小製造業の経営を揺さぶり、そのひとつひとつが、地元に貸す金融機関の債権の質にはね返ります。もちろん、不良債権比率には、広域に分散した貸出の難しさや、個別の大口先の事情、引当の方針なども絡むので、「製造業の不調が原因だ」と断定することはできません。だが、製造業を基幹とする長野の地で、その事業者に貸してきた信組である以上、貸し手の債権にもその業種の体質が映り込んでいると読めます。そして、その振れを受け止めるためにも、自己資本比率14.33%という厚みが生きてきます。
攻めの信組という、もうひとつの顔
ただ、この4.67%を、もう一つ別の角度からも読んでおきたいと思います。不良債権比率がやや高めに出るのは、貸出に消極的だからとは限りません。むしろ、踏み込んで貸しているからこそ、という読み方も成り立ちます。
長野県信用組合は、信組としては異例なほど踏み込んだ動きをしてきた金融機関です。たとえば、勘定系システム。全国の信用組合は、コストを押さえるために業界共同のシステムを使うのが普通ですが、この組合は全国の信組で唯一、勘定系を自前で持っているとされます。それだけの独立したシステム投資を抱える規模と意思があるということです。加えて、シンガポールに駐在員事務所を置き、地元企業の海外販路開拓を支えるという、信組としては突出した取り組みもしています。創業支援や事業承継、経営再生の支援にも、外部の専門家と組んで積極的に踏み込んでいます。
こうした姿勢を重ねると、不良債権比率4.67%には、もうひとつの読みが浮かびます。難しさのある事業や、再生途上の先にも手を伸ばして支えれば、そのうちのいくつかは焦げ付きます。4.67%という数字は、貸さない臆病さの裏返しではなく、むしろ踏み込んで貸したことの「勇気ある挑戦の向こう傷」の面もあるのかもしれません。もちろん、どちらか一方だと断じることはできません。先に見た製造業の逆風も、広域の貸出の難しさも、そしてこの挑戦的な姿勢も、それぞれが重なってこの数字になっていると見るのが、おそらく実態に近いでしょう。数字ひとつにも、そうしたいくつもの読み方があります。
借り手にとっての意味
信用組合で借りるには、原則として組合員になる必要があります。組合員になれるのは、その信用組合の地区内に住む人や事業者などに限られます。つまり、預貸率が低いからといって誰でも借りやすいわけではなく、まず制度上の要件を満たすことが前提になります。ここでも、「預貸率が低い=借りやすい」とは限りません。預貸率という数字の読み方は、預貸率の読み方であらためて整理しています。
銀行・信金・信組という、三つの層
同じ「地域でお金を扱う」でも、銀行・信用金庫・信用組合では、制度が定める貸せる範囲がそれぞれ違います。その違いが、預貸率や経営の姿に表れ、それぞれの生き方を分けています。長野県信用組合の34.6%という数字は、信用組合という、もっとも組合員の枠が狭い器のなかで、広い県土の資金を預かり運用してきた結果の姿です。地域金融を読むとき、その金融機関が銀行なのか、信金なのか、信組なのかを知ることは、数字の意味を正しく受け取るための第一歩になります。
同じ長野県には、県を代表する大手地銀の八十二銀行があります。県全域に貸す八十二銀行(預貸率69.3%)と、組合員の枠のなかで運用に厚みを置く長野県信用組合(34.6%)とを並べると、同じ県の金融の重層性が見えてきます。一県一行体制へ向かう巨大地銀の姿は、八十二銀行の記事もあわせてどうぞ。
各地の金融機関には、制度と土地の事情が刻まれた、それぞれの生き方があります。長野県の他の金融機関とあわせて眺めたい方は、長野県の地域金融機関のページもどうぞ。
出典:預金・貸出金・預貸率・自己資本比率・不良債権比率=金融庁「中小・地域金融機関情報一覧」令和7年3月末。
当期利益(2期連続最高益・有価証券運用益の寄与)・前期税引き利益約83億円=各種決算報道。店舗数等=長野県信用組合公開情報。
信用組合・信用金庫の根拠法および員外貸出の制限に関する記述=中小企業等協同組合法・協同組合による金融事業に関する法律、信用金庫法、および金融庁・全国信用組合中央協会等の公開資料にもとづく一般的な制度の説明。
長野県の基幹産業(製造業の構成比・光学・電子部品・園芸農業等)に関する記述=長野県「県民経済計算」・長野県産業関連資料・農林水産省資料等の公開情報。
勘定系システムの自営・シンガポール駐在員事務所・海外販路開拓支援・創業・事業承継・経営再生支援等の取り組みに関する記述=長野県信用組合公開情報・長野県SDGs推進企業情報・各種公開資料等。