芝信用金庫——都心の中小企業に貸す、城南の信金の堅実
預貸率52.5%、不良債権比率2.39%。東京・港区新橋に本店を置く芝信用金庫。中小企業が密集する城南エリア(港区・大田区)を地盤に、都心の小さな事業者へ貸す信金の数字を、その立地の強みから読みます。
東京都港区新橋に本店を置く芝信用金庫は、地元で「しばしん」と呼ばれる信用金庫です。預金1兆1,130億円、貸出金5,847億円、店舗49。1925年に有限責任芝信用組合として設立され、戦後に信用金庫へ改組、2003年には大田区を地盤とする東調布信用金庫と合併して、いまの姿になりました。本店を構える新橋をはじめ、東京23区の南側、いわゆる城南エリアを中心に店舗を広げています。
この信用金庫の地盤を理解する鍵は、城南という土地の性格にあります。港区は新橋・浜松町・三田といったオフィス街を抱え、数えきれないほどの中小企業がひしめく街。合併で加わった大田区は、町工場の集積地として全国に知られ、小さな製造業が層をなしています。都心でありながら、あるいは都心だからこそ、中小・零細の事業者が極めて多い——この立地が、芝信用金庫の数字を読む鍵になります。
この信用金庫の預貸率は52.5%。集めた預金の半分ほどを貸出に回しています。運用に偏った信金ほど低くはなく、かといって預金を超えて貸すような攻めの数字でもない。この中庸の預貸率と、低めに保たれた不良債権比率を重ねて読むと、都心の信金ならではの堅実さが見えてきます。
まず、数字を並べる
芝信用金庫の預金は1兆1,130億円、貸出金は5,847億円、預貸率52.5%。自己資本比率は13.87%、不良債権比率は2.39%。中小企業等向けの貸出先は2万4,520件にのぼります。
| 預金 | 1兆1,130億円 |
|---|---|
| 貸出金 | 5,847億円 |
| 預貸率 | 52.5% |
| 自己資本比率 | 13.87% |
| 不良債権比率 | 2.39% |
| 中小企業等向け貸出先 | 24,520件 |
| 店舗 | 49店 |
預金1兆円規模に対し、貸出先は2万4千件超。都心の中小事業者に幅広く貸す信金です。
52.5%と2.39%を、城南の立地から読む
預貸率52.5%という中庸の数字と、不良債権比率2.39%という低めの数字。この二つを合わせて読むと、都心に立つ信金の堅実な姿が浮かびます。
芝信用金庫が貸す相手は、城南エリアの中小事業者です。そのなかには、港区のオフィス街で事業を営む小さな会社やサービス業、大田区の町工場をはじめとする小規模な製造業、そして都心の商店や飲食店が含まれると考えられます。都心の中小企業は、地方の一次産業地帯とは事情が違います。人口や事業所の密度が高く、貸す相手の母数が大きい。景気の波は受けるものの、特定の一次産業や地場産業の浮き沈みに地域全体が振り回される、という性質は薄い。多様な業種の中小事業者が密集する土地では、貸し先が分散され、不良債権比率も低めに保たれやすいと考えられます。2.39%という数字は、本紀行で見てきた地方の信金(不良債権比率が一割を超える先もある)と比べれば、はっきり低い水準です。
もっとも、都心の好立地は、競争の激しさと裏表でもあります。港区・大田区には、メガバンクから他の信用金庫まで、あらゆる金融機関がひしめいています。預貸率が52.5%と、預金を超えて貸すほどには高くないのは、集めた預金に対して、信金が貸せる中小向けの融資機会が、競争のなかで限られる面もあると読めます。あふれた預金は有価証券などの運用に向かいます。もちろん、これらの比率には個別の事情も絡むため断定はできませんが、中小企業が密集する城南という立地を抜きに、この数字は読めません。
なぜ、こうなったのか——制度と地域
芝信用金庫が都心の中小事業者に貸す信金であることの背景には、信用金庫という制度があります。信用金庫が融資できる相手は原則として「会員」に限られ、その資格は信用金庫法10条1項により、信用金庫の「地区」の中に住所や事業所がある人、その地区で働く人、と定められています。事業者には規模の制限もあり、大企業は会員になれません。
この制度のもとでは、貸す相手はおのずと地元の中小事業者や住民に絞られます。港区には大企業の本社も数多くありますが、それらは信用金庫の会員にはなれない。芝信用金庫が向き合うのは、その足元にいる無数の中小・零細の事業者です。都心の信金は、大企業の影で働く小さな事業者の層に資金を流す——その役割は、地方の信金が地元の一次産業に貸すのと、本質では変わりません。違うのは、向き合う相手が都市の中小企業だということです。
借り手にとっての意味
都心に根ざす信用金庫は、地域の中小事業者にとって身近な相談相手です。とりわけ、メガバンクが相手にしにくい小規模な事業者にとって、地元の事情を知る信金の存在は心強いものです。芝信用金庫のように、城南の中小企業に向き合ってきた信金は、その層の事情を知る相手になりえます。ただし、それでも審査は審査であり、預貸率の数字だけで借りやすさが決まるわけではありません。預貸率という指標の読み方は、預貸率の読み方であらためて整理しています。
数字は、立地の性格を映す
預貸率52.5%という中庸さと、不良債権比率2.39%という低さは、中小企業が密集する城南エリアという立地に支えられ、都心の小さな事業者に堅実に貸してきた信金の姿を映しています。一次産業の浮き沈みを抱える地方の信金もあれば、都市の中小企業に分散して貸す信金もある。数字は、その金融機関がどんな土地で、誰に向き合ってきたかを語ります。芝信用金庫の数字は、都心という立地が持つ堅実さの表れと読めます。
各地の金融機関には、それぞれの土地の事情が刻まれた、それぞれの生き方があります。東京都の他の金融機関とあわせて眺めたい方は、東京都の地域金融機関のページもどうぞ。
出典:預金・貸出金・預貸率・自己資本比率・不良債権比率・中小企業等向け貸出先件数=金融庁「中小・地域金融機関情報一覧」令和7年3月末(預貸率は貸出金÷預金で算出)。
芝信用金庫の沿革(1925年設立、2003年の東調布信用金庫との合併)・営業地区(港区・大田区を中心とする城南エリア等)に関する記述=芝信用金庫の公開情報等。
港区・大田区の産業(オフィス街・中小企業・町工場の集積)に関する記述=各種公開情報。
信用金庫の地区・会員資格に関する記述=金融庁 金融審議会「協同組織金融機関のあり方に関するワーキング・グループ」資料『協同組織金融機関の「地区」のあり方』(2008年6月20日・神吉正三)。