¥Today ニホン銀行紀行

新宮信用金庫——熊野の地で、自己資本24%を積む信金は何を守るか

預貸率43.6%、自己資本比率23.85%。新宮市に本店を置く新宮信用金庫。熊野・新宮に根ざす信金が、際立って厚い自己資本を積む姿を、紀伊半島南端という土地から読みます。

ニホン銀行紀行 ・ 和歌山県

和歌山県新宮市に本店を置く新宮信用金庫は、地元で「しんぐうしんきん」と呼ばれる信用金庫です。預金1,153億円、貸出金503億円、店舗8。和歌山県南部、紀伊半島の南端に位置する熊野・新宮を地盤とする信用金庫です。

本拠地の新宮市は、紀伊半島の南東端、熊野川の河口に開けた町です。熊野速玉大社を擁し、世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」の一角をなす熊野の中心都市のひとつで、古くから木材(熊野の山林)と、河口の港を通じた水運・商いで栄えてきました。背後には険しい紀伊山地が広がり、大阪・和歌山市といった県北の都市部からは遠く隔たっています。この、紀伊半島南端の隔絶した熊野の地という土地柄が、新宮信用金庫の数字を読む鍵になります。

数字の面で何より目を引くのは、自己資本比率23.85%という、際立って厚い水準です。本紀行で見てきた信金・信組の多くが8%から13%ほどであることを思えば、これは突出した数字です。あわせて、預貸率43.6%という、やや低めの水準があります。この二つを、熊野という土地から読みます。

まず、数字を並べる

新宮信用金庫の預金は1,153億円、貸出金は503億円、預貸率43.6%。自己資本比率は23.85%と際立って高い。不良債権比率は3.74%。中小企業等向けの貸出先は3千件を超えます。

新宮信用金庫(令和7年3月末)
預金1,153億円
貸出金503億円
預貸率43.6%
自己資本比率23.85%
不良債権比率3.74%
中小企業等向け貸出先3,850件
店舗8店

自己資本23.85%。際立って厚い守りを、熊野の地から読む。

自己資本23.85%を、熊野の地から読む

自己資本比率23.85%は、信用金庫として際立って高い水準です。自己資本比率は、その金融機関がどれだけの「備え」を持っているかを示す指標で、信金では一般に基準を大きく上回る10%前後が多い。それが20%を超えるというのは、長い年月をかけて利益を内部に積み立て、損失への備えを極めて厚くしてきたことを意味します。あわせて、預貸率43.6%というやや低めの水準は、集めた預金の4割強しか貸出に回さず、残りを有価証券などの運用と内部留保にあてていることを示しています。

この「厚い守り」は、新宮信用金庫が置かれた地理から読み解けます。紀伊半島の南端、険しい山地に隔てられた熊野は、人口減少と過疎が著しく進む地域です。林業はかつての勢いを失い、貸出を大きく伸ばせる優良な借り手は限られます。貸す相手が乏しい土地では、無理に貸して焦げ付きを増やすより、堅実に運用し、利益を内部に積んで守りを固めるほうが理にかなう。預貸率の低さと自己資本の厚さは、ともに「貸し先の限られた隔絶した地で、堅実に生き残る」という選択の表れと読めます。

もっとも、不良債権比率3.74%は地方の信金として中程度で、貸している先には相応のリスクもあります。だが、これだけ厚い自己資本があれば、多少の焦げ付きは十分に吸収できる。攻めるより守る、伸ばすより備える——新宮信用金庫の数字は、過疎の進む熊野の地で長く存続するための、堅実そのものの経営を映していると読めます。もちろん、自己資本比率の水準には個別の経緯も絡むため一概には言えませんが、紀伊半島南端の隔絶した熊野という土地を抜きに、この際立った数字は読めません。

新宮信用金庫が示すのは、貸し先の限られた隔絶の地で、厚い守りを固めて生き残る信金の姿です。自己資本比率23.85%という突出した厚みと、やや低めの預貸率。この組み合わせは、過疎の進む熊野で、攻めるより備えることを選んできた堅実経営の表れと読めます。

なぜ、こうなったのか——制度と地域

新宮信用金庫が地元の中小事業者に貸す信金であることの背景には、信用金庫という制度があります。信用金庫が融資できる相手は原則として「会員」に限られ、その資格は信用金庫法10条1項により、信用金庫の定める「地区」の中に住所や事業所がある人、その地区で働く人、と定められています。事業者には規模の制限もあり、大企業は会員になれません。

この枠のもとでは、貸す相手はおのずと地元の中小事業者や住民に絞られます。新宮信用金庫にとって、その「地元」とは、紀伊半島南端の隔絶した熊野・新宮の地域経済です。会員資格が地区内に絞られるという制度の枠のなかで、貸し先の限られた土地で堅実に守りを固めるという道を、この信金は選んできたと読めます。

同じ和歌山で、紀州の信金と並べてみる

本紀行には、同じ和歌山県のきのくに信用金庫も登場しています。きのくに信金は、和歌山市など県北部を中心とする信金でした。紀伊半島南端の熊野に根ざし厚い守りを固める新宮信用金庫(自己資本23.85%・預貸率43.6%)と、県北部に根ざすきのくに信用金庫とを並べると、同じ和歌山県でも、都市部のある県北と、過疎の進む紀南とで、信金の置かれた条件が大きく異なることが見えてきます。紀州のもう一つの信金の姿は、きのくに信用金庫の記事もあわせてどうぞ。

借り手にとっての意味

地元に根ざす信用金庫は、地域の事業者にとって身近な相談相手です。とりわけ、貸し手の少ない過疎の地域では、地元の信金の存在は心強いものです。厚い自己資本は、その信金が腰を据えて地域に存続し続けられる備えでもあります。預貸率の水準は地盤の事情によるもので、それが個別の融資の可否を一律に決めるわけではありません。預貸率という数字の読み方は、預貸率の読み方であらためて整理しています。

数字は、熊野の隔絶を映す

自己資本比率23.85%という際立った厚みと、やや低めの預貸率は、紀伊半島南端の隔絶した熊野に根ざし、貸し先の限られた土地で堅実に守りを固めてきた信金の姿を映しています。都市圏で積極的に貸す信金もあれば、新宮信用金庫のように過疎の地で備えを厚くする信金もある。数字は、その金融機関がどんな土地で、どんな生き方を選んできたかを語ります。新宮信用金庫の数字は、熊野の地に長く根を張る信金の、いまの記録です。

各地の金融機関には、それぞれの土地と歩みの事情が刻まれた、それぞれの生き方があります。和歌山県の他の金融機関とあわせて眺めたい方は、和歌山県の地域金融機関のページもどうぞ。

出典:預金・貸出金・預貸率・自己資本比率・不良債権比率・中小企業等向け貸出先件数=金融庁「中小・地域金融機関情報一覧」令和7年3月末(預貸率は貸出金÷預金で算出)。
新宮信用金庫の地盤(新宮市本店、和歌山県南部・熊野新宮を地盤とする信用金庫であること)に関する記述=新宮信用金庫および各種公開情報にもとづく。
新宮市・熊野の地理と歴史(紀伊半島南端、熊野川河口、熊野速玉大社、世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」、林業・水運、人口減少・過疎、紀伊山地に隔てられていること)に関する記述=各種公開情報。
自己資本比率・預貸率の一般的な意味に関する記述=一般的な金融制度の説明にもとづく。
きのくに信用金庫の位置づけ=各種公開情報および本紀行既出記事。
信用金庫の地区・会員資格に関する記述=金融庁 金融審議会「協同組織金融機関のあり方に関するワーキング・グループ」資料『協同組織金融機関の「地区」のあり方』(2008年6月20日・神吉正三)。

← ニホン銀行紀行へ | ¥Today トップへ