きのくに信用金庫——みかんの国のメガ信金は、なぜ預金の4割しか貸さないのか
預貸率36.2%、預金1兆円超。和歌山市に本店を置くきのくに信用金庫は、3つの信金が合併して生まれたメガ信金。みかんと梅の果樹県を地盤に、預金の4割ほどしか貸さない低い預貸率を、土地の産業から読みます。
和歌山県和歌山市に本店を置くきのくに信用金庫は、預金1兆1,191億円、貸出金4,048億円、店舗43。預金1兆円を超える、全国でも有数の規模を持つ「メガ信金」です。源流は明治44年にさかのぼり、1993年に南海・和歌山・紀州という3つの信用金庫が合併して、いまのきのくに信用金庫になりました。和歌山県内と大阪府南部を事業区域としています。
この信金の地盤・和歌山県は、果樹王国です。みかんの産地として知られ、梅(南高梅)の生産は日本一。有田や日高といった地域では、山の斜面を埋める果樹園が土地の風景をつくっています。海沿いには鉄鋼や石油精製などの工業もありますが、県全体としては、果樹を中心とした農業と、それを支える地域の商業が経済の大きな部分を占めています。この土地の産業構造が、きのくに信用金庫の数字を読む鍵になります。
この信用金庫の数字で最も目を引くのは、預貸率36.2%という低さです。預金1兆円を超える規模を持ちながら、貸出に回しているのは4割ほど。なぜ、これほど貸さないのか。その答えは、和歌山という土地の産業のあり方にあります。
まず、数字を並べる
きのくに信用金庫の預金は1兆1,191億円、貸出金は4,048億円、預貸率36.2%。自己資本比率は15.99%、不良債権比率は3.01%。中小企業等向けの貸出先は3万2,765件にのぼります。
| 預金 | 1兆1,191億円 |
|---|---|
| 貸出金 | 4,048億円 |
| 預貸率 | 36.2% |
| 自己資本比率 | 15.99% |
| 不良債権比率 | 3.01% |
| 中小企業等向け貸出先 | 32,765件 |
| 店舗 | 43店 |
預金1兆円超のメガ信金。なのに預貸率は36.2%。この低さを、果樹県から読む。
36.2%を、果樹県の産業から読む
預貸率36.2%という低さは、きのくに信用金庫が「貸さない」のではなく、「集めた預金に見合うだけの貸出先が、地元に多くない」ことの表れと読めます。
和歌山の経済を支える果樹農業は、地域に深く根づいた産業ですが、大規模な設備投資や運転資金を継続的に必要とする業種とは、少し性格が異なります。多くは家族経営の農家で、借入よりも自己資金で営まれる部分が大きい。預金は地域から厚く集まる一方で、大きく借りてくれる事業者が相対的に限られる——この非対称が、低い預貸率の背景にあると考えられます。預金1兆円というメガ信金の規模に対して、貸出が4,048億円にとどまるのは、和歌山という土地の産業構造を映したものと読めます。あふれた資金は、有価証券などの運用に向かい、自己資本比率15.99%という厚みを保つことにもつながっています。
本紀行では、同じく果樹や農業の地で、低い預貸率を持つ信金をいくつも見てきました。きのくに信用金庫の36.2%も、その系譜に連なる数字です。規模が大きいことと、よく貸すことは、別の話。メガ信金であっても、地元の産業が借入を多く必要としなければ、預貸率は低く出る。この信金は、そのことを大きな規模で示す好例といえます。もちろん、預貸率には経営方針も絡むため、産業構造だけが理由とは断じられませんが、果樹県という地盤を抜きに、この数字は読めません。
同じ和歌山の、地銀と並べてみる
同じ和歌山県には、県唯一の地方銀行である紀陽銀行があります。紀陽銀行の預貸率は89.1%。きのくに信用金庫の36.2%とは、対照的な数字です。だが、この差は優劣ではありません。紀陽銀行は、和歌山県内だけでは貸出を伸ばしきれないからこそ、貸出の半分超を北隣の大阪に向けている。同じ和歌山に根ざしながら、地銀は県外の大阪に活路を求め、信金は県内の預金を運用に回す——県内の資金需要の限界という同じ事情に、二つの金融機関が違う形で向き合っているのです。果樹県・和歌山の金融の姿は、紀陽銀行の記事とあわせて読むと、より立体的に見えてきます。
なぜ、こうなったのか——制度と地域
きのくに信用金庫が地元に根ざす信金であることの背景には、信用金庫という制度があります。信用金庫が融資できる相手は原則として「会員」に限られ、その資格は信用金庫法10条1項により、信用金庫の「地区」の中に住所や事業所がある人、その地区で働く人、と定められています。事業者には規模の制限もあり、大企業は会員になれません。
この制度のもとでは、貸す相手はおのずと地元の中小事業者や住民に絞られます。きのくに信用金庫にとって、その「地元」とは、果樹農業を中心とする和歌山県と大阪府南部の地域経済です。3つの信用金庫が合併して大きな規模を得たこの信金が向き合うのは、その土地の中小事業者と住民であり、彼らの資金需要の大きさが、結果として預貸率という数字に表れています。
借り手にとっての意味
地元に根ざす信用金庫は、地域の事業者にとって身近な相談相手です。とりわけ、果樹農業の関係者や、地域の商業を担う中小事業者にとって、土地の事情を知る信金の存在は心強いものです。預貸率の低さは、借りやすさとは関係なく、地域の産業のあり方を映したものです。預貸率という数字の読み方は、預貸率の読み方であらためて整理しています。
数字は、土地の産業を映す
預貸率36.2%という低さは、預金1兆円のメガ信金でありながら、果樹農業を中心とする和歌山の土地で、地元の資金需要に応じて貸してきた信金の姿を映しています。規模の大きさは、必ずしも高い預貸率を意味しない。数字は、その金融機関がどんな土地の、どんな産業に向き合ってきたかを語ります。きのくに信用金庫の数字は、みかんと梅の国に立つメガ信金の、いまの記録です。
本紀行には、同じ和歌山県の新宮信用金庫も登場しています。新宮信金は、紀伊半島の南端・熊野に根ざし、自己資本比率23.85%という際立った厚い守りを固める信金でした。県北部を中心に貸すこのきのくに信用金庫(預金1兆円・預貸率36.2%)と、過疎の進む紀南の熊野に根ざす新宮信用金庫(預金1,153億円・自己資本23.85%)とを並べると、同じ和歌山県でも、都市部のある県北と、過疎の進む紀南とで、信金の置かれた条件が大きく異なることが見えてきます。紀南の信金の姿は、新宮信用金庫の記事もあわせてどうぞ。
各地の金融機関には、それぞれの土地の産業と事情が刻まれた、それぞれの生き方があります。和歌山県の他の金融機関とあわせて眺めたい方は、和歌山県の地域金融機関のページもどうぞ。
出典:預金・貸出金・預貸率・自己資本比率・不良債権比率・中小企業等向け貸出先件数=金融庁「中小・地域金融機関情報一覧」令和7年3月末(預貸率は貸出金÷預金で算出)。
きのくに信用金庫の沿革(明治44年に源流、1993年に南海・和歌山・紀州の3信用金庫が合併)、預金1兆円超のメガ信金であること、和歌山県内および大阪府南部を事業区域とすることに関する記述=きのくに信用金庫および各種公開情報にもとづく。
和歌山県の産業(みかん・梅などの果樹農業、海沿いの工業)に関する記述=各種公開情報。
紀陽銀行の数値=金融庁「中小・地域金融機関情報一覧」令和7年3月末。
信用金庫の地区・会員資格に関する記述=金融庁 金融審議会「協同組織金融機関のあり方に関するワーキング・グループ」資料『協同組織金融機関の「地区」のあり方』(2008年6月20日・神吉正三)。