あいち銀行——二つの第二地銀が一つになった「あいぎん」は、名古屋で何に貸すか
預貸率81.7%、預金5.9兆円、店舗193。2025年1月、愛知銀行が中京銀行を吸収合併して誕生した第二地方銀行「あいち銀行」。預金量で名古屋銀行を上回り、愛知県の地銀を2行に集約した、その数字と再編の歴史を読む。
愛知県は、日本のものづくりの中心地だ。トヨタ自動車を頂点とする自動車産業の集積を軸に、機械・部品・素材の中小企業が幾重にも連なる。製造品出荷額は長く全国一を保ってきた。その産業の厚みに比べて、不思議なことが一つある。愛知県には、地方銀行協会に加盟する、いわゆる「地銀」が存在しない。県の金融を支えてきたのは、第二地方銀行の系譜に連なる銀行たちだった。
その第二地銀の世界に、2025年、大きな再編があった。これまで県内で競い合ってきた愛知銀行と中京銀行という二つの第二地銀が、一つになったのだ。2025年1月1日、愛知銀行が中京銀行を吸収合併し、「あいち銀行」が発足した。通称は「あいぎん」。本店は名古屋市中区に置く。生まれたばかりの、しかし大きな銀行である。
この合併で、あいち銀行の預金量は、もう一つの雄である名古屋銀行を上回った。長く愛知の第二地銀は複数が分け合う構図だったが、いまや、あいち銀行と名古屋銀行という二行に集約されつつある。その新しい銀行の数字を、土地から読みにいく。
数字を並べてみる
まず、絶対値から。あいち銀行の預金は5兆9,457億円、貸出金は4兆8,547億円。預貸率は81.7%で、預金の8割以上を貸出に回している。自己資本比率は7.79%、不良債権比率は1.8%。店舗数は193にのぼる。第二地方銀行としては、全国でも有数の規模である。
特徴は、その預貸率の高さだ。81.7%という数字は、地方銀行・第二地銀のなかでもよく貸す部類に入る。製造品出荷額全国一の愛知という土地が、それだけ旺盛な資金需要を生んでいることの表れだと読める。集めた預金を運用に逃がさず、地元の事業者に貸す——その姿勢が、この数字に見てとれる。
| あいち銀行 | 名古屋銀行 | |
|---|---|---|
| 種別 | 第二地方銀行 | 第二地方銀行 |
| 預金 | 59,457億円 | 47,972億円 |
| 貸出金 | 48,547億円 | 40,055億円 |
| 預貸率 | 81.7% | 83.5% |
| 自己資本比率 | 7.79% | 11.47% |
愛知の地銀は、いまやあいち銀行と名古屋銀行の二行に集約された。預金量ではあいち銀行が上回るが、預貸率は名古屋銀行がやや高く、自己資本比率では名古屋銀行が厚い。どちらもよく貸す、ものづくり県の第二地銀である。
愛知銀行と中京銀行——二つの無尽が源流
あいち銀行を構成した二つの銀行は、どちらも無尽(むじん)を源流に持つ。無尽とは、人々が金を出し合い、くじや入札で順番に融通し合う、庶民の相互金融のしくみだ。銀行が相手にしなかった小さな商人や勤め人にとって、無尽は身近な資金の頼みだった。多くの第二地方銀行が、この無尽を出発点としている。
存続会社となった愛知銀行の源流は古い。1910年(明治43年)に設立された日本貯蓄興業を母体の一つとし、1916年に名古屋無尽へと商号を変えた。1919年には丹羽郡で愛知無尽が営業を始めている。こうした無尽が積み重なり、戦後の相互銀行を経て、1989年(平成元年)の普通銀行転換で愛知銀行となった。一方の中京銀行も、無尽を源流とする第二地銀で、長く名古屋を地盤に営業してきた。スズキの創業者一族にゆかりのある人物が経営に関わった時期もあったと伝えられる。
同じ愛知の無尽を出自とし、同じ第二地銀として、長く県内で競い合ってきた二行。その二つが、人口減少と低金利という地方銀行共通の逆風のなかで、競うより手を組む道を選んだ。
「あ・い・ち」に込めた合併の物語
合併への歩みは、段階を踏んで進んだ。2021年12月、愛知銀行と中京銀行は、持株会社方式での経営統合と、両行の合併で合意したと発表した。そして2022年10月3日、共同持株会社「あいちフィナンシャルグループ」が発足した。この持株会社の名に込められた由来が、合併の精神をよく表している。愛知銀行の「あ」、中京銀行の「ち」、そして地域一番の「い」を一緒に目指す——「あ・い・ち」の三文字に、二行が一つになって地域に尽くすという願いが託された。
統合から合併までは、慎重に準備が進められた。地盤が重なる店舗の統廃合、システムの統一、人事交流。両行で150を超える拠点のうち、重複するものを整理し、3割ほど減らす計画が立てられた。そして2025年1月1日、愛知銀行が中京銀行を吸収合併し、商号を「あいち銀行」に変更。1月の数日をかけて全拠点の看板が架け替えられ、新しい銀行としての営業が始まった。二つの無尽の系譜が、一世紀あまりを経て、一つの流れに合わさったのである。
ものづくりの県で、よく貸す
あいち銀行の預貸率81.7%は、第二地方銀行としてよく貸す水準だ。この数字の背景には、愛知県という土地の産業構造がある。トヨタを頂点とする自動車産業のすそ野には、無数の部品メーカー、加工業者、素材メーカーが連なっている。そうした中小製造業の一つひとつが、設備投資や運転資金の需要を持つ。あいち銀行は、こうした地場の事業者に貸すことで、預金の8割以上を貸出に回している。
合併で生まれた規模を、どう生かすか。あいち銀行の頭取は、合併前の取材に対し、店舗統合で生まれる人材を活用して、取引先の課題解決を図る「コンサルティング事業」を強化する方針を示したと伝えられる。単に金を貸すだけでなく、事業そのものを支える。規模が大きくなったぶん、より厚く地域に関わろうとする姿勢だと読める。預貸率という数字をどう読むかについては、預貸率の読み方もあわせてどうぞ。
愛知の経済とともに
あいち銀行の数字は、ものづくり全国一の愛知県を、第二地銀としてよく貸して支える姿を映している。二つの無尽を源流とする銀行が、一世紀あまりを経て一つになり、預金量で名古屋銀行を上回る規模となった。生まれたばかりの銀行だが、その出自には、庶民の相互金融という古い心が流れている。
銀行の数字は、その土地の経済と再編の歴史を映す鏡だ。あいち銀行を見れば、ものづくりの集積地・愛知の姿と、人口減と向き合う地方銀行が進める再編の動きが浮かぶ。預貸率という数字の読み方については、預貸率の読み方もあわせてどうぞ。愛知県の他の金融機関と並べて眺めたい方は、愛知県の地域金融機関のページへ。
執筆・監修:燧徹史(¥Today 編集責任者)
出典:預金・貸出金・預貸率・自己資本比率・不良債権比率・店舗数=金融庁「中小・地域金融機関情報一覧」令和7年3月末(預貸率は貸出金÷預金で算出)。名古屋銀行の数値も同出典。
沿革(愛知銀行・中京銀行がともに無尽を源流とすること、愛知銀行が1910年設立の日本貯蓄興業を母体の一つとし1916年に名古屋無尽へ商号変更・1919年に愛知無尽が営業開始・1989年に普通銀行転換、2021年12月の統合合意、2022年10月3日のあいちフィナンシャルグループ発足、2025年1月1日に愛知銀行が中京銀行を吸収合併して「あいち銀行」に商号変更)に関する記述=あいち銀行・あいちフィナンシャルグループ公開情報、各種報道、各種公開情報。
持株会社名「あいち」の由来(愛知銀行の「あ」・中京銀行の「ち」・地域一番の「い」)に関する記述=あいちフィナンシャルグループ公開情報。
店舗統廃合の計画、合併後の預金量が名古屋銀行を上回ること、頭取がコンサルティング事業強化の方針を示したとされることに関する記述=各種報道、各種公開情報。
愛知県の産業(自動車産業の集積、製造品出荷額、中小製造業のすそ野、地方銀行協会加盟の地銀が存在しないこと)に関する記述=各種公開情報。