北九州銀行——工業の街の新しい銀行は、なぜ預金を超えて貸すのか
預貸率111.2%。2011年に開業した若い銀行・北九州銀行。預金を超えて貸し出すその数字を、山口フィナンシャルグループの一員という立場と、ものづくりの集積地・北九州工業地帯という土地から読む。
福岡県北九州市に本店を置く北九州銀行は、地方銀行のなかでは珍しい、若い銀行だ。2011年、山口銀行から分かれる形で開業した。預金1兆2,826億円、店舗37。歴史の長い地方銀行が多いなかで、2010年代に生まれたという点が、まず目を引く。
北九州市は、日本のものづくりを支えてきた工業都市である。明治期の官営八幡製鉄所に始まり、鉄鋼・化学・機械といった重厚長大の産業が集積した「北九州工業地帯」の中心地として、近代日本の工業を牽引してきた。今も多くの製造業が立地し、関連する中小事業者が層をなす、ものづくりの街だ。この「工業の街」という土地柄が、北九州銀行の数字を読む鍵になる。
この銀行の預貸率は111.2%。集めた預金よりも、貸し出している金額のほうが多い。預貸率はふつう100%を超えない——預金が貸出の原資だからだ。それが111.2%。この一見ありえない数字の裏側を読むと、北九州銀行がどんな立場で、どんな土地に貸しているのかが見えてくる。
まず、数字を並べる
北九州銀行の預金は1兆2,826億円、貸出金は1兆4,261億円、預貸率111.2%。自己資本比率は13.45%、不良債権比率は1.69%と低い。中小企業等向けの貸出先は2万件を超える。2025年3月期は、貸出金利息の増加などを主因に増益となった。
| 預金 | 12,826億円 |
|---|---|
| 貸出金 | 14,261億円 |
| 預貸率 | 111.2% |
| 自己資本比率 | 13.45% |
| 不良債権比率 | 1.69% |
| 中小企業等向け貸出先 | 22,598件 |
| 店舗 | 37店 |
貸出金が預金を1,400億円あまり上回る。その原資はどこから来るのか。
なぜ、預金を超えて貸せるのか
預金を超えて貸し出すには、預金以外の原資が要る。北九州銀行がそれを持てるのは、山口フィナンシャルグループ(YMFG)の一員だからだ。YMFGは、山口銀行・もみじ銀行(広島)・北九州銀行を傘下に持つ、中国・北部九州にまたがる地域金融グループである。北九州銀行は、もともと山口銀行の福岡県内の営業基盤を引き継ぐ形で2011年に開業した、いわばグループの「北九州・福岡担当」だ。
こうしたグループのなかでは、資金はグループ全体で融通される。グループ内の調達や市場からの資金を通じて、一行単体の預金量を超える貸出を支えることができる。北九州銀行の111.2%という預貸率は、「北九州銀行が単独で無理に貸しすぎている」のではなく、グループの資金力を背景に、北九州・福岡という市場へ積極的に貸し出している姿の表れと読み取れる。不良債権比率が1.69%と低く保たれているのも、攻めの貸出と健全性を両立させていることをうかがわせる。
111.2%を、工業の街から読む
もう一歩、この預貸率を、北九州という土地から読んでみたい。なぜ北九州で、これほど貸出が伸びるのか。背景には、ものづくりの街という土地の性格がある。
北九州工業地帯には、鉄鋼・化学・機械をはじめとする製造業と、それを支える数多くの中小事業者が集積している。製造業の集積地では、設備投資や運転資金の需要が継続的に生まれる。工場の設備更新、関連する下請け・部品メーカーの資金需要、物流や商業の事業——ものづくりの街には、貸出の機会が土地そのものから生まれてくる。中小企業等向け貸出先が2万件を超えるのは、この層の厚さの表れだ。預貸率111.2%という数字は、グループの資金力という「貸せる仕組み」と、ものづくりの集積地という「貸す先のある土地」が重なったところに立っていると読める。もちろん、預貸率にはグループ内の資金配分の方針なども絡むので、土地の性格だけで決まるわけではない。だが、貸す相手の豊富な土地でなければ、ここまで貸出は伸びない。
新しい銀行という立場
北九州銀行が2011年開業の若い銀行であることも、その性格に関わっている。歴史の長い地方銀行が、古くからの取引関係を抱えているのに対し、新しい銀行は、グループの戦略のもとで、特定の市場(北九州・福岡)を攻めるという明確な役割を持って生まれた。グループの一行として福岡県の市場を受け持ち、積極的に貸出を伸ばす——その位置づけが、預貸率111.2%という攻めの数字に表れている。
借り手にとっての意味
預貸率が高いということは、その銀行が積極的に貸し出しているという一つの目安にはなる。ただし、預貸率の高さがそのまま「誰でも借りやすい」を意味するわけではない。審査の基準は別にあり、貸出の中身も法人・個人・不動産などさまざまだ。預貸率という数字をどう読むかは、預貸率の読み方であらためて整理している。
数字は、立場と土地を映す
預金を集めて、その範囲で地元に貸す——多くの地域金融機関は、そうした姿をしている。だが北九州銀行の預貸率111.2%は、グループの資金力という立場と、ものづくりの集積地という土地が重なった、固有の数字だ。一つの預貸率の裏に、その銀行が置かれた立場と、貸す相手のいる土地の性格が、同時に映り込んでいる。
同じ福岡県を代表する地銀として、福岡銀行(預貸率90.9%・預金13.9兆円)も本紀行に登場している。同じ福岡県を地盤としながら、両行は異なるグループに属する——福岡銀行はふくおかフィナンシャルグループの中核であり、この北九州銀行は山口フィナンシャルグループの一員だ。同じ福岡県で、商都・福岡を地盤とする九州最大の地銀と、ものづくりの北九州を地盤とする若い銀行とが、それぞれ別のグループのもとで貸す。九州最大の地銀の姿は、福岡銀行の記事もあわせてどうぞ。
各地の金融機関には、それぞれの立場と土地の事情が刻まれた、それぞれの姿がある。福岡県の他の金融機関とあわせて眺めたい方は、福岡県の地域金融機関のページもどうぞ。
出典:預金・貸出金・預貸率・自己資本比率・不良債権比率・中小企業等向け貸出先件数=金融庁「中小・地域金融機関情報一覧」令和7年3月末(預貸率は貸出金÷預金で算出)。
北九州銀行の2011年開業の経緯・山口フィナンシャルグループの構成・2025年3月期の増益(貸出金利息の増加等)に関する記述=山口フィナンシャルグループおよび北九州銀行の決算開示・公開情報。
北九州工業地帯および北九州市のものづくり産業に関する記述=各種公開情報。