飛騨信用組合——飛騨高山の信組は、なぜ厚い自己資本で3割台しか貸さないのか
預貸率36.0%、預金3,170億円、自己資本比率20.36%。高山市に本店を置く飛騨信用組合。飛騨高山に根ざす「ひだしん」が、なぜ厚い自己資本を持ち、預金の3割台しか貸さないのか。同じ高山の信金と比べながら、その数字と歴史を読む。
岐阜県の高山市に本店を置く飛騨信用組合は、地元で「ひだしん」と呼ばれる信用組合だ。預金3,170億円、店舗16。高山市を中心に、飛騨地域を地盤としている。飛騨の山あいに根ざす、信用組合としては比較的大きな規模を持つ。
本拠の高山は、飛騨山脈に囲まれた盆地に開けた城下町だ。江戸時代は天領(幕府直轄地)として栄え、いまも「飛騨の小京都」と呼ばれる古い町並みが残る。国際的な観光地として年間多くの観光客を集め、飛騨牛・伝統工芸・木工なども知られる。一方、四方を山に囲まれた地形ゆえ、大きな工業地帯の集積はなく、観光と地場産業が地域を支える。飛騨信用組合は、こうした山に囲まれた飛騨高山に根ざしてきた信用組合だ。
この信組の数字で目を引くのは、預貸率36.0%という低さと、自己資本比率20.36%という厚さだ。3,170億円という大きな預金を集めながら、貸出はその3割台にとどまり、自己資本は際立って厚い。なぜ、飛騨高山の信組は、これほど貸さず、これほど資本を厚く積むのか。同じ高山市の信金とも比べながら、数字を読みにいく。
数字を並べてみる
まず、絶対値から。飛騨信用組合の預金は3,170億円、貸出金は1,140億円。預貸率は36.0%で、預金の3割台を貸出に回している。自己資本比率は20.36%と厚く、不良債権比率は4.05%。店舗数は16、中小企業等への貸出残高は1,090億円。
同じ高山市に本店を置く高山信用金庫(預貸率54.4%・自己資本比率9.67%)と比べると、両者は対照的だ。飛騨信用組合の預貸率36.0%は高山信用金庫(54.4%)を下回り、自己資本比率20.36%は高山信用金庫(9.67%)の倍を超える。同じ飛騨高山を地盤とする信金と信組でも、高山信用金庫はよく貸し、飛騨信用組合は貸出を抑えて厚い資本を積む。これは、飛騨信用組合が、組合員という限られた範囲に貸す信用組合として、貸出を堅実に絞り、運用などで利益を積んで厚い資本を蓄えてきたことの表れだと読める。同じ土地でも、信金と信組という業態の違いと、それぞれの選んだ生き方が、対照的な数字に表れていると読める。
| 飛騨信用組合 | 高山信用金庫 | |
|---|---|---|
| 本店 | 高山市 | 高山市 |
| 預金 | 3,170億円 | 2,306億円 |
| 預貸率 | 36.0% | 54.4% |
| 自己資本比率 | 20.36% | 9.67% |
| 不良債権比率 | 4.05% | 5.36% |
同じ高山市を地盤とする信組と信金。飛騨信用組合は貸出を抑えて厚い自己資本を積み、高山信用金庫はよく貸す。業態の違いと選んだ生き方が対照的な数字に表れている。
飛騨高山とともに——飛騨信用組合の歩み
飛騨信用組合は、飛騨高山の中小・零細事業者の相互扶助の金融機関として育ってきた。城下町以来の商店、観光に関わる宿や店、飛騨の木工・伝統工芸の事業者、そして住民——こうした人々が組合員となり、預金を預け、必要なときに資金を借りる。飛騨信用組合は、合併を経て、飛騨地域に広く根ざす信用組合へと成長してきた。
飛騨高山という土地は、信用組合にとって、預金は集まるが貸出先には限りのある地盤だ。国際的な観光地として、また飛騨牛・木工・伝統工芸の地として、地域に預金は蓄えられてきた。しかし、四方を山に囲まれた地形ゆえ、大きな工業地帯はなく、信用組合が貸す組合員の中小・零細事業者の資金需要にはおのずと限りがある。観光と地場産業で預金は集まるが、それを貸し切るだけの旺盛な資金需要は乏しい——この構図が、36.0%という低い預貸率と、厚い自己資本の背景にあると読める。集めた預金のうち貸出に回りきらない分は運用などに向かい、そこで積み上がった利益が、20.36%という厚い資本となってきたと読める。
20.36%の資本を、飛騨高山から読む
飛騨信用組合の自己資本比率20.36%という厚さは、豊富な預金を集めながら、組合員への貸出を堅実に絞り、運用などで着実に利益を積んできたことの表れだと読める。山に囲まれた飛騨高山では、貸出先となる組合員の資金需要には限りがある。預金を無理に貸し切るのでなく、堅実に運用して利益を蓄え、それを資本として厚く積む。山あいの地域経済が揺らいでも在り続けるための、分厚い備えがここにある。
預貸率36.0%という低さは、その裏返しだ。組合員の限られた貸出先に堅実に貸すと、貸出は預金の3割台にとどまる。不良債権比率4.05%という水準は、観光・地場産業の事情を映すが、厚い自己資本が十分に吸収できる。飛騨高山で豊富な預金を集め、組合員に堅実に貸し、運用で利益を積み、厚い資本で守りを固める——それが、飛騨信用組合の数字に表れた生き方だと読める。よく貸す高山信用金庫とは対照的なこの姿は、同じ土地でも業態と方針によって数字が分かれることを示している。預貸率という数字をどう読むかについては、預貸率の読み方もあわせてどうぞ。
飛騨の経済とともに
飛騨信用組合の数字は、観光と地場産業の飛騨高山という土地と、そこで豊富な預金を集めながら厚い自己資本を積む信組の歩みの、両方を映している。預金の3割台を組合員に貸しながら、運用で利益を積み、厚い自己資本で守りを固めてきた。山に囲まれた飛騨高山の経済が、36.0%という低い預貸率と、20.36%という厚い自己資本に表れている。
銀行や信用金庫・信用組合の数字は、その土地の経済と、その金融機関の生き方を映す鏡だ。飛騨信用組合を見れば、観光と地場産業の飛騨高山の経済と、そこで厚い資本を積む信組の姿が浮かぶ。岐阜県の他の金融機関は、同じ高山市の高山信用金庫、県都の大型信金岐阜信用金庫、美濃の東濃信用金庫もあわせてどうぞ。預貸率という数字の読み方については、預貸率の読み方へ。岐阜県の他の金融機関と並べて眺めたい方は、岐阜県の地域金融機関のページへ。
執筆・監修:燧徹史(¥Today 編集責任者)
出典:預金・貸出金・預貸率・自己資本比率・不良債権比率・中小企業等向け貸出残高・店舗数=金融庁「中小・地域金融機関情報一覧」令和7年3月末(信用組合・信用金庫の計数は百万円単位を億円に換算。預貸率は貸出金÷預金で算出)。高山信用金庫の数値も同出典。
沿革・地域(高山市に本店を置き、飛騨地域を地盤とする信用組合であること、合併を経て飛騨地域に広く根ざす信用組合になったこと、高山が江戸時代に天領として栄えた城下町で「飛騨の小京都」と呼ばれる国際観光地であること、飛騨牛・木工・伝統工芸が知られること)に関する記述=飛騨信用組合および各種公開情報にもとづく。
飛騨・高山の地理・産業(飛騨山脈、高山盆地、天領、城下町、飛騨の小京都、観光、飛騨牛、木工、伝統工芸)に関する記述=各種公開情報。