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東濃信用金庫——やきものの里で、信金は何を抱えているのか

不良債権比率6.1%、預貸率45.6%。美濃焼の産地・岐阜県多治見に本店を置く東濃信用金庫。やや高い不良債権を、和食器の全国シェア6割を誇りながら構造的な変化を抱える陶磁器産業という土地から読みます。

ニホン銀行紀行 ・ 岐阜県

岐阜県多治見市に本店を置く東濃信用金庫は、地元で「とうしん」と呼ばれる、岐阜県東濃地方の信用金庫です。預金1兆2,375億円、貸出金5,639億円、店舗54。多治見・土岐・瑞浪といった東濃の都市を中心に、岐阜県有数の規模を持つ信用金庫です。1979年に多治見・岐陶・土岐津の三つの信用金庫が合併して生まれ、のちに瑞浪商工信用組合の事業も引き継いできました。

この信金の地盤・東濃地方は、1300年以上の歴史を持つ「美濃焼」の産地です。多治見・土岐・瑞浪のあたりは、和食器の生産量で全国シェアの約6割を占める、日本最大のやきものの里。志野や織部といった伝統的な美濃焼から、日常使いの食器、そして多治見市笠原町で生まれたモザイクタイルまで、土と火の産業がこの地の経済を形づくってきました。やきものとともに生きてきた土地——この産業構造が、東濃信用金庫の数字を読む鍵になります。

この信用金庫の数字で目を引くのは、不良債権比率6.1%という、やや高めの水準です。預貸率は45.6%で、集めた預金の半分弱を貸出に回しています。岐阜県有数の規模を持つ信金が、なぜこれだけの不良債権を抱えるのか。この数字を、やきものの里という土地から読むと、地場産業とともに歩む信金の現実が見えてきます。

まず、数字を並べる

東濃信用金庫の預金は1兆2,375億円、貸出金は5,639億円、預貸率45.6%。自己資本比率は17.49%と厚く、不良債権比率は6.1%。中小企業等向けの貸出先は2万7,874件にのぼります。

東濃信用金庫(令和7年3月末)
預金1兆2,375億円
貸出金5,639億円
預貸率45.6%
自己資本比率17.49%
不良債権比率6.1%
中小企業等向け貸出先27,874件
店舗54店

岐阜有数の規模に対し、不良債権比率6.1%はやや高い。この数字を、やきものの里から読む。

6.1%を、やきものの里から読む

不良債権比率6.1%は、東濃信用金庫ほどの規模の信金としては、やや高めの数字です。だが、これを「危うい」と短絡すべきではありません。美濃焼という地場産業の事情から読むと、別の姿が見えてきます。

東濃信用金庫が貸す相手の多くは、地元の中小事業者です。そのなかには、美濃焼の窯元や陶磁器の製造業者、絵付けや成形を担う小さな工房、タイルの製造業者、そして陶磁器を扱う卸売業者が、相当数含まれていると考えられます。美濃焼の産地は、窯元・製造・卸が分業で支え合う、小規模事業者の集積地です。問題は、その陶磁器産業が、長く構造的な逆風にさらされてきたことです。食生活の変化や核家族化で家庭の食器需要は減り、安価な輸入品との競争も厳しい。原料となる粘土鉱山の枯渇、経営者や職人の高齢化、後継者不足も深刻とされます。生産量は長期的に減少し、廃業する事業所も少なくありません。

こうした構造的な変化を抱える地場産業に貸し続けてきたことが、不良債権比率6.1%という数字の背景にあると読めます。需要の減る伝統産業の事業者を、すぐに見放すのではなく支えていけば、そのぶん債権の質には負荷がかかる。本紀行で見てきた、繊維産地の蒲郡信用金庫や両毛の足利小山信用金庫と同じく、構造変化のただ中にある地場産業のまちの信金には、似た傾向が表れます。もちろん、不良債権比率には個別の大口先の事情や引当方針も絡むため、陶磁器産業の不振だけが原因とは断じられません。だが、やきものの里に根ざす信金であることを抜きに、この数字は読めません。

東濃信用金庫が示すのは、伝統産業のまちの信金が抱える宿命です。和食器シェア6割を誇った美濃焼も、需要減・原料枯渇・後継者不足という構造変化のただ中にある。その担い手に貸し続ければ、焦げ付きはついて回る。6.1%という数字は、やきものの里と歩んできた距離の表れと読めます。

厚い自己資本という、もう一つの顔

一方で、東濃信用金庫の自己資本比率は17.49%と、信用金庫として厚い水準にあります。やや高めの不良債権を抱えながらも、それを十分に受け止められるだけの資本を積んでいる。預貸率を45.6%と控えめに保ち、あふれた預金を有価証券などの運用に回しながら、足元を固めている姿が読み取れます。構造変化を抱える地場産業に貸す以上、焦げ付きはある程度避けられない。だからこそ、それに耐えられる資本を厚めに積んでおく——攻めと守りのバランスを取った経営と読めます。やきものの里の信金が長く地域を支えていくには、こうした備えが要るということでしょう。

なぜ、こうなったのか——制度と地域

東濃信用金庫が地元に貸す信金であることの背景には、信用金庫という制度があります。信用金庫が融資できる相手は原則として「会員」に限られ、その資格は信用金庫法10条1項により、信用金庫の「地区」の中に住所や事業所がある人、その地区で働く人、と定められています。事業者には規模の制限もあり、大企業は会員になれません。

この制度のもとでは、貸す相手はおのずと地元の中小事業者や住民に絞られます。東濃信用金庫にとって、その「地元」とは、美濃焼という1300年の伝統を持つ地場産業に支えられた、東濃地方の地域経済そのものです。三つの信用金庫が合併して規模を得たこの信金が向き合うのは、構造変化のただ中にある、やきものの担い手たちです。会員資格が地区内に絞られるという制度の枠が、結果として「やきものの里に貸す信金」という姿を形づくっています。

借り手にとっての意味

地元に根ざす信用金庫は、地域の事業者にとって身近な相談相手です。とりわけ、構造変化に直面する陶磁器産業の事業者にとって、産地の事情を知る信金の存在は心強いものです。一方で、不良債権比率のやや高い水準は、その地域の地場産業が課題を抱えていることの裏返しでもあります。預貸率という数字の読み方は、預貸率の読み方であらためて整理しています。

数字は、土地の産業を映す

不良債権比率6.1%という数字は、全国の物差しで見ればやや高い。だが、和食器シェア6割を誇りながらも構造的な変化を抱える美濃焼の産地で、やきものの担い手に貸し続けてきた信金の数字としては、別の意味を帯びます。数字は、その金融機関がどんな土地で、どんな産業に向き合ってきたかを映しています。東濃信用金庫の数字は、1300年続くやきものの里の、いまそのものです。

同じ岐阜県には、県を代表し愛知まで広く貸す広域地銀の十六銀行があります。県全域から名古屋圏まで広く貸す十六銀行(預貸率79.0%)と、一つの地場産業の盛衰を引き受ける東濃信用金庫とを並べると、同じ岐阜県でも、金融機関の立ち位置によって貸す姿がこれだけ異なることが見えてきます。ナンバー銀行で日本最古の地銀の姿は、十六銀行の記事もあわせてどうぞ。

各地の金融機関には、それぞれの土地の産業と事情が刻まれた、それぞれの生き方があります。岐阜県の他の金融機関とあわせて眺めたい方は、岐阜県の地域金融機関のページもどうぞ。

出典:預金・貸出金・預貸率・自己資本比率・不良債権比率・中小企業等向け貸出先件数=金融庁「中小・地域金融機関情報一覧」令和7年3月末(預貸率は貸出金÷預金で算出)。
東濃信用金庫の沿革(1979年の多治見・岐陶・土岐津の三信用金庫の合併、瑞浪商工信用組合の事業承継)に関する記述=東濃信用金庫の公開情報等。
美濃焼(和食器の全国シェア約6割、多治見・土岐・瑞浪の産地、モザイクタイル)および陶磁器産業の構造的課題(内需減少・原料不足・後継者不足等)に関する記述=岐阜県・各種公開情報および公的調査資料にもとづく。
信用金庫の地区・会員資格に関する記述=金融庁 金融審議会「協同組織金融機関のあり方に関するワーキング・グループ」資料『協同組織金融機関の「地区」のあり方』(2008年6月20日・神吉正三)。

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