尼崎信用金庫——阪神工業地帯の都市型信金は何に貸すか
預貸率47.7%、預金2.8兆円、自己資本比率15.18%。尼崎市に本店を置く尼崎信用金庫。阪神工業地帯を地盤とする兵庫県下最大の信金「あましん」が、厚い自己資本を保ちつつ貸す姿を読みます。
兵庫県尼崎市に本店を置く尼崎信用金庫は、地元で「あましん」と呼ばれる信用金庫です。預金2兆7,635億円、貸出金1兆3,170億円、店舗88。総預金残高2兆円を超える兵庫県下最大の信用金庫であり、兵庫県に本店を置く金融機関としては、みなと銀行に次ぐ規模を持ちます。中小企業等向けの貸出先は4万件を超えます。
本拠地の尼崎は、兵庫県の南東端、大阪と神戸に挟まれた阪神間の工業都市です。阪神工業地帯の中核として、鉄鋼・金属・機械・化学などの工場が集まり、中小・零細の町工場が無数に根を張ってきた土地です。営業エリアは尼崎を核に阪神間を中心とする40市4町に及び、浪速信用金庫を合併したことで大阪府下にも多くの店舗を持ちます。この阪神工業地帯という地盤が、尼崎信用金庫の数字を読む鍵になります。
尼崎信用金庫は、100年を超える歴史を持つ地域金融機関です。第一次世界大戦後の不況下、経営難に苦しむ下請けなどの中小・零細企業のために創業されました。以来、阪神間のものづくりを足元から支えてきた信金です。大阪・神戸という二大都市に挟まれた立地を生かし、阪神エリアに高密度の店舗網を築く「都市型信用金庫」として知られます。数字の面で目を引くのは、預貸率47.7%という水準と、自己資本比率15.18%という際立った厚さです。
まず、数字を並べる
尼崎信用金庫の預金は2兆7,635億円、貸出金は1兆3,170億円、預貸率47.7%。自己資本比率は15.18%と非常に厚く、不良債権比率は5.40%。中小企業等向けの貸出先は4万529件にのぼります。
| 預金 | 2兆7,635億円 |
|---|---|
| 貸出金 | 1兆3,170億円 |
| 預貸率 | 47.7% |
| 自己資本比率 | 15.18% |
| 不良債権比率 | 5.40% |
| 中小企業等向け貸出先 | 40,529件 |
| 店舗 | 88店 |
預貸率47.7%・自己資本15.18%。厚く守る阪神の都市型信金の数字。
47.7%と15.18%を、阪神工業地帯から読む
預貸率47.7%という、預金の半分弱を貸出に回す水準と、自己資本比率15.18%という際立った厚さ。この組み合わせは、阪神工業地帯の中小零細に貸しながら、守りを厚く固めてきた都市型信金の姿を示しています。
尼崎信用金庫が貸す相手は、阪神間の中小・零細事業者です。鉄鋼・金属・機械の町工場、その下請け、地域の商業・サービス業が、その融資先の中心です。中小企業等向けの貸出先が4万件を超えるという数字は、いかに多くの小さな事業者に資金を行き渡らせているかを物語ります。創業の原点が中小零細の救済にあったことを思えば、この裾野の広さは出自そのものの表れともいえます。一方、預貸率は47.7%にとどまり、預金の半分強は運用に向かいます。信金が会員(地区内の中小事業者・住民)にしか原則貸せないという制度の枠に加え、阪神工業地帯のものづくりが構造変化や競争にさらされ、安全に貸せる先が限られていることの表れと読めます。
際立つのは、自己資本比率15.18%という厚さです。信用金庫のなかでも飛び抜けて高い水準で、守りを極めて厚く固めていることがうかがえます。不良債権比率5.40%というやや高めの数字——体力の限られた阪神の町工場に数多く貸せば、焦げ付きは高まりやすい——を、この厚い自己資本がしっかり受け止める構えになっています。よく貸して攻める信金もあれば、尼崎信用金庫のように貸出を絞り、自己資本を厚く積んで盤石の守りを固める信金もある。もちろん、これらの比率には経営方針や景気も絡むため断定はできませんが、構造変化にさらされる阪神工業地帯という地盤を抜きに、この数字は読めません。
なぜ、こうなったのか——制度と地域
尼崎信用金庫が地元の中小に貸す信金であることの背景には、信用金庫という制度があります。信用金庫が融資できる相手は原則として「会員」に限られ、その資格は信用金庫法10条1項により、信用金庫の「地区」の中に住所や事業所がある人、その地区で働く人、と定められています。事業者には規模の制限もあり、大企業は会員になれません。
この制度のもとでは、貸す相手はおのずと地元の中小事業者や住民に絞られます。尼崎信用金庫にとって、その「地区」は阪神工業地帯です。大企業はメガバンクや地銀が引き受け、その足元の無数の町工場を信金が支える。創業の原点が中小零細の救済にあった尼崎信用金庫にとって、これは制度と出自の重なる役割です。阪神のものづくりが構造変化にさらされるなか、厚い自己資本で足場を固めながら地区の中小を支え続けることが、いまのこの信金の姿です。浪速信金を合併して大阪にも広がったのも、その役割を阪神エリア全体で果たすための歩みでした。
同じ兵庫で、ほかの信金と並べてみる
本紀行には、同じ兵庫県の信金として、兵庫信用金庫(姫路)と但馬信用金庫(豊岡)も登場しています。播磨の兵庫信金、但馬の但馬信金に対し、尼崎信用金庫は阪神工業地帯を地盤とします。同じ兵庫県でも、播磨・但馬・阪神とで地盤の産業がまるで異なり、信金の数字もそれぞれの土地を映す。とりわけ尼崎信用金庫の自己資本比率15.18%という厚さは、阪神という土地で守りを固めてきたこの信金ならではの数字です。兵庫の他の信金の姿は、兵庫信用金庫や但馬信用金庫の記事もあわせてどうぞ。
借り手にとっての意味
都市型の信用金庫は、阪神間の中小事業者にとって、もっとも身近な相談相手のひとつです。とりわけ尼崎信用金庫は、町工場や個人事業者への貸出の裾野が広く、厚い自己資本に支えられた安定感があります。預貸率の水準は貸出への姿勢の表れとも読めますが、それが個別の融資の可否を保証するものではありません。預貸率という数字の読み方は、預貸率の読み方であらためて整理しています。
数字は、阪神の守りを映す
預貸率47.7%という水準と、自己資本比率15.18%という際立った厚さは、阪神工業地帯の町工場を足元から支えつつ、構造変化の時代に守りを厚く固めてきた都市型信金の姿を映しています。攻めて高く貸す信金もあれば、尼崎信用金庫のように厚く守りながら地域を支える信金もある。数字は、その金融機関がどんな土地で、どんな構えで貸してきたかを語ります。尼崎信用金庫の数字は、阪神のものづくりを支える「あましん」の、いまの記録です。
各地の金融機関には、それぞれの土地と構えの事情が刻まれた、それぞれの生き方があります。兵庫県の他の金融機関とあわせて眺めたい方は、兵庫県の地域金融機関のページもどうぞ。
出典:預金・貸出金・預貸率・自己資本比率・不良債権比率・中小企業等向け貸出先件数=金融庁「中小・地域金融機関情報一覧」令和7年3月末(預貸率は貸出金÷預金で算出)。
尼崎信用金庫の沿革(100年を超える歴史、第一次世界大戦後の不況下に中小零細企業のため創業、本店は尼崎市、通称あましん、阪神間を中心とする40市4町が営業エリア、浪速信用金庫を合併し大阪府下にも展開)、総預金残高2兆円超で兵庫県下最大の信用金庫であること、兵庫県本店の金融機関でみなと銀行に次ぐ規模であること、都市型信用金庫であることに関する記述=尼崎信用金庫および各種公開情報にもとづく。
尼崎市・阪神間の地理と産業(阪神工業地帯、鉄鋼・金属・機械・化学、中小零細の町工場)に関する記述=各種公開情報。
兵庫信用金庫・但馬信用金庫の位置づけ=各種公開情報および本紀行既出記事。
信用金庫の地区・会員資格に関する記述=金融庁 金融審議会「協同組織金融機関のあり方に関するワーキング・グループ」資料『協同組織金融機関の「地区」のあり方』(2008年6月20日・神吉正三)。