¥Today ニホン銀行紀行

但馬信用金庫——鞄と温泉の町で、信金は何を支えているのか

自己資本比率22.7%、預貸率38.5%。カバン生産日本一の町・豊岡と城崎温泉に根ざす但馬信用金庫。厚い自己資本と控えめな預貸率を、地場産業と観光、そして過疎という但馬の土地から読む。

ニホン銀行紀行 ・ 兵庫県

兵庫県豊岡市に本店を置く但馬信用金庫は、地元で「たんしん」と呼ばれる、兵庫県北部・但馬地域の信用金庫だ。預金4,712億円、店舗26。日本海に近い、豊かな個性を持つ土地に根を張っている。

豊岡市は、カバンの生産量が日本一の町である。奈良時代の柳細工に始まり、江戸時代の柳行李を経て、いまや「豊岡鞄」のブランドで知られる地場産業へと育った。あわせて、柳並木の風情ある城崎温泉、野生復帰を果たしたコウノトリ、但馬の小京都と呼ばれる出石の城下町、冬の津居山ガニといった観光資源も豊かだ。一方、兵庫県北部は人口減少が進む地域でもある。この「日本一の地場産業と観光を抱えつつ、過疎が進む」という土地柄が、但馬信用金庫の数字を読む鍵になる。

この信用金庫の数字で目を引くのは、自己資本比率22.7%という厚みと、預貸率38.5%という控えめさだ。集めた預金の4割ほどしか貸出に回していない。これだけの規模を持ちながら、なぜ貸出を抑え、資本を厚く積むのか。その答えは、但馬という土地にある。

まず、数字を並べる

但馬信用金庫の預金は4,712億円、貸出金は1,816億円、預貸率38.5%。自己資本比率は22.7%と厚い。不良債権比率は4.54%。中小企業等向けの貸出先は1万件を超える。

但馬信用金庫(2025年3月期)
預金4,712億円
貸出金1,816億円
預貸率38.5%
自己資本比率22.7%
不良債権比率4.54%
中小企業等向け貸出先11,098件
店舗26店

厚い自己資本と控えめな預貸率。その姿を、鞄と温泉の但馬から読む。

38.5%と22.7%を、但馬の土地から読む

預貸率38.5%という控えめさと、自己資本比率22.7%という厚み。この二つは、合わせて読むと一つの経営の姿を描く。集めた預金を無理に貸し込まず、手厚い資本を積んで足元を固めている。守りを意識した経営だ。この選択の背景には、但馬という土地が抱える事情がある。

但馬信用金庫が貸す相手は、地元の中小事業者だ。そのなかには、豊岡鞄をはじめとする地場のカバン関連の事業者、城崎温泉などの観光に支えられた宿泊・飲食・小売の事業者、そして但馬地域の商店や建設業が含まれると考えられる。豊岡のカバン産業は、かつて大手向けのOEM生産を主軸としていたが、バブル崩壊後に大手の製造拠点が海外へ移ると一時衰退し、地域ブランド化によって再起してきた歴史を持つ。地場産業は、こうした構造の変化にさらされやすい。観光もまた、景気や天候、感染症の流行に左右される。加えて、但馬地域全体では人口減少が進み、旺盛な資金需要が継続的に生まれるわけではない。こうした、変動を抱える地場産業・観光と、人口が減る地域に向き合う信金では、貸出を慎重に抑えつつ、備えとしての資本を厚く積む選択になりやすいと読める。あふれた預金は、有価証券などの運用に向かう。

不良債権比率4.54%は、際立って高いわけではないが、低いとも言いきれない水準だ。地場産業や観光、過疎地域の事業者を抱える土地の事情が、ある程度は影響していると思われる。振れのある土地で長く地元を支えるために、自己資本比率22.7%という厚みで守りを固める——そう読むと、控えめな預貸率と厚い自己資本が、一本の論理でつながる。もちろん、これらの比率には個別の事情も絡むため断定はできないが、鞄と温泉と過疎という但馬の土地を抜きに、この数字は読めない。

なぜ、こうなったのか——制度と地域

但馬信用金庫が地元に貸す信金であることの背景には、信用金庫という制度がある。信用金庫が融資できる相手は原則として「会員」に限られ、その資格は信用金庫法10条1項により、信用金庫の「地区」の中に住所や事業所がある人、その地区で働く人、と定められている。事業者には規模の制限もあり、大企業は会員になれない。

この制度のもとでは、貸す相手はおのずと地元の中小事業者や住民に絞られる。但馬信用金庫にとって、その「地元」とは、日本一の鞄産業と城崎温泉を抱え、それでいて人口減少が進む但馬地域そのものだ。個性豊かでありながら振れも大きい土地に根ざす信金が、厚い資本で守りを固めるのは、理にかなった選択といえる。

借り手にとっての意味

厚い自己資本を持つ信用金庫は、経営の安定という点では安心感がある。一方、預貸率が控えめであることは、貸出に慎重な面があるとも読める。ただし、地元の地場産業や観光の事業者にとって、但馬の事情を知る信金は身近な相談相手だ。預貸率という数字の読み方は、預貸率の読み方であらためて整理している。

数字は、土地の個性を映す

自己資本比率22.7%という厚みと、預貸率38.5%という控えめさは、日本一のカバン産業と城崎温泉という豊かな個性を抱えながら、その振れと過疎に備えて守りを固めてきた信金の姿を映している。同じ「守りの信金」でも、何もない土地で守るのではなく、際立った地場産業と観光を抱えた土地で守る——但馬には、但馬の守りの形がある。数字は、その金融機関が立つ土地が何を抱えているかを語る。

同じく厚い自己資本で守りを固める信金として、破綻信金の事業を引き受けてきた大分の大分信用金庫と並べると、土地は違っても、地方の信金が選ぶ「守りのかたち」に似た形が現れるとわかる。また、同じ兵庫県でも、競争の少ない但馬で厚い自己資本を積むこの信金とは対照的に、三つの信金がひしめく姫路で堅実に歩む兵庫信用金庫を並べると、県北の山と県南の瀬戸内という土地の違いが数字の形を分けている。

同じ兵庫県の阪神間には、阪神工業地帯を地盤とする尼崎信用金庫(預貸率47.7%・自己資本15.18%)もある。兵庫県下最大の信金だが、阪神の町工場に貸してやはり預貸率は低め、厚い自己資本で守る。過疎の但馬で守りを固めるこの但馬信用金庫と、都市部の阪神で守る尼崎信用金庫とでは、同じ「厚い自己資本」でも、背負う土地がまるで違う。阪神の都市型信金の姿は、尼崎信用金庫の記事もあわせてどうぞ。

本紀行には、同じ兵庫県の淡路信用金庫も登場している。淡路信金は、玉ねぎと観光の淡路島に根ざし、預貸率33.3%・自己資本比率21.55%と、貸出を絞り資本を厚く積む信金だ。県北・日本海側の但馬に根ざすこの但馬信用金庫(預貸率38.5%・自己資本22.7%)と、瀬戸内の島に根ざす淡路信用金庫(預貸率33.3%・自己資本21.55%)とを並べると、同じ兵庫県でも、日本海側の地方部と瀬戸内の島とで、ともに守りを固める信金の姿があることが見えてくる。島の信金の姿は、淡路信用金庫の記事もあわせてどうぞ。

各地の金融機関には、それぞれの土地の事情が刻まれた、それぞれの生き方がある。兵庫県の他の金融機関とあわせて眺めたい方は、兵庫県の地域金融機関のページもどうぞ。

出典:預金・貸出金・預貸率・自己資本比率・不良債権比率・中小企業等向け貸出先件数=金融庁「中小・地域金融機関情報一覧」令和7年3月末(預貸率は貸出金÷預金で算出)。
豊岡市のカバン産業(豊岡鞄・柳行李の歴史・OEMから地域ブランド化への経緯)、城崎温泉・コウノトリ・出石等の観光、但馬地域の人口減少に関する記述=兵庫県・豊岡市・各種公開情報。
信用金庫の地区・会員資格に関する記述=金融庁 金融審議会「協同組織金融機関のあり方に関するワーキング・グループ」資料『協同組織金融機関の「地区」のあり方』(2008年6月20日・神吉正三)。

← ニホン銀行紀行へ | ¥Today トップへ