¥Today ニホン銀行紀行

中兵庫信用金庫——丹波の信金は、なぜ自己資本を30%近くも積むのか

自己資本比率29.81%、預貸率26.5%、預金5,514億円。丹波市に本店を置く中兵庫信用金庫。兵庫の山あいの丹波に根ざし、全国でも屈指の厚い自己資本と低い預貸率を持つ信用金庫。その数字と歴史を読む。

ニホン銀行紀行 ・ 兵庫県

兵庫県の内陸、丹波市に本店を置く中兵庫信用金庫は、地元で「なかしん」と呼ばれる信用金庫だ。預金5,514億円、店舗29。丹波市を中心に、兵庫県の中央部、いわゆる丹波地方を地盤としている。地方の信金としては相応の規模を持つ。

本拠の丹波は、兵庫県の中央に位置する山あいの土地だ。黒豆(丹波黒)や栗、松茸といった山の幸で知られ、農林業を中心とした静かな経済が営まれてきた。京阪神の大都市圏に近いながらも、山に囲まれた丹波は、独自のゆったりとした暮らしを保ってきた地域である。中兵庫信用金庫は、こうした丹波の農林業と地域の暮らしに根ざしてきた信金だ。

この信金の数字でまず目を引くのは、自己資本比率29.81%という、全国でも屈指の厚さだ。信用金庫の自己資本比率は1割前後が標準的ななかで、3割に迫るこの数字は際立っている。そして同時に、預貸率は26.5%と極めて低い。なぜ、丹波の信金はこれほど資本を積み、これほど貸さないのか。同じ兵庫県の山あいの信金とも比べながら、数字を読みにいく。

数字を並べてみる

まず、絶対値から。中兵庫信用金庫の預金は5,514億円、貸出金は1,459億円。預貸率は26.5%で、預金の3割にも満たない額しか貸出に回していない。自己資本比率は29.81%と極めて厚く、不良債権比率は5.45%。店舗数は29、中小企業等への貸出残高は1,439億円。

際立つのは、自己資本比率29.81%という厚さと、預貸率26.5%という低さだ。同じ兵庫県の内陸で、宍粟市を地盤とする西兵庫信用金庫(自己資本比率21.06%・預貸率40.8%)と比べても、中兵庫信用金庫の自己資本はさらに厚く、預貸率はさらに低い。兵庫の山あいの信金は、ともに厚い自己資本と低い預貸率を持つが、中兵庫信用金庫はその傾向がとりわけ強い。これは、山あいの地域で貸出先となる事業者や資金需要が乏しく、集めた預金を貸し切れないことの表れだと読める。そして、貸出が少ない分、運用などで積み上げた利益が厚い自己資本となって蓄積されてきたと読める。

兵庫県・内陸の二つの信用金庫(令和7年3月末)
 中兵庫信用金庫西兵庫信用金庫
地盤丹波宍粟(西播磨)
預金5,514億円5,456億円
預貸率26.5%40.8%
自己資本比率29.81%21.06%
不良債権比率5.45%4.61%

ともに兵庫県の内陸・山あいを地盤とする二つの信金。規模は近いが、中兵庫信用金庫は自己資本がとりわけ厚く、預貸率はとりわけ低い。山あいの地域で貸出先が限られる事情が数字に表れている。

丹波の山あいとともに——中兵庫信用金庫の歩み

中兵庫信用金庫は、丹波の農林業のまちの事業者の相互扶助の金融機関として育ってきた。農家や林業の事業者、地域の商店や個人——こうした人々が預金を預け、必要なときに資金を借りる。丹波の山あいの暮らしと経済を、中兵庫信用金庫は長く支えてきた。

丹波という土地は、信用金庫にとって貸出を伸ばしやすい地盤とは言いにくい。山に囲まれ、人口は多くなく、大きな産業の集積もない。農林業を中心とした堅実な経済はあるが、旺盛な事業投資や資金需要があるわけではない。預金は地域から堅実に集まるが、それを貸し切るだけの需要が、山あいの地域には乏しい——この構図が、26.5%という極端に低い預貸率の背景にあると読める。集めた預金の多くは、有価証券の運用などに向かい、そこで積み上がった利益が、年月をかけて厚い自己資本となってきたと読める。

29.81%の資本を、丹波から読む

中兵庫信用金庫の自己資本比率29.81%という突出した厚さは、貸出を大きく伸ばせない山あいの地域で、長い年月をかけて堅実に利益を蓄えてきたことの表れだと読める。貸出が少ない分、リスクを抑えた運用で着実に利益を積み、それを資本として厚く蓄えてきた。人口減少が進む地域で、地域経済が落ち込んでも揺るがず在り続けるための、分厚い備えがここにある。

預貸率26.5%という低さは、その裏返しだ。貸出先が限られる土地で、無理に貸し込めば焦げ付きが増す。不良債権比率5.45%というやや高めの数字は、限られた貸出先の事情を映すが、3割近い自己資本があれば十分に吸収できる。無理に貸して規模を追うのでなく、できる範囲で堅実に貸し、運用で利益を積み、極めて厚い資本で守りを固める——それが、中兵庫信用金庫の数字に表れた生き方だと読める。預貸率という数字をどう読むかについては、預貸率の読み方もあわせてどうぞ。

丹波の経済とともに

中兵庫信用金庫の数字は、山に囲まれ農林業で営まれる丹波という土地と、その限られた経済のなかで運用に頼り守りを固める信金の歩みの、両方を映している。預金は堅実に集まるが、貸出先は乏しく、預金の3割にも満たない額しか貸せない。だからこそ、運用で利益を積み、極めて厚い自己資本で守りを固める。地盤とする土地の事情が、29.81%という突出して厚い自己資本と、26.5%という極めて低い預貸率に表れている。

銀行や信用金庫の数字は、その土地の経済と、その金融機関の生き方を映す鏡だ。中兵庫信用金庫を見れば、山あいの丹波の経済と、そこで守りを固める信金の姿が浮かぶ。兵庫県の他の協同組織金融機関は、城下町の但馬信用金庫、尼崎の尼崎信用金庫、淡路島の淡路信用金庫、播磨の兵庫信用金庫もあわせてどうぞ。預貸率という数字の読み方については、預貸率の読み方へ。兵庫県の他の金融機関と並べて眺めたい方は、兵庫県の地域金融機関のページへ。

預貸率とは 預貸率(よたいりつ)とは、金融機関の貸出金残高を預金残高で割った比率。預かった資金のうち、どれだけを貸出に回しているかを示す。預貸率が低い金融機関は、相対的に融資先を求めている可能性をうかがう一つの目安になる。ただし、山あいなど貸出先が乏しい土地では、預金が集まっても預貸率が極端に低くとどまり、運用で積んだ利益が厚い自己資本となることがある。 → くわしくは「預貸率の読み方

執筆・監修:燧徹史(¥Today 編集責任者)

出典:預金・貸出金・預貸率・自己資本比率・不良債権比率・中小企業等向け貸出残高・店舗数=金融庁「中小・地域金融機関情報一覧」令和7年3月末(信用金庫の計数は百万円単位を億円に換算。預貸率は貸出金÷預金で算出)。西兵庫信用金庫の数値も同出典。
沿革・地域(丹波市に本店を置き、兵庫県中央部の丹波地方を地盤とする信用金庫であること、丹波が黒豆〔丹波黒〕・栗・松茸などで知られる山あいの農林業の地であること、京阪神圏に近いこと)に関する記述=中兵庫信用金庫および各種公開情報にもとづく。
丹波の地理・産業(兵庫県内陸、丹波地方、農林業、丹波黒・栗・松茸、山あい)に関する記述=各種公開情報。

← ニホン銀行紀行へ | ¥Today トップへ