水沢信用金庫——アテルイと南部鉄器の奥州で、みずしんはなぜ預金の3割しか貸さないか
預貸率34.4%、預金1,409億円、自己資本比率13.61%、不良債権比率7.77%。岩手県奥州市に本店を置く水沢信用金庫。アテルイと南部鉄器の城下町に根ざし、預金の3割しか貸さない信金が、なぜそうなるのか。同じ岩手の信金と比べながら、その数字と歴史を読む。
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岩手県の奥州市に本店を置く水沢信用金庫は、預金1,409億円を持つ信用金庫だ。「みずしん」の呼び名で知られ、奥州市水沢の日高西に本店を構え、奥州市・胆沢郡金ケ崎町・北上市・西磐井郡平泉町を営業エリアとする。岩手県南部の城下町・水沢に根ざす信金だ。
本拠の奥州市水沢は、岩手県の内陸南部、北上川の流域に開けた歴史の城下町だ。古代には蝦夷(えみし)の英雄アテルイがこの地を拠点に大和朝廷と戦い、近世には水沢伊達家の城下町として栄えた。後藤新平、斎藤実、高野長英ら、近代日本を彩る多くの人物を輩出した「賢人のまち」としても知られる。そして水沢は、南部鉄器の二大産地のひとつ——鋳物(いもの)のまちでもある。隣接する金ケ崎には自動車・半導体関連の工業団地が立地し、世界遺産・平泉も営業エリアに含む。水沢信用金庫は、こうした歴史と鋳物の奥州に根ざし、地域の中小事業者と住民に貸してきた。
この信金の数字で最も目を引くのは、預貸率34.4%という低さだ。預金1,409億円に対し、貸出金は485億円。預かったお金の3割ほどしか貸していない。一方で自己資本比率は13.61%と厚い。なぜ、奥州の信金が、これほど貸さないのか。同じ岩手の信金とも比べながら、数字を読みにいく。
数字を並べてみる
まず、絶対値から。水沢信用金庫の預金は1,409億円、貸出金は485億円。預貸率は34.4%で、預金の3割ほどしか貸出に回していない。自己資本比率は13.61%、不良債権比率は7.77%。
同じ岩手県の信金と比べてみる。県都・盛岡の盛岡信用金庫(預貸率48.6%・預金2,634億円)、半導体に沸く内陸工業都市の北上信用金庫(預貸率49.3%・自己資本13.82%)と並べると、水沢信用金庫の預貸率34.4%は、岩手の信金のなかでも低い水準にある。盛岡信金も北上信金も5割近くを貸すなか、水沢は3割ほどにとどまる。隣接する北上市は半導体に沸く工業都市だが、水沢の本拠は歴史の城下町であり、性格が異なる。これは、大型の資金需要が乏しい城下町で、貸出を絞って資本を守る経営の表れだと読める。自己資本比率13.61%という厚さは、その堅実な姿勢を裏づけている。一方で不良債権比率7.77%は高めで、人口減少の進む地方の現実を引き受けていることをうかがわせる。
| 水沢信用金庫 | 盛岡信用金庫 | 北上信用金庫 | |
|---|---|---|---|
| 本店 | 奥州市 | 盛岡市 | 北上市 |
| 預貸率 | 34.4% | 48.6% | 49.3% |
| 自己資本比率 | 13.61% | 9.2% | 13.82% |
| 不良債権比率 | 7.77% | 5.67% | — |
いずれも岩手県の信金。水沢は預貸率が低めだが、自己資本比率は厚い。守りの経営を映す。
水沢信用組合から——水沢信用金庫の歩み
水沢信用金庫は、1949年(昭和24年)7月、「水沢信用組合」として設立された。のちに信用金庫法に基づき水沢信用金庫に改組し、城下町・水沢の地で、相互扶助の協同組織として地域の暮らしと商いを支えてきた。本店は奥州市水沢字日高西に置かれ、奥州市・胆沢郡金ケ崎町・北上市・西磐井郡平泉町を営業エリアとする。近年は、岩手県内の6つの信用金庫と合同で「SDGs共同宣言」を公表するなど、地域社会の繁栄と持続可能な社会の実現に取り組んでいる。
歴史と鋳物の奥州という土地は、信用金庫にとって独特の地盤だ。アテルイの古代史、水沢伊達家の城下町、南部鉄器の鋳物——豊かな歴史と文化を持つこの地だが、大きな工業集積や旺盛な企業の資金需要があるわけではない。隣接する北上・金ケ崎には半導体・自動車の工業団地が立地するが、水沢の本拠はあくまで歴史の城下町であり、地域の経済は中小の商工業と農業に支えられている。預金は地域から集まっても、それを吸収するだけの大型の貸出先は限られる。だから貸出は預金ほどには伸びず、預貸率は3割台にとどまる。これは、貸す力がないというより、地域の身の丈に合った貸出に徹し、無理に貸さずに資本を厚く保つ守りの経営の表れだと読める。自己資本比率13.61%という厚さは、その堅実な姿勢を裏づけている。不良債権比率7.77%という高めの数字は、人口減少の進む地方の現実を引き受けながら歩んでいることを映していると読める。
34.4%を、奥州から読む
水沢信用金庫の預貸率34.4%という低さは、大型の資金需要が乏しい歴史の城下町・水沢で、地域の身の丈に合った貸出に徹してきたことの表れだと読める。アテルイと南部鉄器の奥州で、信金として貸せる相手に貸してきた。預金は集まっても、貸出は預金ほどには伸びない。
そのうえで、自己資本比率13.61%という厚さを保っていることが、この信金の性格を物語る。貸出を絞り、資本を厚く保ち、慎重に運用する。無理に貸さず、地域とともに健全であろうとする守りの経営——その姿勢が、34.4%という低い預貸率に表れていると読める。預貸率が低いこと自体は、その信金が悪いことを意味しない。土地の経済が大型の資金需要を生まないとき、貸出を絞って資本を守ることは、ひとつの堅実な選択だ。賢人のまち・奥州で、みずしんは地域とともに歩んでいる。預貸率という数字をどう読むかについては、預貸率の読み方もあわせてどうぞ。
岩手の経済とともに
水沢信用金庫の数字は、歴史と鋳物の奥州という土地と、城下町で堅実に歩んできた歴史の、両方を映している。地域の身の丈に合った貸出に徹し、資本を厚く保ちながら、水沢の暮らしと商いを支えてきた。大型の資金需要が乏しい城下町の土地柄が、34.4%という低い預貸率に表れている。
銀行や信用金庫の数字は、その土地の経済と、その金融機関の生き方を映す鏡だ。水沢信用金庫を見れば、歴史と鋳物の奥州の経済と、そこで守りの経営に徹する信金の姿が浮かぶ。岩手県の他の金融機関は、県都の盛岡信用金庫、半導体に沸く北上信用金庫、三陸の宮古信用金庫、県内最大の地銀岩手銀行もあわせてどうぞ。預貸率という数字の読み方については、預貸率の読み方へ。岩手県の他の金融機関と並べて眺めたい方は、岩手県の地域金融機関のページへ。
水沢信用金庫は、アテルイと南部鉄器の奥州に根ざし、地域の身の丈に合った貸出に徹する信用金庫です。地元の事業者に貸す信金とどう付き合うか、口座づくりから与信の考え方まで、知っておきたい銀行取引の基礎をまとめました。
執筆・監修:燧徹史(¥Today 編集責任者)
出典:預金・貸出金・預貸率・自己資本比率・不良債権比率=金融庁「中小・地域金融機関情報一覧」令和7年3月末(信用金庫の計数は百万円単位を億円に換算。預貸率は貸出金÷預金で算出)。盛岡信用金庫・北上信用金庫の数値も同出典。
沿革(1949年7月に「水沢信用組合」として設立されたこと、のちに信用金庫法に基づき水沢信用金庫へ改組したこと、本店が奥州市水沢字日高西にあること、奥州市・胆沢郡金ケ崎町・北上市・西磐井郡平泉町を営業エリアとすること、岩手県内6信用金庫と合同で「SDGs共同宣言」を公表したこと)=水沢信用金庫および各種公開情報にもとづく。
水沢・奥州の地理・歴史(奥州市、水沢、北上川、アテルイ、蝦夷、水沢伊達家、後藤新平・斎藤実・高野長英、南部鉄器、金ケ崎、平泉)に関する記述=各種公開情報・歴史的事実。
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