幡多信用金庫——四万十の信金は、なぜ高知でいちばん貸すのか
預貸率61.5%、預金1,612億円、自己資本比率21.02%。四万十市に本店を置く幡多信用金庫。最後の清流・四万十の地に根ざす「はたしん」が、なぜ高知でいちばんよく貸すのか。その数字と歴史を読む。
高知県の四万十市に本店を置く幡多信用金庫は、地元で「はたしん」と呼ばれる信用金庫だ。預金1,612億円、店舗13。四万十市を中心に、高知県西部の幡多(はた)地域を地盤としている。県の西の端、最後の清流・四万十の地に根ざす信金だ。
本拠の四万十市は、「最後の清流」と呼ばれる四万十川の下流域にある街だ。かつては中村と呼ばれ、土佐の小京都として栄えた歴史を持つ。周辺の幡多地域は、四万十川の流域に農業や漁業が広がり、近年は清流を生かした観光も盛んだ。高知県の西部、足摺岬を含む県の最果てに位置し、高知市からは遠い。幡多信用金庫は、こうした県の西の端、四万十の地に根ざしてきた信金だ。
この信金の数字で目を引くのは、預貸率61.5%という高さと、自己資本比率21.02%という厚さだ。預金の6割超を貸出に回しながら、自己資本も際立って厚い。じつは、同じ高知県には、預貸率9.3%という全国でも極端に低い高知信用金庫がある。なぜ、同じ高知県で、これほど貸し方が違うのか。二つの信金を比べながら、数字を読みにいく。
数字を並べてみる
まず、絶対値から。幡多信用金庫の預金は1,612億円、貸出金は990億円。預貸率は61.5%で、預金の6割超を貸出に回している。自己資本比率は21.02%と厚く、不良債権比率は3.03%。店舗数は13、中小企業等への貸出残高は866億円。
同じ高知県の高知信用金庫(預貸率9.3%・自己資本比率56.02%)と比べると、両者は対極にある。高知信用金庫は「高知のゴールドマンサックス」とも呼ばれ、貸出をほとんど行わず運用に徹し、預貸率はわずか9.3%。一方、幡多信用金庫の預貸率61.5%は、高知信用金庫の6倍を超え、高知県の信金のなかでよく貸している。同じ高知県でも、県都・高知市の高知信用金庫が運用に徹するのに対し、県西の幡多信用金庫は、地元の四万十・幡多の事業者に貸すことに重きを置いている。これは、地盤とする土地の違いと、それぞれの信金の選んだ生き方を映していると読める。
| 幡多信用金庫 | 高知信用金庫 | |
|---|---|---|
| 本店 | 四万十市 | 高知市 |
| 預金 | 1,612億円 | 8,730億円 |
| 預貸率 | 61.5% | 9.3% |
| 自己資本比率 | 21.02% | 56.02% |
| 不良債権比率 | 3.03% | 0.47% |
同じ高知県の二つの信金。高知信用金庫が運用に徹して預貸率9.3%なのに対し、幡多信用金庫は預貸率61.5%でよく貸す。同じ県でも、地盤と選んだ生き方の違いが対極の数字に表れている。
四万十の地とともに——幡多信用金庫の歩み
幡多信用金庫は、最後の清流・四万十の地の商人や事業者の相互扶助の金融機関として育ってきた。土佐の小京都・中村の商店、四万十川の流域の農家や漁師、地域の中小事業者、そして住民——こうした人々が預金を預け、必要なときに資金を借りる。幡多信用金庫は、高知市から遠く離れた県の西端で、地域の暮らしと商いに寄り添ってきた。
幡多地域という土地は、信用金庫にとって、地元に根ざして貸す地盤だ。高知市から遠く離れた県の最果てゆえ、大手の地銀や都市の金融機関の力が及びにくく、地元の信用金庫が、地域の資金需要を一手に引き受ける。四万十川流域の農業・漁業、土佐の小京都の商業、観光——こうした地元の事業者に貸すことで、幡多信用金庫は預金の6割超を貸出に回せる。自己資本比率21.02%という厚さは、過疎と災害リスクを抱える土地で、長く地域を支えるための備えだと読める。
61.5%を、四万十の地から読む
幡多信用金庫の預貸率61.5%という高さは、県の西端で、地元の事業者の資金需要を一手に引き受けていることの表れだと読める。高知市から遠い幡多地域では、地域の金融を担うのは地元の信用金庫だ。運用に徹する県都の高知信用金庫とは対照的に、幡多信用金庫は地元に貸すことを選んできた。同じ高知県で、二つの信金がこれほど違う預貸率を示すのは、地盤の違いと、それぞれの選んだ生き方の違いだと読める。
自己資本比率21.02%という厚さは、よく貸しながらも、過疎と災害リスクを抱える土地で、長く地域を支えるための備えだと読める。不良債権比率3.03%という水準は、地場の農業・漁業の事情を映すが、厚い自己資本が十分に吸収できる。県の西端で地元に深く貸し、厚い自己資本で守りも固める——それが、幡多信用金庫の数字に表れた生き方だと読める。よく貸すが堅実、という両立は、地域とともに生きる信用金庫の一つのかたちだと読める。預貸率という数字をどう読むかについては、預貸率の読み方もあわせてどうぞ。
幡多の経済とともに
幡多信用金庫の数字は、最後の清流・四万十の地と、県の西端で地元に深く貸す信金の歩みの、両方を映している。預金の6割超を地元に貸しながら、厚い自己資本で守りも固めてきた。高知市から遠く離れた幡多の経済を、地元の信用金庫が一手に支える姿が、61.5%という高い預貸率に表れている。
銀行や信用金庫の数字は、その土地の経済と、その金融機関の生き方を映す鏡だ。幡多信用金庫を見れば、最後の清流・四万十の地の経済と、そこで地元に深く貸す信金の姿が浮かぶ。高知県の他の金融機関は、運用に徹する高知信用金庫、県トップの地銀四国銀行、第二地銀の高知銀行もあわせてどうぞ。預貸率という数字の読み方については、預貸率の読み方へ。高知県の他の金融機関と並べて眺めたい方は、高知県の地域金融機関のページへ。
執筆・監修:燧徹史(¥Today 編集責任者)
出典:預金・貸出金・預貸率・自己資本比率・不良債権比率・中小企業等向け貸出残高・店舗数=金融庁「中小・地域金融機関情報一覧」令和7年3月末(信用金庫の計数は百万円単位を億円に換算。預貸率は貸出金÷預金で算出)。高知信用金庫の数値も同出典。
沿革・地域(四万十市に本店を置き、高知県西部の幡多地域を地盤とする信用金庫であること、四万十市がかつて中村と呼ばれ土佐の小京都として栄えたこと、四万十川が「最後の清流」と呼ばれること、幡多地域が県の西端で農業・漁業・観光の地であること)に関する記述=幡多信用金庫および各種公開情報にもとづく。
四万十・幡多の地理・経済(四万十川、最後の清流、中村、土佐の小京都、足摺岬、農業、漁業、観光)に関する記述=各種公開情報。