新潟大栄信用組合——金属の町で、信組はなぜ貸さずに守るのか
不良債権比率10.31%、預貸率29.5%、自己資本比率28.58%。金属洋食器と金属加工で世界に知られる燕の地に根ざす新潟大栄信用組合。高い不良債権と極端に厚い自己資本を、小規模製造業の集積地という土地から読む。
新潟県燕市に本店を置く新潟大栄信用組合は、県の中央部、燕三条と呼ばれる地域に根ざす信用組合だ。預金575億円、店舗10。規模は大きくないが、世界に名を知られたものづくりの町に立っている。
燕市は、金属洋食器と金属加工の町である。ナイフやフォーク、スプーンといった金属洋食器、鍋などの金属ハウスウェアを世界に送り出し、隣接する三条市とあわせて「燕三条」として、刃物や作業工具まで含むものづくりの一大産地を形づくってきた。その担い手は、家族経営を中心とする小規模な金属加工業者だ。「日本で一番社長が多い町」とも呼ばれるほど、小さな工場がひしめいている。この「小さな金属加工業が密集する町」という土地柄が、新潟大栄信用組合の数字を読む鍵になる。
この信用組合の数字は、二つの点で際立っている。ひとつは不良債権比率10.31%という高さ。もうひとつは自己資本比率28.58%という、極端な厚みだ。預貸率は29.5%で、集めた預金の3割ほどしか貸出に回していない。なぜ、これほど不良債権を抱えながら、これほど資本を厚く積み、貸出を抑えるのか。その答えは、金属の町という土地にある。
まず、数字を並べる
新潟大栄信用組合の預金は575億円、貸出金は169億円、預貸率29.5%。自己資本比率は28.58%と極めて厚い。不良債権比率は10.31%と高め。
| 預金 | 575億円 |
|---|---|
| 貸出金 | 169億円 |
| 預貸率 | 29.5% |
| 自己資本比率 | 28.58% |
| 不良債権比率 | 10.31% |
| 中小企業等向け貸出先 | 1,687件 |
| 店舗 | 10店 |
高い不良債権と、極端に厚い自己資本。貸さずに守るその姿を、金属の町から読む。
10.31%と28.58%を、金属の町から読む
不良債権比率10.31%という高さと、自己資本比率28.58%という厚み。この二つは、合わせて読むと一つの経営の姿を描く。リスクの高い相手に貸してきた結果として不良債権を抱え、だからこそ、それに耐えられるよう資本を極端に厚く積み、新たな貸出は慎重に絞る。この選択の背景には、燕三条という土地が抱える事情がある。
新潟大栄信用組合が貸す相手の多くは、地元の小規模な金属加工業者だ。家族経営の小さな工場が密集するこの町では、信組の融資先もまた、そうした事業者が中心になる。小規模な製造業は、景気や為替、取引先の大企業の動向に左右されやすい。燕三条の地場産業は、1985年のプラザ合意以降の円高や、中国をはじめとする新興国の工業化によって、長い縮小圧力にさらされてきた。大手の発注が海外に移れば、下請けの小さな工場は受注を失う。こうした、変動と構造的な縮小圧力を抱える小規模製造業に貸す信用組合では、不良債権比率が高めに出やすいと考えられる。
そして、貸した相手がそうした事業者である以上、いざというときに備える必要がある。不良債権を抱えながらも揺らがないために、自己資本比率28.58%という際立つ厚みを積み、新たな貸出は預貸率29.5%まで絞る。あふれた預金は有価証券などの運用に向かう。守りを固めることで、リスクの高い土地で生き残ってきた——そう読むと、高い不良債権と厚い自己資本と低い預貸率が、一本の論理でつながる。もちろん、これらの比率には個別の大口先の事情も絡むため断定はできないが、小規模製造業の集積地という土地を抜きに、この数字は読めない。
信用組合という、より地域に密着した形
新潟大栄信用組合は、信用金庫ではなく信用組合だ。信用組合は、中小企業等協同組合法などにもとづく協同組織で、組合員のための相互扶助を目的とする。信用金庫と比べても、より小規模な事業者に密着した存在であることが多い。燕三条の小さな金属加工業者に、近い距離で向き合ってきた——それが、この信組の役割だ。リスクの高い相手に寄り添うからこそ、守りを固める必要があった、ともいえる。
借り手にとっての意味
厚い自己資本を持つ信用組合は、経営の安定という点では安心感がある。一方、預貸率が低めであることは、新たな貸出には慎重な面があるとも読める。ただし、地元の小規模製造業にとって、その事情を知る信組は身近な相談相手だ。預貸率という数字の読み方は、預貸率の読み方であらためて整理している。
数字は、ものづくりの町の今を映す
不良債権比率10.31%という高さと、自己資本比率28.58%という厚みは、世界に名を知られた金属の町で、小さな工場に寄り添いながら、その変動に耐えるべく守りを固めてきた信組の姿を映している。同じ「守りの設計」でも、過疎と一次産業の土地で守る信金とは違い、ここでは小規模製造業の集積という固有の事情が、数字の形を決めている。数字は、その金融機関がどんな土地で、誰に向き合ってきたかを語る。
同じ新潟県を地盤とする大光銀行(預貸率81.9%)も、本紀行に登場している。長岡を地盤とする第二地銀の大光銀行は、同じ中越・新潟のものづくりの土地にありながら、預金の8割超を貸し出して攻める。金属加工の燕で貸さずに守るこの新潟大栄信用組合(預貸率29.5%)とは、同じ新潟のものづくりの土地を相手にしながら、よく貸す第二地銀と、守りを固める信組とで、これほど姿勢が分かれる。攻めて貸す第二地銀の姿は、大光銀行の記事もあわせてどうぞ。
各地の金融機関には、それぞれの土地の事情が刻まれた、それぞれの生き方がある。同じ新潟県の地域信組として、ヒスイとフォッサマグナの地で「まちの存亡は、いとしんの存亡」と掲げる糸魚川信用組合と並べると、人口が減る地方で、小さな借り手に寄り添って貸す地域信組に共通する厳しさと役割が見えてくる。新潟県の他の金融機関とあわせて眺めたい方は、新潟県の地域金融機関のページもどうぞ。
出典:預金・貸出金・預貸率・自己資本比率・不良債権比率・中小企業等向け貸出先件数=金融庁「中小・地域金融機関情報一覧」令和7年3月末(預貸率は貸出金÷預金で算出)。
燕市・燕三条の金属洋食器・金属加工の地場産業、およびプラザ合意以降の円高・新興国の工業化による産地の縮小圧力に関する記述=燕三条地場産業振興センター・各種公開情報。
信用組合の制度(中小企業等協同組合法等にもとづく協同組織であること)に関する記述=関係法令および金融庁等の公開資料にもとづく一般的な説明。