トマト銀行——名で名を馳せた第二地銀は、預金の8割超を何に貸すか
預貸率84.9%、預金1.3兆円、自己資本比率8.89%。岡山市に本店を置くトマト銀行。斬新な行名で全国に名を馳せた岡山県唯一の第二地銀が、預金の8割超を貸し出す姿を読みます。
岡山県岡山市に本店を置くトマト銀行は、その名のとおり、全国でも珍しい行名で知られる第二地方銀行です。預金1兆2,523億円、貸出金1兆0,626億円、店舗61。岡山県唯一の第二地方銀行であり、県内では地方銀行の中国銀行に次ぐ、第二の銀行としての性格を持っています。
本拠地の岡山は、「晴れの国」と呼ばれる温暖な気候の土地です。桃やマスカットなどの果樹で知られる一方、水島臨海工業地帯の重化学工業、繊維、商業まで、多様な産業を抱える中四国の要衝です。瀬戸大橋で四国とつながる交通の結節点でもあります。この多様な産業を持つ岡山という土地柄と、ユニークな行名に込められた経営姿勢が、トマト銀行の数字を読む鍵になります。
トマト銀行の歩みは、1931年、倉敷市に倉敷無尽として創業したことに始まります。無尽は庶民の相互扶助のしくみで、第二地銀の源流によく見られます。その後、山陽相互銀行となり、1989年の普通銀行への転換時に、「トマト銀行」へと改称しました。世界中で愛され庶民的な「トマト」のイメージが、新しい銀行像と一致したことに由来します。当時、銀行名としては斬新で、発表と同時に全国から預金申し込みが殺到し、新語・流行語大賞の銅賞を受賞、トマト加工最大手のカゴメとの提携も話題になりました。数字の面で目を引くのは、預貸率84.9%という高さです。
まず、数字を並べる
トマト銀行の預金は1兆2,523億円、貸出金は1兆0,626億円、預貸率84.9%。自己資本比率は8.89%、不良債権比率は2.93%。中小企業等向けの貸出残高は8,161億円にのぼります。
| 預金 | 1兆2,523億円 |
|---|---|
| 貸出金 | 1兆0,626億円 |
| 預貸率 | 84.9% |
| 自己資本比率 | 8.89% |
| 不良債権比率 | 2.93% |
| 中小企業等向け貸出残高 | 8,161億円 |
| 店舗 | 61店 |
預貸率84.9%・自己資本8.89%。よく貸す岡山の第二地銀の数字。
84.9%を、第二地銀の立場から読む
預貸率84.9%は、地方銀行・第二地銀のなかでもかなり高い水準です。集めた預金の8割超を貸出に回している。岡山の事業者に、積極的に資金を流していることの表れと読めます。
トマト銀行が貸す相手は、岡山県内の事業者と個人です。岡山・倉敷の商業、水島の工業関連企業、地域の中小・零細事業者、住宅ローンが、その融資先に含まれます。預貸率84.9%という高さは、第二地銀という立場と無縁ではありません。県内には地銀の中国銀行があり、トマト銀行はそれに次ぐ第二の立場。さらに最大の競合は地方銀行ではなく、中小企業融資で競い合うおかやま信用金庫だとされ、限られた市場で取引先を奪い合う構図にあります。地銀の後塵を拝し、信金とも競う第二地銀が地域でシェアを確保するには、よりきめ細かく、より積極的に貸す姿勢が要る。預貸率84.9%という高さは、その厳しい競争のなかで貸出を伸ばしてきたことの表れと読めます。ネット支店「ももたろう支店」など、新たな顧客を取り込む工夫も続けています。
注目したいのは、不良債権比率2.93%というやや高めの数字と、自己資本比率8.89%という標準的な水準の組み合わせです。体力で劣る第二地銀が、地銀や信金と競いながら積極的に貸せば、相対的にリスクの高い先も引き受けることになり、焦げ付きは高まりやすい。預貸率の高さと不良債権比率のやや高めの水準は、ともに「攻めて貸す」第二地銀の姿の両面と読めます。もちろん、これらの比率には経営方針や景気も絡むため断定はできませんが、地銀と信金に挟まれた第二地銀という立場を抜きに、この数字は読めません。
同じ岡山で、信金と並べてみる
本紀行には、同じ岡山県の備前日生信用金庫も登場しています。県東部の小さな信金である備前日生信金に対し、トマト銀行は県全域を相手にする第二地銀です。よく貸す第二地銀・トマト銀行(預貸率84.9%)と、地域に密着した信金とを並べると、同じ岡山の中小企業を相手にしながら、立場の異なる金融機関がどう貸してきたかが見えてきます。県を相手にする第二地銀と、地区に根ざす信金——両者を並べると、岡山の金融の層の違いが見えてきます。岡山の信金の姿は、備前日生信用金庫の記事もあわせてどうぞ。
借り手にとっての意味
第二地方銀行は、地域の中小事業者にとって、地銀と並ぶ身近な選択肢です。とりわけ積極的に貸す姿勢を持つトマト銀行は、地銀が慎重になりがちな先にも向き合うことがあります。高い預貸率は積極的に貸す姿勢の表れとも読めますが、それが個別の融資の可否を保証するものではありません。預貸率という数字の読み方は、預貸率の読み方であらためて整理しています。
数字は、攻めの立場を映す
預貸率84.9%という高さは、多様な産業を持つ岡山に根ざし、地銀と信金に挟まれた第二地銀として、攻めて貸すことで活路を開いてきた銀行の姿を映しています。地銀の王道を行く銀行もあれば、トマト銀行のように斬新な名と積極融資で存在感を示す第二地銀もある。数字は、その金融機関がどんな立場で地域と向き合ってきたかを語ります。トマト銀行の数字は、名で名を馳せ、攻めて貸し続ける岡山の第二地銀の、いまの記録です。
各地の金融機関には、それぞれの土地と立場の事情が刻まれた、それぞれの生き方があります。岡山県の他の金融機関とあわせて眺めたい方は、岡山県の地域金融機関のページもどうぞ。
出典:預金・貸出金・預貸率・自己資本比率・不良債権比率・中小企業等向け貸出残高=金融庁「中小・地域金融機関情報一覧」令和7年3月末(預貸率は貸出金÷預金で算出)。
トマト銀行の沿革(1931年に倉敷無尽として創業、山陽相互銀行を経て1989年の普通銀行転換時にトマト銀行へ改称、行名の由来、流行語大賞銅賞・カゴメとの提携、本店は岡山市)、岡山県唯一の第二地方銀行であること、県内で中国銀行に次ぐ第二の銀行であること、最大の競合がおかやま信用金庫とされること、ネット支店「ももたろう支店」に関する記述=トマト銀行および各種報道・公開情報にもとづく。
岡山県の地理と産業(晴れの国、桃・マスカット等の果樹、水島臨海工業地帯、瀬戸大橋)に関する記述=各種公開情報。
備前日生信用金庫の位置づけ=各種公開情報および本紀行既出記事。
第二地方銀行の一般的な成り立ち(無尽・相互銀行を源流とする等)に関する記述=一般的な金融制度の説明にもとづく。