備前日生信用金庫——焼物と牡蠣の町で、信金は何を守っているのか
預貸率32.6%、自己資本比率12.46%。備前焼と牡蠣の町・岡山県備前に根ざす備前日生信用金庫。低い預貸率を、伝統工芸・耐火物・漁業という地場産業と過疎の土地から読む。
岡山県備前市に本店を置く備前日生信用金庫は、岡山県の南東部、瀬戸内に面した地に根ざす信用金庫だ。預金2,190億円、店舗17。古くからの焼物と、海の幸に恵まれた土地に立っている。
備前は、いくつもの地場産業が息づく町だ。日本六古窯のひとつに数えられる備前焼の産地で、伊部地区には窯元や陶芸店が集まる。三石地区などでは耐火煉瓦が作られ、その生産量は国内でもトップクラスとされる。そして日生地区は牡蠣の養殖で知られる漁業の町で、大粒の牡蠣を使った「カキオコ」で町おこしも行われている。伝統工芸、耐火物、漁業——個性ある地場産業が並ぶ一方、地域では人口減少も進む。この「地場産業と過疎の同居する町」という土地柄が、備前日生信用金庫の数字を読む鍵になる。
この信用金庫の数字で目を引くのは、預貸率32.6%という低さだ。集めた預金の3分の1ほどしか貸出に回していない。地場産業の息づく町でありながら、なぜこれほど貸出を抑えるのか。その答えは、瀬戸内の地場産業の町という土地にある。
まず、数字を並べる
備前日生信用金庫の預金は2,190億円、貸出金は714億円、預貸率32.6%。自己資本比率は12.46%、不良債権比率は4.84%。中小企業等向けの貸出先は4,695件。
| 預金 | 2,190億円 |
|---|---|
| 貸出金 | 714億円 |
| 預貸率 | 32.6% |
| 自己資本比率 | 12.46% |
| 不良債権比率 | 4.84% |
| 中小企業等向け貸出先 | 4,695件 |
| 店舗 | 17店 |
預金の3分の1ほどしか貸さない。その姿を、焼物と牡蠣の町から読む。
32.6%を、地場産業の町から読む
預貸率32.6%という低さは、本紀行で見てきた「守りの信金」と同じ系譜にある。集めた預金の多くを貸出に回さず、運用などに充てているということだ。この背景には、備前という土地の産業構造がある。
備前日生信用金庫が貸す相手は、地元の中小事業者だ。そのなかには、備前焼の窯元や陶芸関連の事業者、耐火煉瓦などの耐火物を手がける事業者、日生の牡蠣養殖をはじめとする漁業者、そして地域の商店が含まれると考えられる。伝統工芸も、漁業も、規模の大きな設備投資が継続的に生まれる分野ではない。耐火物は確かな地場産業だが、需要は景気に左右される。加えて、地域では人口減少が進む。借り手の資金需要が構造的に限られる土地では、集めた預金を貸出に変えられる範囲がおのずと狭まる。預貸率32.6%という低さは、貸す気がないからではなく、地場産業と過疎という土地の条件が映ったものと読める。
自己資本比率12.46%は、際立って厚いわけではないが、堅実な水準だ。不良債権比率4.84%は、地場産業や漁業、過疎地域の事業者を抱える土地の事情を、ある程度は映していると思われる。限られた借り手に堅実に貸し、あふれた預金は運用に回し、足元を固める——個性ある地場産業を抱えつつ過疎の進む土地で、長く地元を支えるための経営と読める。もちろん数字には個別の事情も絡むが、焼物と耐火物と牡蠣という備前の地場産業を抜きに、この数字は読めない。
なぜ、こうなったのか——制度と地域
備前日生信用金庫が地元に貸す信金であることの背景には、信用金庫という制度がある。信用金庫が融資できる相手は原則として「会員」に限られ、その資格は信用金庫法10条1項により、信用金庫の「地区」の中に住所や事業所がある人、その地区で働く人、と定められている。事業者には規模の制限もあり、大企業は会員になれない。
この制度のもとでは、貸す相手はおのずと地元の中小事業者や住民に絞られる。備前日生信用金庫にとって、その「地元」とは、備前焼・耐火物・牡蠣という地場産業に支えられ、人口減少が進む備前の地域経済そのものだ。限られた借り手の土地で、堅実に貸し、足元を固めることが、この信金の生き方といえる。
借り手にとっての意味
預貸率が低めの信用金庫は、貸出に慎重な面があるとも読めるが、それは経営の堅実さの裏返しでもある。地元の伝統工芸や漁業の事業者にとって、その産業を知る信金は身近な相談相手だ。預貸率という数字の読み方は、預貸率の読み方であらためて整理している。
数字は、土地の産業を映す
預貸率32.6%という低さは、備前焼・耐火物・牡蠣という個性ある地場産業を抱えながら、過疎の進む土地で堅実に地元を支えてきた信金の姿を映している。同じ「貸出を抑える信金」でも、その土地が抱える産業は、最北の地とも、山あいの観光地とも違う。数字は、その金融機関がどんな土地で、どんな産業に向き合ってきたかを語る。備前日生信用金庫の数字は、焼物と牡蠣の町の今そのものだ。
本紀行では、同じくやきものの里に根ざす信金を他にも訪ねている。佐賀県の伊万里信用金庫は、世界に知られた伊万里焼・有田焼の産地と積出港に根ざし、預貸率65.0%とよく貸していた。預貸率32.6%で守りを固めるこの備前日生信用金庫とは対照的だ。同じ「やきものの里の信金」でも、産地の規模や経営の姿勢によって貸す姿はこれだけ違う。もうひとつのやきものの里の信金の姿は、伊万里信用金庫の記事もあわせてどうぞ。
同じ岡山県でも、県全域を相手にする銀行は、まるで違う数字を見せる。岡山県唯一の第二地方銀行であるトマト銀行(預貸率84.9%)は、地銀の中国銀行と信金に挟まれながら、預金の8割超を貸し出して攻める。地区内の中小に絞って預貸率32.6%で守りを固めるこの備前日生信用金庫とは対照的だ。同じ岡山の中小企業を相手にしながら、立場の違う金融機関がどう貸すか——県全域の第二地銀の姿は、トマト銀行の記事もあわせてどうぞ。
本紀行には、同じ岡山県の津山信用金庫も登場している。津山信金は、森氏の城下町として栄えた県北・美作の中心都市・津山に根ざす信金だ。瀬戸内海沿いの備前に根ざし守りを固めるこの備前日生信用金庫(預貸率32.6%)と、中国山地の城下町に根ざす津山信用金庫(預貸率44.3%)とを並べると、同じ岡山県でも、瀬戸内の海辺と中国山地の城下町とで、それぞれの土地の事情を抱えながら信金が地域を支えていることが見えてくる。県北の城下町の信金の姿は、津山信用金庫の記事もあわせてどうぞ。
各地の金融機関には、それぞれの土地の事情が刻まれた、それぞれの生き方がある。岡山県の他の金融機関とあわせて眺めたい方は、岡山県の地域金融機関のページもどうぞ。
出典:預金・貸出金・預貸率・自己資本比率・不良債権比率・中小企業等向け貸出先件数=金融庁「中小・地域金融機関情報一覧」令和7年3月末(預貸率は貸出金÷預金で算出)。
備前市の地場産業(日本六古窯・備前焼、三石地区などの耐火煉瓦、日生地区の牡蠣養殖漁業)および人口に関する記述=岡山県・備前市・各種公開情報。
信用金庫の地区・会員資格に関する記述=金融庁 金融審議会「協同組織金融機関のあり方に関するワーキング・グループ」資料『協同組織金融機関の「地区」のあり方』(2008年6月20日・神吉正三)。