伊万里信用金庫——やきものの積出港で、信金は何に貸すか
預貸率65.0%、不良債権比率3.04%。伊万里市に本店を置く伊万里信用金庫。伊万里焼と有田焼の積出港として栄えた肥前のまちに根ざし、信金として高めの預貸率で地元に貸す数字を、やきものの里から読みます。
佐賀県伊万里市に本店を置く伊万里信用金庫は、預金996億円、貸出金647億円、店舗9。伊万里市と隣の西松浦郡有田町、そして県境を越えた長崎県松浦市を地盤とする信用金庫です。やきものの歴史に彩られた、肥前のまちに根を張っています。
本店のある伊万里市は、日本のやきものの歴史を語るうえで欠かせない土地です。江戸時代、有田を中心とする肥前一帯で焼かれた磁器は、伊万里の港(伊万里津)から全国へ、そして海を越えてヨーロッパへと積み出され、「伊万里焼(IMARI)」の名で世界に知られました。隣の有田町は、日本磁器発祥の地。伊万里市の大川内山(おおかわちやま)には、佐賀・鍋島藩の御用窯が置かれ、将軍家や大名への献上品をつくる「秘窯の里」として、いまもその面影を残しています。やきものに加えて、伊万里牛などの畜産も知られる土地です。この、やきものの積出港として栄えた肥前のまちという土地柄が、伊万里信用金庫の数字を読む鍵になります。
伊万里信用金庫の歩みは、1925年に有限責任伊万里信用組合として設立されたことに始まり、1953年に信用金庫となりました。数字の面で目を引くのは、預貸率65.0%という、信用金庫としては高めの水準です。集めた預金の3分の2近くを貸出に回しています。本紀行で見てきた、預貸率が3〜4割にとどまる信金も多いなかで、この高さを、やきものの里から読みます。
まず、数字を並べる
伊万里信用金庫の預金は996億円、貸出金は647億円、預貸率65.0%。自己資本比率は11.38%、不良債権比率は3.04%。中小企業等向けの貸出先は4,891件です。
| 預金 | 996億円 |
|---|---|
| 貸出金 | 647億円 |
| 預貸率 | 65.0% |
| 自己資本比率 | 11.38% |
| 不良債権比率 | 3.04% |
| 中小企業等向け貸出先 | 4,891件 |
| 店舗 | 9店 |
信金として高めの預貸率65.0%。やきものの里でよく貸す信金の数字を読む。
65.0%を、やきものの里から読む
預貸率65.0%は、信用金庫としては高めの水準です。集めた預金の3分の2近くを貸出に回している。小さな信金がこれだけ貸せるのは、地元にしっかりした資金需要があることの表れと読めます。
伊万里信用金庫が貸す相手は、伊万里・有田を中心とする地元の中小事業者です。有田焼・伊万里焼の窯元や陶磁器関連の事業者、伊万里牛などの畜産・農業、そして地域の商業・建設業が、その融資先に含まれると考えられます。やきものの産地は、窯元から商社、流通まで、磁器をめぐる事業の裾野が広い。加えて、有田・伊万里は観光地としても人を集めます。こうした、やきものを軸とした地場産業の厚みが、信金として高めの預貸率65.0%を支えていると読めます。不良債権比率3.04%は、地方の信金として極端に高くはなく、自己資本比率11.38%という相応の厚みとあわせて、よく貸しながらも堅実さを保つ経営がうかがえます。
もっとも、やきものの産地も、安泰というわけではありません。和食器の需要は生活様式の変化のなかで長く縮小圧力にさらされ、窯元の多くは小規模で、担い手の高齢化という課題も抱えています。地場産業に深く根ざすことは、その浮き沈みをともに引き受けることでもあります。それでも預貸率65.0%という高さを保っているのは、やきものの里に逃げずに貸し続け、地域の資金需要に応えてきたことの表れと読めます。もちろん、これらの比率には個別の事情や経営方針も絡むため断定はできませんが、世界に知られたやきものの積出港という土地を抜きに、この数字は読めません。
なぜ、こうなったのか——制度と地域
伊万里信用金庫が地元に貸す信金であることの背景には、信用金庫という制度があります。信用金庫が融資できる相手は原則として「会員」に限られ、その資格は信用金庫法10条1項により、信用金庫の「地区」の中に住所や事業所がある人、その地区で働く人、と定められています。事業者には規模の制限もあり、大企業は会員になれません。
この制度のもとでは、貸す相手はおのずと地元の中小事業者や住民に絞られます。伊万里信用金庫にとって、その「地元」とは、伊万里・有田のやきものの産地と、県境を越えた長崎県松浦市を含む肥前の地域経済です。やきものの窯元の多くは小規模な事業者であり、まさに信金が向き合うべき相手です。地区に根ざし、地場産業の小さな担い手を支えることこそが、この信金の役割といえます。
もうひとつの、やきものの里の信金と並べてみる
本紀行では、同じくやきものの里に根ざす信金を訪ねてきました。岡山県の備前日生信用金庫は、備前焼の産地に根ざし、預貸率32.6%という、守りを固めた数字を持っていました。やきものの里に高めの預貸率で貸す伊万里信用金庫(65.0%)とは、対照的な数字です。同じ「やきものの里の信金」でも、産地の規模や経済の厚み、経営の姿勢によって、貸す姿はこれだけ違う。世界に知られた磁器の産地と積出港を抱える伊万里と、人間国宝の作家性に支えられる備前——やきものの性格の違いが、信金の数字にも映っているのかもしれません。もうひとつのやきものの里の信金の姿は、備前日生信用金庫の記事もあわせてどうぞ。
借り手にとっての意味
地元に根ざす信用金庫は、地域の中小事業者にとって、身近な相談相手です。とりわけ、やきものの窯元や、伊万里・有田で商いを営む小さな事業者にとって、地場産業の事情を知る信金の存在は心強いものです。高めの預貸率は積極的に貸す姿勢の表れとも読めますが、それが個別の融資の可否を保証するものではありません。預貸率という数字の読み方は、預貸率の読み方であらためて整理しています。
数字は、やきものの里を映す
預貸率65.0%という高さと、不良債権比率3.04%という水準は、世界に知られたやきものの積出港・伊万里に根ざし、窯元から畜産まで地場産業の小さな担い手に貸し続けてきた信金の姿を映しています。守りを固める信金もあれば、地場産業の厚みに支えられてよく貸す信金もある。数字は、その金融機関がどんな土地で、誰に向き合ってきたかを語ります。伊万里信用金庫の数字は、IMARIの名を世界に送り出したまちに立つ信金の、いまの記録です。
各地の金融機関には、それぞれの土地と産業の事情が刻まれた、それぞれの生き方があります。佐賀県の他の金融機関とあわせて眺めたい方は、佐賀県の地域金融機関のページもどうぞ。
出典:預金・貸出金・預貸率・自己資本比率・不良債権比率・中小企業等向け貸出先件数=金融庁「中小・地域金融機関情報一覧」令和7年3月末(預貸率は貸出金÷預金で算出)。
伊万里信用金庫の沿革(1925年に有限責任伊万里信用組合として設立、1953年に信用金庫となる)、伊万里市・西松浦郡有田町・長崎県松浦市を地盤とすることに関する記述=伊万里信用金庫および各種公開情報にもとづく。
伊万里焼・有田焼の歴史(伊万里津からの積出し、IMARIの名、大川内山の鍋島藩窯・秘窯の里)、伊万里牛等の地域産業に関する記述=伊万里市・各種公開情報。
備前日生信用金庫の数値=金融庁「中小・地域金融機関情報一覧」令和7年3月末。
信用金庫の地区・会員資格に関する記述=金融庁 金融審議会「協同組織金融機関のあり方に関するワーキング・グループ」資料『協同組織金融機関の「地区」のあり方』(2008年6月20日・神吉正三)。