足利小山信用金庫——両毛の織物のまちで、構造変化に貸し続ける
栃木県足利市に本店を置く信用金庫の預貸率は45.1%、不良債権比率は4.78%。やや高めのこの焦げ付き比率は、足利銘仙で知られた繊維産地が、長い構造変化のなかを歩いてきたことと無縁ではありません。
栃木県南西端、群馬県との県境に近い足利市に本店を置く足利小山信用金庫は、預金3,262億円、貸出金1,471億円、店舗32。足利と、東隣の小山を二つの軸に、両毛地域を中心とした支店網を持つ信用金庫です。
本店のある足利市は、古くからの織物のまちです。奈良時代の文献にもその名が見え、江戸時代には「足利織」として全国に知られ、近代には「足利銘仙」が手ごろな絹織物として一世を風靡しました。戦後はトリコットなどのニット製品へと姿を変えながら、繊維産地としての名を引き継いできました。近年はそこにアルミや機械金属、プラスチックといった加工業が加わり、首都圏に近い総合的な工業地帯となっています。この、繊維を芯に時代とともに姿を変えてきた地場製造業の土地柄が、足利小山信用金庫の数字を読む鍵になります。
この信用金庫の預貸率は45.1%。集めた預金の4割半ばを貸出に回しています。運用型の信金ほど低くはなく、地方銀行ほど高くもない。この中庸の数字と、やや高めの不良債権比率を重ねると、構造変化を抱える産地で貸し続けてきた信金の姿が浮かびます。
まず、数字を並べる
足利小山信用金庫の預金は3,262億円、貸出金は1,471億円、預貸率45.1%。自己資本比率は10.82%。不良債権比率は4.78%。
| 預金 | 3,262億円 |
|---|---|
| 貸出金 | 1,471億円 |
| 預貸率 | 45.1% |
| 自己資本比率 | 10.82% |
| 不良債権比率 | 4.78% |
| 中小企業等向け貸出先 | 10,844先 |
| 店舗 | 32店 |
中小企業等への貸出先は約1万先。両毛の地場製造業に根を張る信金です。
4.78%を、両毛の地場製造業から読む
不良債権比率4.78%は、運用型の信用金庫(高知信用金庫0.47%)と比べれば、かなり高く見えます。だが、この数字を「危うい」と読む前に、貸す相手の産業を見ておきたいと思います。
足利小山信用金庫が貸す相手の多くは、両毛地域の地場製造業の事業者です。繊維を芯とするこの産地は、栄光の歴史を持つ一方で、安価な輸入品との競争や需要構造の変化のなかで、長い構造変化を歩んできた業種でもあります。織物からトリコット、ニットへ、さらに金属加工やプラスチックへと、地域の事業者は時代に合わせて業態を変えてきました。こうした構造変化のただ中にある地場製造業に貸し続けてきたことが、4.78%という比率の背にあると読むのが、実態に近いでしょう。
もっとも、不良債権比率には個別の大口先の事情や引当方針も絡むため、「繊維産地の構造変化がそのまま比率に出ている」と言い切ることはできません。ただ、長い構造変化を抱える産地で貸す信金であれば、その焦げ付き比率には土地の産業の歩みが映りやすい、とまでは言えると思われます。業態を変えながら生き残ろうとする事業者に、リスクを引き受けて貸してきた——その積み重ねが、この水準として表れているという読み筋です。
足利と小山、二つの軸を持つ意味
この信用金庫の名には、足利と小山という二つの地名が並びます。足利は繊維を芯とする両毛西部の産地、小山は栃木県南の交通・産業の要衝。性格の異なる二つの地域を軸に持つことは、貸し先の産業をある程度ばらけさせることにつながります。一つの産地の浮き沈みだけに経営が左右されにくくなる、という見方もできます。構造変化を抱える土地で長く貸し続けるには、こうした地域の広がりも一つの備えになっているのかもしれません。
なぜ、こうなったのか——制度と地域
足利小山信用金庫が地元の中小事業者に貸す信金であることの背景には、信用金庫という制度があります。信用金庫が融資できる相手は原則として「会員」に限られ、その資格は信用金庫法10条1項により、信用金庫の定める「地区」の中に住所や事業所がある人、その地区で働く人、と定められています。事業者には規模の制限もあり、大企業は会員になれません。
この枠のもとでは、貸す相手はおのずと地元の中小事業者や住民に絞られます。足利小山信用金庫にとって、その「地元」とは、繊維と金属加工を芯とする両毛の地域経済そのものです。会員資格が地区内に絞られるという制度の枠が、結果として「両毛の地場製造業に貸す信金」という姿を形づくっています。
借り手にとっての意味
足利小山信用金庫のように、構造変化を抱える産地で貸し続けてきた信用金庫は、運用型の金融機関とは借り手への向き合い方が違います。地域の事業者の事情を知り、業態を変えながら生き残ろうとする製造業にもリスクを取って貸す姿勢があるぶん、地元の繊維・金属事業者にとっては相談しやすい相手になりえます。ただし、それでも審査は審査であり、預貸率の数字だけで「借りやすさ」を測れるわけではありません。預貸率という指標の読み方は、預貸率の読み方であらためて整理しています。
数字は、産地の歩みを映す
運用益で稼ぐ信金もあれば、自己資本を厚く積んで守る信金もあります。そして足利小山信用金庫のように、構造変化のただ中にある地場製造業に寄り添い、貸し続ける信金もあります。不良債権比率という一つの数字は、その金融機関がどんな土地で、どんな産業の歩みに付き合ってきたかを映す鏡です。両毛の織物のまちの信金が示す4.78%は、危うさの表れというより、産地の長い構造変化に伴走してきた距離の近さの表れと読めます。
同じ栃木県を代表する地銀として、足利銀行(預貸率78.7%・預金7.2兆円)も本紀行に登場しています。「足利」の名を分かち持つ二つの金融機関——県全域を相手にする足利銀行(預貸率78.7%)と、両毛の繊維・金属の産地に根ざすこの足利小山信用金庫(預貸率45.1%)——が、同じ栃木で立場を違えて地域を支えています。一時国有化という試練を越えて再生した県の雄の姿は、足利銀行の記事もあわせてどうぞ。
各地の金融機関には、それぞれの土地の産業と事情が刻まれた、それぞれの生き方があります。同じく構造変化を抱える地場産業のまちの信金として、美濃焼の産地に根ざす東濃信用金庫とあわせて読むと、織物とやきもの——産地を支える信金の似た悩みが見えてきます。栃木県の他の金融機関とあわせて眺めたい方は、栃木県の地域金融機関のページもどうぞ。
出典:預金・貸出金・預貸率・自己資本比率・不良債権比率・中小企業等向け貸出先=金融庁「中小・地域金融機関情報一覧」令和7年3月末。
足利の織物・足利銘仙・両毛の地場製造業に関する記述=足利市・足利商工会議所の公開情報等。
信用金庫の地区・会員資格に関する記述=信用金庫法10条1項、および金融庁・全国信用金庫協会の公開資料等。