第一勧業信用組合——担保でなく人を見て貸す信組は、芸者にも創業者にも貸す
預貸率81.5%、預金3,611億円。新宿区に本店を置く第一勧業信用組合。担保・保証でなく人とコミュニティを見て貸す「コミュニティローン」で全国に知られる信組が、預金の8割超を貸す姿を読みます。
東京都新宿区に本店を置く第一勧業信用組合は、地元で「だいいちかんしん」と呼ばれる信用組合です。預金3,611億円、貸出金2,942億円、店舗27。東京23区を主な地盤とする信用組合で、その名のとおり、かつての第一勧業銀行(現・みずほ銀行)の職域組合を母体として設立された歴史を持ちます。
この信用組合が全国に名を知られるのは、規模ではなく、その貸し方の哲学ゆえです。担保や保証、決算書のスコアでなく、「人とコミュニティ」を見て貸す——この一点を徹底することで、経営不振による吸収合併が相次ぐ信用組合業界にあって、業績を立て直したことで知られます。背景には、メガバンク役員から転じた理事長のもとで進められた経営改革があります。この、担保でなく人を見て貸すという哲学が、第一勧業信用組合の数字を読む鍵になります。
その哲学を象徴するのが、「コミュニティローン」と呼ばれる無担保・無保証の融資です。なかでも知られるのが、花街の芸者が独立して店を持つときに使える「芸者さんローン」。芸者の人となりを知る料亭組合の代表の「推薦」を得て融資する仕組みです。担保も保証もない。あるのは、コミュニティのなかでその人がどう信頼されているか、という情報だけ。ほかにも「のれん分けローン」「商店街ローン」など、設定されたコミュニティローンは約300種にのぼるとされます。数字の面で目を引くのは、預貸率81.5%という高さです。
まず、数字を並べる
第一勧業信用組合の預金は3,611億円、貸出金は2,942億円、預貸率81.5%。自己資本比率は9.13%、不良債権比率は2.71%。中小企業等向けの貸出先は9千件を超えます。
| 預金 | 3,611億円 |
|---|---|
| 貸出金 | 2,942億円 |
| 預貸率 | 81.5% |
| 自己資本比率 | 9.13% |
| 不良債権比率 | 2.71% |
| 中小企業等向け貸出先 | 9,619件 |
| 店舗 | 27店 |
預貸81.5%。運用に逃げず、人を見て貸すことに徹する信組の数字。
81.5%を、「人とコミュニティの金融」から読む
預貸率81.5%は、信用組合のなかでも高い水準です。本紀行で見てきた信金・信組の多くは、預貸率が3割から5割ほどで、あふれた預金を有価証券などの運用に回していました。第一勧業信用組合は、集めた預金の8割超を貸出に回している。運用に逃げず、貸すことに徹しているのです。
これだけ貸せるのは、「貸せる相手」を見つける独自の方法を持っているからです。担保や決算書だけを見れば、創業まもない事業者や、独立しようとする芸者、のれん分けで店を持つ職人は、貸しにくい相手です。だが第一勧業信用組合は、その人がコミュニティのなかでどう信頼されているか、という情報を担保の代わりにする。料亭組合の推薦、商店街のつながり、職域の信頼——担保のない人にも、コミュニティという文脈のなかでなら貸せる。これが、業績に裏付けられた信用力や担保がないために融資を受けられない先に資金を届ける、いわゆる「金融排除」を打ち破る試みとして注目されてきました。預貸率81.5%という高さは、この「人とコミュニティを見て貸す」方法が、現に機能していることの表れと読めます。
不良債権比率2.71%は、信組としてやや高めですが、担保のない先に積極的に貸していることを思えば、むしろ抑えられている方とも読めます。コミュニティの信頼を介して貸すことが、結果として焦げ付きを一定に抑える目利きとして働いている可能性があります。自己資本比率9.13%とあわせて、攻めて貸しながら経営の健全性を保つ姿がうかがえます。もちろん、これらの比率には個別の事情も絡むため断定はできませんが、「人とコミュニティの金融」という独自の哲学を抜きに、この数字は読めません。
創業支援と、地方との連携
「人とコミュニティを見て貸す」哲学は、目の前の融資にとどまりません。第一勧業信用組合は、創業支援にも力を入れ、東京の起業家を育てる取り組みを進めてきました。さらに特徴的なのが、「地方と東京を結ぶ組合」を掲げた地方連携です。北海道から岡山まで、全国の信用組合や地方自治体と数多くの連携協定を結び、地方の物産を東京で販売したり、地方企業と東京のビジネスをつないだりしています。一つの信組では限界のある支援を、全国のネットワークで広げる——「東京の信組」という枠を超えて、地方創生の担い手たろうとする姿勢です。担保でなく人とコミュニティを見るという哲学が、こうした全国の「志の連携」へと広がっています。
同じ東京で、人を見て貸す巨大信金と並べてみる
本紀行には、同じ東京都の城南信用金庫も登場しています。城南信金は、数字や担保でなく人と事業を見て貸す「小原哲学」で知られ、創業まもないマザーハウスに貸したことで知られる巨大信金でした。コミュニティの信頼を担保に貸す第一勧業信用組合と、人と事業の本質を見て貸す城南信用金庫——規模も成り立ちも異なる二つの協同組織が、ともに「担保や数字でなく人を見て貸す」という同じ志に立っていることが見えてきます。人を見て貸すもう一つの形は、城南信用金庫の記事もあわせてどうぞ。
借り手にとっての意味
担保や保証でなく人とコミュニティを見て貸す金融機関は、担保を持たない創業者や、独立しようとする職人、小さな商いの担い手にとって、心強い相手になりえます。とりわけ第一勧業信用組合のように、コミュニティの信頼を融資につなげる仕組みを持つ信組は、ほかでは貸してもらえなかった人の相談先になりえます。一方で、コミュニティの推薦や関係を前提とする以上、誰にでも同じように貸せるわけではありません。預貸率という数字の読み方は、預貸率の読み方であらためて整理しています。
数字は、貸し方の哲学を映す
預貸率81.5%という高さは、担保や数字でなく人とコミュニティの信頼を見て貸すという哲学を貫いてきた信組の姿を映しています。運用に逃げる金融機関もあれば、第一勧業信用組合のように、担保のない人にコミュニティを介して貸す道を選ぶ金融機関もある。数字は、その金融機関が誰を、何を頼りに貸してきたかを語ります。第一勧業信用組合の数字は、「人とコミュニティの金融」を掲げる信組の、いまの記録です。
各地の金融機関には、それぞれの哲学と歩みの事情が刻まれた、それぞれの生き方があります。東京都の他の金融機関とあわせて眺めたい方は、東京都の地域金融機関のページもどうぞ。
出典:預金・貸出金・預貸率・自己資本比率・不良債権比率・中小企業等向け貸出先件数=金融庁「中小・地域金融機関情報一覧」令和7年3月末(預貸率は貸出金÷預金で算出)。
第一勧業信用組合の沿革・経営(第一勧業銀行の職域組合を母体に設立、東京23区を主な地盤とすること、メガバンク役員出身の理事長のもとでの経営改革、「銀行に近い信組」と評されること)に関する記述=第一勧業信用組合の開示資料・各種公開情報にもとづく。
コミュニティローン(担保・保証を取らない融資、芸者さんローン・のれん分けローン・商店街ローン等、約300種、料亭組合の推薦による融資の仕組み)、創業支援、全国の信用組合・自治体との地方連携(「地方と東京を結ぶ組合」)に関する記述=第一勧業信用組合および各種公開情報・報道にもとづく。
「金融排除」に関する記述=金融庁の公開資料等にもとづく一般的な説明。
城南信用金庫の位置づけ=各種公開情報および本紀行既出記事。