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紀陽銀行——和歌山の地銀は、なぜ大阪に貸すのか

預貸率89.1%、貸出金の半分超が大阪府向け。和歌山県唯一の地銀・紀陽銀行は、本拠地を越えて大阪に深く貸す。みかんと鉄鋼の和歌山と、第二の地元・大阪という二つの地盤から、その数字を読む。

ニホン銀行紀行 ・ 和歌山県

和歌山県和歌山市に本店を置く紀陽銀行は、和歌山県唯一の地方銀行だ。預金4兆6,782億円、店舗113。県を代表する銀行でありながら、その貸出の半分以上は、和歌山ではなく北隣の大阪府に向かっている。少し変わった地銀である。

和歌山は、二つの顔を持つ土地だ。ひとつは、みかんや梅(南高梅は生産日本一)といった果樹農業の県。もうひとつは、和歌山市の製鉄所、有田の石油精製所、化学工場といった、鉄鋼・石油・化学を中心とする基礎素材型の工業県でもある。ただし、和歌山県は近畿のなかでも経済規模が大きいとはいえず、その先行きに危機感を抱いた紀陽銀行は、早くから北隣の大阪府を「第二の地元」と位置づけてきた。この戦略が、紀陽銀行の数字を読む鍵になる。

この銀行の数字で目を引くのは、預貸率89.1%という高さだ。集めた預金の9割近くを貸出に回している。そして、その貸出先の構成が際立っている。貸出金のうち、大阪府向けがおよそ54%、和歌山県向けがおよそ36%と、本拠地を上回って大阪に貸しているのだ。なぜ、和歌山の地銀が大阪に貸すのか。

まず、数字を並べる

紀陽銀行の預金は4兆6,782億円、貸出金は4兆1,690億円、預貸率89.1%。自己資本比率は11.24%、不良債権比率は1.44%と低い。中小企業等向けの貸出先は11万件を超える。

紀陽銀行(2025年3月期)
預金46,782億円
貸出金41,690億円
預貸率89.1%
自己資本比率11.24%
不良債権比率1.44%
中小企業等向け貸出先113,814件
店舗113店

預金の9割近くを貸し、その半分超は大阪へ。越境する地銀の姿を読む。

89.1%を、二つの地盤から読む

預貸率89.1%は、地方銀行としては高い。集めた預金の大半を貸出に回している。これだけ貸せる背景には、紀陽銀行が和歌山県内だけでなく、大阪府という大きな市場を貸出先として取り込んできたことがある。

和歌山県は、近畿のなかでは経済規模が控えめで、県内だけを相手にしていては、貸出を大きく伸ばすことが難しい。そこで紀陽銀行は、1950年から大阪府に進出し、いまでは大阪府内に多数の店舗を構える。その結果、貸出金の地域別構成は大阪府が約54%、和歌山県が約36%と、本拠地を上回って大阪に貸す形になった。大阪府南部では、紀陽銀行をメインバンクとする企業の割合が、大手行を上回るとの調査もある。和歌山という限られた市場を、大阪という大きな市場で補い、預貸率89.1%という高い水準を実現している——そう読める。

一方で、本拠地・和歌山の産業も、この銀行の土台であり続けている。みかんや梅の果樹農業、和歌山市の製鉄所や有田の石油精製所に代表される基礎素材型の工業。農業と重厚長大な産業という和歌山の二つの顔に根を張りつつ、成長の活路を大阪に求めるのが、紀陽銀行の姿だ。不良債権比率が1.44%と低く保たれているのは、こうした幅広い地盤に堅実に貸してきたことの表れともいえる。もちろん数字には個別の事情も絡むが、和歌山と大阪という二つの地盤を抜きに、この銀行は読めない。

越境する地銀という個性

地方銀行の多くは、自県を主な地盤とする。預金を超えるほど貸す熊本銀行や北九州銀行も、その背景にはグループの資金力があった。紀陽銀行が際立つのは、本拠地の経済規模の限界を、隣接する大都市への越境で補うという戦略を、長い時間をかけて実現してきた点だ。和歌山県唯一の地銀でありながら、その経済的な重心は半ば大阪にある。一つの地銀の数字には、その銀行が選んだ生き残りの戦略が刻まれている。

借り手にとっての意味

和歌山と大阪の双方に地盤を持つ銀行は、両地域の事業者にとって、選択肢のひとつになりうる。預貸率の高さは、積極的に貸し出す姿勢の表れとも読めるが、それが個別の融資の可否を保証するものではない。預貸率という数字の読み方は、預貸率の読み方であらためて整理している。

数字は、選んだ戦略を映す

預貸率89.1%という高さと、大阪に半分超を貸すという構成は、本拠地・和歌山の限界を、大阪への越境で補ってきた地銀の戦略そのものを映している。同じ「よく貸す地銀」でも、土地の事情も、貸す相手も、銀行ごとに違う。数字は、その金融機関がどんな土地に根ざし、どこに活路を求めてきたかを語る。紀陽銀行の数字は、越境して生き残る地銀の記録だ。

各地の金融機関には、それぞれの土地や戦略の事情が刻まれた、それぞれの姿がある。同じく本拠を越えて大阪に貸し込む地銀として、徳島から大阪へ伸びる徳島大正銀行とあわせて読むと、本拠地の限界を大都市で補う地銀の選択が見えてくる。また、同じ和歌山に根ざしながら、県内の預金を運用に回すきのくに信用金庫と並べると、預貸89.1%と預貸36.2%——同じ果樹県の資金需要の限界に、地銀と信金が違う形で向き合う姿が浮かぶ。さらに、同じ「県唯一の地銀」として隣接する大阪に貸し先を求める南都銀行(奈良)と並べると、本拠地だけでは貸し先が足りず大都市圏に活路を求めるという、県唯一の地銀に共通の構図が見えてくる。和歌山県の他の金融機関とあわせて眺めたい方は、和歌山県の地域金融機関のページもどうぞ。

出典:預金・貸出金・預貸率・自己資本比率・不良債権比率・中小企業等向け貸出先件数=金融庁「中小・地域金融機関情報一覧」令和7年3月末(預貸率は貸出金÷預金で算出)。
紀陽銀行の大阪府進出および貸出金の地域別構成(大阪府が約54%、和歌山県が約36%)、大阪府南部でのメインバンク比率に関する記述=各種公開情報にもとづく。
和歌山県の産業(みかん・梅などの果樹農業、鉄鋼・石油・化学を中心とする基礎素材型工業)に関する記述=和歌山県等の公開情報。

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