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いちい信用金庫——繊維のまち一宮の信金は、なぜ預金の4割しか貸さないのか

預貸率40.1%、預金1兆1,313億円、自己資本比率12.87%、不良債権比率5.37%。一宮市に本店を置くいちい信用金庫。繊維のまち・一宮に根ざす大型信金が、なぜ預金の4割しか貸さないのか。同じ一宮の信金と比べながら、その数字と歴史を読む。

ニホン銀行紀行 ・ 愛知県

愛知県の一宮市に本店を置くいちい信用金庫は、預金1兆1,313億円を持つ信用金庫だ。店舗46。一宮市を中心に、尾張西部から岐阜県の一部までを地盤としている。預金1兆円を超える、愛知県内でも大型の信金だ。

本拠の一宮市は、古くから織物の集散地として栄えた、尾州(びしゅう)と呼ばれる繊維産業の中心地だ。ウール(毛織物)の一大産地として知られ、機屋(はたや)や紡績、染色、整理加工といった繊維関連の事業者が層をなしてきた。いまは繊維産業の縮小とともに姿を変えつつあるが、繊維のまちとしての色合いはなお濃い。いちい信用金庫は、こうした繊維のまち・一宮に根ざしてきた信金だ。

この信金の数字で目を引くのは、預貸率40.1%という低さと、不良債権比率5.37%というやや高めの数字だ。預金の4割ほどしか貸出に回さない一方、焦げ付きはやや高い。なぜ、繊維のまちの大型信金は、こうした数字になるのか。同じ一宮を地盤とする信金とも比べながら、数字を読みにいく。

数字を並べてみる

まず、絶対値から。いちい信用金庫の預金は1兆1,313億円、貸出金は4,533億円。預貸率は40.1%で、預金の4割ほどを貸出に回している。自己資本比率は12.87%、不良債権比率は5.37%。店舗数は46、中小企業等への貸出残高は3,326億円。

同じ一宮市に本店を置く尾西信用金庫(預貸率50.4%・不良債権比率1.68%)と比べると、いちい信用金庫のほうが、貸出を抑えめにする一方、焦げ付きは高い。いちい信用金庫の預貸率40.1%は尾西信用金庫(50.4%)を下回り、より貸出を絞っている。不良債権比率はいちい信用金庫(5.37%)が尾西信用金庫(1.68%)を大きく上回る。同じ繊維のまち・一宮を地盤とする二つの信金でも、貸出と焦げ付きの数字は対照的だ。繊維産業の縮小という構造変化のなかで、いちい信用金庫は過去に貸した先の焦げ付きを一定程度抱え、そのぶん新規の貸出には慎重になっていると読める。

一宮市を地盤とする二つの信用金庫(令和7年3月末)
 いちい信用金庫尾西信用金庫
本店一宮市一宮市
預金1兆1,313億円5,194億円
預貸率40.1%50.4%
自己資本比率12.87%9.84%
不良債権比率5.37%1.68%

ともに繊維のまち・一宮に本店を置く二つの信金。いちい信用金庫は貸出を抑えめにし、焦げ付きはやや高い。同じ土地でも信金ごとに数字が対照的なことが表れている。

繊維のまち・一宮とともに——いちい信用金庫の歩み

いちい信用金庫は、尾州の繊維産業を中心とする中小・零細事業者の相互扶助の金融機関として育ってきた。一宮の機屋、紡績・染色・整理加工の事業者、繊維問屋、そして住民——こうした人々が会員となり、預金を預け、必要なときに資金を借りる。いちい信用金庫は、合併を経て、尾張西部に広く根ざす大型信金へと成長してきた。その歩みは、尾州の繊維産業の盛衰とともにあった。

一宮という土地は、信用金庫にとって、繊維産業とともに歩んできた地盤だ。かつてウールの一大産地として栄えた尾州は、機屋や紡績が層をなし、信用金庫が貸す相手に事欠かなかった。だが、繊維産業は安価な海外製品との競争や需要の変化のなかで縮小し、廃業や転業が相次いだ。かつての主要な貸出先だった繊維産業が縮小し、新たな貸出先がそれを埋めきれない——この構図が、預貸率40.1%という低さの背景にあると読める。集めた預金のうち貸出に回りきらない分は運用などに向かい、自己資本比率12.87%という厚みにつながっている。一方、繊維産業の縮小のなかで過去に貸した先の一部が焦げ付き、不良債権比率5.37%という数字に映っていると読める。

40.1%を、繊維のまちから読む

いちい信用金庫の預貸率40.1%という低さは、かつて繁栄した尾州の繊維産業が縮小し、その後の貸出先を十分に得られないでいることの表れだと読める。ウールの一大産地として栄えた一宮は、繊維産業が信用金庫の主要な貸出先だった。だが、産業の縮小とともに貸出先が細り、預金は集まるが貸し切れない構図になっている。いちい信用金庫は、預金の4割ほどを地元に貸し、残りを運用などに向けて、自己資本比率12.87%という厚みを保っている。

不良債権比率5.37%というやや高めの数字は、繊維産業の縮小という構造変化のなかで、過去に貸した先の浮き沈みを引き受けてきたことを映す。繊維のまちの盛衰とともに歩み、貸出を抑えめにしながら、焦げ付きを抱えつつ厚い資本で支える——それが、いちい信用金庫の数字に表れた生き方だと読める。産業構造の変化に直面する地方都市の信金の、一つのかたちがここにある。預貸率という数字をどう読むかについては、預貸率の読み方もあわせてどうぞ。

愛知の経済とともに

いちい信用金庫の数字は、繊維のまち・一宮という土地と、そこで繊維産業の盛衰とともに歩んできた大型信金の歴史の、両方を映している。かつてウールの一大産地として栄えた尾州で会員に貸し、産業の縮小のなかで貸出を抑えめにし、焦げ付きを抱えながら厚い資本を保ってきた。尾州の繊維産業の歩みが、40.1%という低い預貸率と、5.37%という焦げ付きに表れている。

銀行や信用金庫の数字は、その土地の経済と、その金融機関の生き方を映す鏡だ。いちい信用金庫を見れば、繊維のまち・一宮の経済と、産業の盛衰とともに歩んできた大型信金の姿が浮かぶ。愛知県の他の金融機関は、同じ一宮の尾西信用金庫、岡崎の岡崎信用金庫、瀬戸の瀬戸信用金庫もあわせてどうぞ。預貸率という数字の読み方については、預貸率の読み方へ。愛知県の他の金融機関と並べて眺めたい方は、愛知県の地域金融機関のページへ。

預貸率とは 預貸率(よたいりつ)とは、金融機関の貸出金残高を預金残高で割った比率。預かった資金のうち、どれだけを貸出に回しているかを示す。かつて栄えた地場産業が縮小した土地では、その産業が主要な貸出先だった信用金庫は、産業の衰退とともに貸出先を失い、預金は集まるが貸し切れず、預貸率が低くなることがある。不良債権比率とあわせて見ることで、その土地の産業構造の変化が見えてくる。 → くわしくは「預貸率の読み方

執筆・監修:燧徹史(¥Today 編集責任者)

出典:預金・貸出金・預貸率・自己資本比率・不良債権比率・中小企業等向け貸出残高・店舗数=金融庁「中小・地域金融機関情報一覧」令和7年3月末(信用金庫の計数は百万円単位を億円に換算。預貸率は貸出金÷預金で算出)。尾西信用金庫の数値も同出典。
沿革・地域(一宮市に本店を置き、尾張西部から岐阜県の一部を地盤とする信用金庫であること、合併を経て尾張西部に広く根ざす大型信金になったこと、同じ一宮市に尾西信用金庫も本店を置くこと、一宮が尾州と呼ばれる繊維産業の中心地で古くから織物の集散地として栄え、ウール(毛織物)の一大産地として機屋・紡績・染色・整理加工の事業者が層をなしてきたこと、繊維産業が縮小しつつあること)に関する記述=いちい信用金庫および各種公開情報にもとづく。
一宮・尾州の地理・経済(一宮、尾州、尾張、繊維、織物、ウール、毛織物、機屋、紡績)に関する記述=各種公開情報。

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