丸八信用組合——名古屋市職員のための信組は、なぜ預金の2割しか貸さないのか
預貸率20.5%、預金309億円、自己資本比率18.31%、不良債権比率0.25%。名古屋市役所内に本店を置く丸八信用組合。名古屋市職員と関係団体職員だけを対象とする職域信組が、なぜ預金の2割しか貸さないのか。同じ職域信組と比べながら、その数字と歴史を読む。
愛知県の名古屋市に本店を置く丸八信用組合は、預金309億円を持つ信用組合だ。店舗1。本店は名古屋市役所の庁舎内にあり、名古屋市の職員と関係団体の職員を組合員とする職域信用組合だ。地域ではなく、特定の勤め先で働く人々に根ざしている点が、地域信組とは大きく異なる。
組合名の「丸八」は、名古屋市の市章に由来する。市役所本庁舎に営業窓口を置き、名古屋市の職員という明確な枠のなかで金融サービスを担ってきた。地域経済そのものではなく、市役所という職場のコミュニティが、この信組の地盤だ。丸八信用組合は、こうした名古屋市職員の相互扶助の場として歩んできた信用組合だ。
この信組の数字で目を引くのは、預貸率20.5%という際立った低さと、不良債権比率0.25%というほとんど焦げ付かない健全さだ。預金の2割ほどしか貸出に回さず、貸し倒れもほとんどない。自己資本比率18.31%は厚い水準だ。なぜ、市職員の信組は、こうした数字になるのか。同じ職域の信組とも比べながら、数字を読みにいく。
数字を並べてみる
まず、絶対値から。丸八信用組合の預金は309億円、貸出金は63億円。預貸率は20.5%で、預金の2割ほどを貸出に回している。自己資本比率は18.31%、不良債権比率は0.25%。店舗数は1、中小企業等への貸出残高は63億円。
同じ職域信組で、富山県の医師だけを対象とする富山県医師信用組合(預貸率21.7%・自己資本比率23.14%)と比べると、両者はよく似た数字を示す。丸八信用組合の預貸率20.5%は富山県医師信用組合(21.7%)とほぼ並び、どちらも預金の2割ほどしか貸出に回していない。職域という限られた枠のなかで、組合員の給与天引きの預金が集まりやすく、消費性の貸出が中心になる——この構造が、職域信組に共通する低い預貸率を生んでいる。一方、地域に根ざす東春信用金庫(預貸率48.5%)のような地域金融機関とは、貸し方が大きく異なる。
| 丸八信用組合 | 富山県医師信用組合 | |
|---|---|---|
| 対象 | 名古屋市職員 | 富山県の医師 |
| 預金 | 309億円 | 356億円 |
| 預貸率 | 20.5% | 21.7% |
| 自己資本比率 | 18.31% | 23.14% |
| 不良債権比率 | 0.25% | — |
ともに特定の職域を対象とする信用組合。地域ではなく勤め先のコミュニティに根ざし、預金の2割ほどしか貸出に回さない点が共通する。
名古屋市職員とともに——丸八信用組合の歩み
丸八信用組合は、1926年(大正15年)10月、名古屋市職員の相互扶助と組合員の健全な経済的発展を目的として、産業組合法による「有限責任丸八信用組合」として設立された。創立時の組合員は569人だったと伝えられる。法律の改正に伴い「丸八信用購買組合」などと名を変え、戦後の1949年(昭和24年)に現在の「丸八信用組合」となった。1934年(昭和9年)には現在の名古屋市庁舎の完成に伴い事務所を移転し、以来、市役所とともに歩んできた。2026年(令和8年)に創立100周年を迎える。
職域信用組合という土地は、地域信組とは性格が大きく異なる。組合員は名古屋市の職員に限られ、給与天引きによる預金や定期積金が安定して集まる一方、貸出は住宅や暮らしのための消費性のものが中心となる。事業性の資金需要は乏しい。安定した預金が集まる一方、貸す先が限られる——この職域ならではの構造が、預貸率20.5%という際立った低さと、預金の多くを運用に回す姿を生んでいる。不良債権比率0.25%というほとんど焦げ付かない健全さは、給与所得の安定した組合員に貸していることの表れだと読める。自己資本比率18.31%という厚い資本も、堅実な経営の積み重ねを映している。
20.5%を、市役所から読む
丸八信用組合の預貸率20.5%という水準は、名古屋市職員という安定した職域で、預金は集まるが事業性の貸し先が乏しいことの表れだと読める。給与天引きの預金や定期積金が安定して積み上がる一方、貸出は組合員の住宅や暮らしのための消費性が中心で、おのずと限られる。丸八信用組合は、その枠のなかで組合員に着実に貸しつつ、預金の多くを運用に向けている。
不良債権比率0.25%という際立った健全さは、給与所得の安定した組合員に貸していることの裏返しだ。自己資本比率18.31%という厚い資本とあわせて、職域信組ならではの堅実な姿が浮かぶ。市役所という職場のコミュニティに根ざし、組合員の暮らしを支える——それが、丸八信用組合の数字に表れた生き方だと読める。預貸率という数字をどう読むかについては、預貸率の読み方もあわせてどうぞ。
愛知の経済とともに
丸八信用組合の数字は、名古屋市職員という職域と、そこで100年近く組合員を支えてきた信組の歩みの、両方を映している。預金の2割ほどを組合員に貸し、残りを運用に向け、厚い資本と低い焦げ付きを保ちながら、市職員の暮らしを支えてきた。地域経済ではなく、市役所という職場のコミュニティの安定が、20.5%という預貸率に表れている。
銀行や信用組合の数字は、その土地や職域の事情と、その金融機関の生き方を映す鏡だ。丸八信用組合を見れば、職域信組という独特の金融機関の姿が浮かぶ。愛知県の他の金融機関は、尾張北部の東春信用金庫、知多半島の知多信用金庫もあわせてどうぞ。職域信組の例としては、東京の警視庁職員信用組合もどうぞ。預貸率という数字の読み方については、預貸率の読み方へ。愛知県の他の金融機関と並べて眺めたい方は、愛知県の地域金融機関のページへ。
丸八信用組合は、預金の多くを運用に向ける職域信用組合です。借りる側も預ける側も、土台になるのは日頃の取引と信用。口座づくりから与信の考え方まで、知っておきたい銀行取引の基礎をまとめました。
執筆・監修:燧徹史(¥Today 編集責任者)
出典:預金・貸出金・預貸率・自己資本比率・不良債権比率・中小企業等向け貸出残高・店舗数=金融庁「中小・地域金融機関情報一覧」令和7年3月末(信用組合の計数は百万円単位を億円に換算。預貸率は貸出金÷預金で算出)。富山県医師信用組合の数値も同出典。
沿革(1926年(大正15年)10月に名古屋市職員の相互扶助と組合員の健全な経済的発展を目的として産業組合法による「有限責任丸八信用組合」として設立されたこと、創立時の組合員が569人と伝えられること、法改正に伴い名称を変えながら戦後の1949年(昭和24年)に現在の「丸八信用組合」となったこと、1934年(昭和9年)に名古屋市庁舎の完成に伴い事務所を移転したこと、本店を名古屋市役所庁舎内に置き名古屋市職員と関係団体職員を組合員とする職域信用組合であること、組合名の「丸八」が名古屋市の市章に由来すること、2026年に創立100周年を迎えること)=丸八信用組合および各種公開情報にもとづく。
名古屋・市職員に関する記述(名古屋市、市役所、市章、職域、給与天引き)=各種公開情報。
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