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東北銀行——統合を一度白紙に戻した「とうぎん」は、岩手で何に貸すか

預貸率75.8%、店舗57。盛岡市に本店を置く東北銀行。「岩手県の中小商工業者のための銀行」を掲げ、一度合意した経営統合を白紙に戻して自主独立を守った地方銀行。その数字と歴史を読む。

ニホン銀行紀行 ・ 岩手県

岩手県の県都・盛岡市の中心部に、東北銀行の本店はある。「東北」という大きな名を冠しているが、その地盤は岩手県にほぼ絞られている。岩手県には、県トップバンクの岩手銀行があり、東北銀行はそれに次ぐ立場で、県の金融を支えてきた。地元では「とうぎん」と呼ばれる。

岩手県は、本州で最も広い県土を持つ。北上川の流れる内陸の平野に農業と工業が集まり、太平洋に面した三陸海岸では漁業が営まれる。広い県土に人々の暮らしが点在するこの土地で、東北銀行は中小の事業者に寄り添う銀行として歩んできた。近年では、北上川流域に半導体関連の工場が集まり、内陸の工業が活気づいている。

この銀行が掲げてきたのは、はっきりとした一つの旗だ。「岩手県の中小商工業者のための銀行」。地元の小さな事業者のために貸す——その地元密着の姿勢が、近年、ある大きな決断につながった。一度は合意した他行との経営統合を、白紙に戻したのだ。なぜ統合をやめたのか。その選択を、数字とともに読みにいく。

数字を並べてみる

まず、絶対値から。東北銀行の預金は9,217億円、貸出金は6,982億円。預貸率は75.8%で、預金の7割台半ばを貸出に回している。自己資本比率は8.99%、不良債権比率は2.83%。店舗数は57、中小企業等への貸出残高は4,849億円にのぼる。

規模としては、同じ岩手県の県トップ・岩手銀行に次ぐ。預貸率75.8%は、県トップの岩手銀行(68.9%)を上回る。規模では及ばずとも、貸出には積極的——「中小商工業者のための銀行」を掲げる第二の地銀として、地元によく貸そうとする姿勢が、この数字にはっきり表れている。一方、不良債権比率2.83%はやや高め。中小に深く関わる銀行ならではの数字だと読める。

岩手県内の二つの地方銀行(令和7年3月末)
 東北銀行岩手銀行
種別地方銀行地方銀行
預金9,217億円32,022億円
貸出金6,982億円22,066億円
預貸率75.8%68.9%
自己資本比率8.99%11.09%

県を代表するのは岩手銀行。預金量では3倍以上の差があるが、預貸率では東北銀行のほうが高い。規模に頼れない第二の地銀が、中小に深く貸して存在感を示す構図だ。同じ盛岡には第二地銀の北日本銀行もある。

戦後に生まれた——「中小商工業者のための銀行」

東北銀行が設立されたのは、戦後まもない1950年(昭和25年)のことだ。多くの地方銀行が戦前からの長い歴史を持つなかで、東北銀行は戦後生まれの、比較的新しい地方銀行である。盛岡市に本店を置き、岩手県を地盤として、県内の事業者に貸すことを使命としてきた。

この銀行の性格を一言で表すのが、「岩手県の中小商工業者のための銀行」という旗印だ。県トップの岩手銀行が県全体を広く覆うのに対し、東北銀行は、地元の小さな商店や工場、中小企業に密着して貸すことを、自らの役割と定めてきた。預貸率の高さも、その姿勢の表れである。東日本大震災のあと、2012年には公的資金の注入を受け、被災地の事業者の再建を支えた。

統合を、白紙に戻す——自主独立を守った決断

東北銀行の近年で、最も大きな出来事が、経営統合の合意と、その白紙撤回だ。人口減と地域経済の縮小が続くなか、東北銀行も、単独での生き残りの難しさと向き合っていた。公的資金の返済という課題もあった。そこで、かねて業務提携の関係にあった荘内銀行を傘下に持つフィデアホールディングスとの経営統合を模索し、いったんは基本合意に至った。フィデアは、秋田の北都銀行と山形の荘内銀行を束ねる、東北の有力な金融グループである。

ところが、基本合意のあとの協議で、東北銀行は統合を見送る判断を下した。持株会社が主導してグループ全体を一つの方針で動かす、フィデアの中央集権的な経営のかたちを目の当たりにし、地元密着という自らの経営の自主性が失われることを危惧したと伝えられる。「岩手県の中小商工業者のための銀行」という旗を守るには、大きなグループの方針に従うよりも、自分たちの判断で地元に貸し続ける道のほうがふさわしい——そう考えたのだろう。こうして、一度はまとまりかけた統合は、白紙に戻された。

規模を求めて大きなグループに入るのか、それとも小さくとも自らの旗を掲げて独立を保つのか。東北銀行は、後者を選んだ。もちろん、単独で生き残るには、人口減という厳しい現実と向き合い続けなければならない。それでも、地元のために貸すという自らの役割を、他者の方針に委ねたくはなかった——その選択が、統合の白紙撤回という形をとった。

75.8%を、独立を守った地銀から読む

東北銀行の預貸率75.8%は、地方銀行のなかでもよく貸す部類に入る。県トップの岩手銀行を上回るこの数字は、「中小商工業者のための銀行」という旗印そのものだと読める。規模では大手に及ばずとも、集めた預金の7割台半ばを、地元の小さな事業者に貸している。半導体に沸く北上川流域の工業など、地元の資金需要を取り込みながら、貸すことで存在感を保ってきた。

そして、その姿勢は、統合を白紙に戻すという決断につながった。大きな資本に身を委ねて規模と効率を得るより、自らの判断で地元に貸し続けることを選んだ。不良債権比率2.83%というやや高めの数字や、8.99%という自己資本比率は、その独立の道が平坦ではないことも示している。それでも、地元密着という旗を自分の手で握り続ける——東北銀行の数字と選択は、規模の論理とは別の価値が地方銀行にはあることを、一つの形で映している。預貸率という数字をどう読むかについては、預貸率の読み方もあわせてどうぞ。

岩手の経済とともに

東北銀行の数字は、本州一広い県土を持つ岩手という土地と、自主独立を守った地方銀行の選択の、両方を映している。戦後、中小商工業者のための銀行として生まれ、震災を越え、一度は統合に合意しながら、自らの旗を守るためにそれを白紙に戻した。規模ではなく、地元への密着を選んだその歩みは、いまの地方銀行が直面する選択の、もう一つの答えを示している。

銀行の数字は、その土地の経済と、その銀行が選んだ生き方を映す鏡だ。東北銀行を見れば、広い県土の岩手と、独立を守って地元に貸し続ける地方銀行の姿が浮かぶ。同じ岩手県の県トップの姿は、岩手銀行の記事や、同じ盛岡の第二地銀・北日本銀行の記事もあわせてどうぞ。預貸率という数字の読み方については、預貸率の読み方へ。岩手県の他の金融機関と並べて眺めたい方は、岩手県の地域金融機関のページへ。

預貸率とは 預貸率(よたいりつ)とは、金融機関の貸出金残高を預金残高で割った比率。預かった資金のうち、どれだけを貸出に回しているかを示す。預貸率が低い金融機関は、相対的に融資先を求めている可能性をうかがう一つの目安になる。ただし、有価証券運用を主体とする金融機関は、預貸率が低くても融資に積極的とは限らない。 → くわしくは「預貸率の読み方

執筆・監修:燧徹史(¥Today 編集責任者)

出典:預金・貸出金・預貸率・自己資本比率・不良債権比率・中小企業等向け貸出残高・店舗数=金融庁「中小・地域金融機関情報一覧」令和7年3月末(預貸率は貸出金÷預金で算出)。岩手銀行の数値も同出典。
沿革(1950年の設立、盛岡市に本店を置く岩手県地盤の地方銀行であること、「岩手県の中小商工業者のための銀行」を掲げ中小密着の経営を続けてきたこと、東日本大震災後の2012年に公的資金の注入を受けたこと)に関する記述=東北銀行および各種公開情報にもとづく。
フィデアホールディングスとの経営統合の基本合意と、その後の協議における白紙撤回(フィデアの中央集権的な経営方針のもとで経営の自主性が失われることを危惧したと伝えられること)に関する記述=各種報道にもとづく。
岩手県の地理・産業(本州一広い県土、北上川流域の工業と半導体関連産業、三陸の漁業)に関する記述=各種公開情報。

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