伊予銀行——船に貸す銀行は、なぜ預金の9割を貸せるのか
預貸率90.2%。預かった預金のほとんどを貸出に回し、しかも焦げ付きは1.5%と低い。全国屈指の優良地銀と呼ばれる伊予銀行の数字を、海運県・愛媛という土地の事情から読み解く。
このシリーズでは以前、高知信用金庫という「預金の9割を貸さない」金融機関を取り上げた。預貸率9.3%。集めた預金のほとんどを有価証券運用に回し、貸出にはあまり向かわない。人口が減る土地で、信用金庫という制度の枠のなかで選ばれた、ひとつの生き方だった。
その同じ四国に、まるで裏返しのような銀行がある。瀬戸内を挟んで愛媛県松山市に本店を置く伊予銀行。預かった預金の、実に9割を貸出に回している。同じ四国でこれほど対照的な数字が並ぶのは、土地の事情が違うからだ。その違いを読みにいく。
預貸率90.2%。これは地方銀行のなかでも高い部類に入る。しかも、よく貸す銀行にありがちな「無理して貸して焦げ付きが増える」という傾向が、伊予銀行には見えない。不良債権比率は1.5%と低く抑えられている。たくさん貸して、それでいて貸し倒れが少ない。これが「優良地銀」と呼ばれる所以である。
数字を並べてみる
まず、絶対値から。伊予銀行の預金は6兆5,170億円、貸出金は5兆8,800億円。自己資本比率は14.19%、不良債権比率は1.5%。店舗数は150。中小企業等への貸出先は約13万8千件にのぼる。愛媛県内にとどまらず、四国の他県、瀬戸内を挟んだ山陽地方、関西、九州北部、首都圏、さらに海外にも拠点を持つ広域地銀である。
持株会社いよぎんホールディングスの2025年3月期の連結当期純利益は約498億円で、前年から138億円あまり増えている。預金規模・利益ともに、地銀のなかで確かな上位に位置する。
同じ松山に本店を置く愛媛銀行(第二地方銀行)と並べると、二行の性格の違いが見えてくる。
| 伊予銀行 | 愛媛銀行 | |
|---|---|---|
| 種別 | 地方銀行 | 第二地方銀行 |
| 預金 | 65,170億円 | 25,477億円 |
| 貸出金 | 58,800億円 | 19,826億円 |
| 預貸率 | 90.2% | 77.8% |
| 自己資本比率 | 14.19% | 8.10% |
| 不良債権比率 | 1.5% | 1.73% |
同じ県都に本店を構える二行だが、規模で伊予銀行が大きく上回る。預貸率も伊予銀行のほうが高く、貸出への積極性がうかがえる。両行を貸す姿勢の対比として読んだのが、特集「愛媛銀行 × 高知信用金庫」である。
船に貸す銀行
伊予銀行の高い預貸率と低い焦げ付きを支えているものは何か。その一つが、愛媛という土地の産業構造にある。
愛媛県は、知られざる海運県だ。瀬戸内海に面した今治市を中心に、日本有数の船主(オーナー)が集まっている。船を保有し、海運会社に貸し出して用船料を得る——この船主業が、愛媛経済の太い柱の一つになっている。今治はまた、造船とタオルのまちとしても名高い。海に向かって開かれた産業が、この県の骨格をなしている。
船は、一隻が数十億円という高額の資産だ。それを建造し、保有し続けるには、巨額かつ長期の資金がいる。ここに地元の銀行が深く関わってきた。伊予銀行は愛媛県の船主の約6割と取引があるとされ、海運分野に強固な顧客基盤を築いている。船という大きな資産に、長期で大きく貸す。これが預貸率を押し上げる一因になっている。
ただし、船への融資は簡単ではない。海運の市況は世界経済に左右されて大きく上下し、船価も運賃も波がある。やみくもに貸せば、市況が崩れたときに焦げ付きが膨らむ。伊予銀行はここで独自の道を選んだ。2006年、他の地銀に先駆けて金融庁の承認を得て、船主業に的を絞った独自の審査体系を整えた。通称「いよぎんモデル」と呼ばれるこの仕組みは、船という特殊な資産のリスクを、地元で長年蓄積してきた知見で見極めるためのものだ。2017年には、船舶関連融資の審査部門を、本店のある松山から、船主の集まる今治へ移している。
ここに、地域金融の一つの型がある。その土地でしか積み上がらない目利きの力を、融資の競争力に変える。船を見る目は、よそから来た銀行には一朝一夕には持てない。地元で長く船主と付き合ってきた銀行だからこそ、リスクを見極めて大きく貸せる。よく貸し、それでいて焦げ付きが少ないという伊予銀行の数字は、この土地に根ざした目利きと無縁ではない。
歴史をさかのぼる
伊予銀行の歴史は古い。源流は1878年、愛媛県で最初の銀行として、西宇和郡川之石浦(現在の八幡浜市)に設立された第二十九国立銀行にさかのぼる。八幡浜の港は、ハゼ漁や銅資源に恵まれ、参勤交代の要衝として栄えた土地だった。海とともにあった港町から、この銀行は始まっている。
その後、昭和の「一県一行主義」の政策のなかで県内の銀行が集約され、1941年に予州銀行・今治商業銀行・松山五十二銀行が合併して伊豫合同銀行が誕生。1951年に現在の伊予銀行へと改称した。2022年には、単独株式移転により持株会社いよぎんホールディングスを設立し、その傘下に入っている。創業から一世紀半近く、愛媛の経済とともに歩んできた銀行である。
「よく貸す」をどう読むか
預貸率が高い銀行は、一見すると借り手に優しそうに思える。だが、ここでも数字を鵜呑みにしないことが大切だ。
預貸率が高いという事実は、その銀行が「貸出に積極的に取り組んでいる」ことの一つの目安にはなる。融資先を求めている度合いを読む手がかりだ。ただし、よく貸す銀行が「誰にでも貸す」わけではない。伊予銀行の焦げ付きの低さは、裏を返せば貸す相手をしっかり見ていることの表れでもある。船への融資が独自審査に支えられているように、貸すからにはリスクを見極める。高い預貸率と低い不良債権比率が両立しているのは、その規律があってのことだ。
預貸率という一つの数字をどう読むかについては、預貸率の読み方で整理しているので、あわせて読んでほしい。低ければ借りやすい、高ければ甘い、という単純な話ではない。なぜその数字になっているのか、土地と銀行の事情まで読みにいくことで、はじめて意味が立ち上がる。
土地が、銀行の顔を決める
高知信用金庫の預貸率9.3%と、伊予銀行の90.2%。同じ四国の、海を挟んだ二つの金融機関のあいだに、これだけの開きがある。どちらが優れているという話ではない。人口減少地域で運用に活路を見いだした金融機関と、海運という太い産業を抱えて貸出を伸ばせる銀行と、土地の事情がそれぞれの数字を形づくっている。
銀行の数字は、その土地の経済を映す鏡だ。愛媛の伊予銀行を見れば、瀬戸内に開かれた海運県の姿が浮かぶ。愛媛県の他の金融機関とあわせて眺めたい方は、愛媛県の地域金融機関のページもどうぞ。
執筆・監修:燧徹史(¥Today 編集責任者)
出典:預金・貸出金・預貸率・自己資本比率・不良債権比率・中小企業等向け貸出先件数・店舗数=金融庁「中小・地域金融機関情報一覧」令和7年3月末。
当期純利益=いよぎんホールディングス2025年3月期決算短信・有価証券報告書(連結)。
沿革(第二十九国立銀行・一県一行主義・伊豫合同銀行・持株会社設立)=いよぎんホールディングス公開情報、各種公開情報。
海運・船主業との取引、独自審査体系「いよぎんモデル」に関する記述=伊予銀行公開情報および報道。
愛媛県の産業(海運・造船・今治)に関する記述=各種公開情報。