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いよぎんHD × 愛媛銀行——意外な合併比率の逆転と、預金10兆円のスケールメリット

愛媛県の二行が一つのグループになる。7月23日の終値で見れば時価総額は10.4対1、圧倒的な差がある。ところが1株当たりの純資産で並べると、上回るのは愛媛銀行のほうだ。伊予銀行が抱える2,930億円の含み資産を洗い出しながら、この逆転の正体と、統合が生む営業上の自由を読む。

ニホン銀行紀行 特集 ・ いよぎんホールディングス(松山市)と愛媛銀行(松山市) ・ 2026年7月24日

2026年7月23日、愛媛県で伊予銀行を傘下に持ついよぎんホールディングス愛媛銀行が、経営統合に向けて最終調整に入っていることが明らかになった。持ち株会社を新設し、その傘下に両行が入る形が検討されている。統合の時期は2027年4月がめどとされ、伊予銀行・愛媛銀行という行名はいずれも維持される方向だという。

実現すれば、預金量はあわせて約10兆円、連結総資産は12兆6,000億円規模に達する。四国最大であるだけでなく、全国の地銀グループのなかでも上位に食い込む規模になる。

この統合は、数字の上では「大きい方が小さい方を取り込む」構図に見える。実際、7月23日の終値でそれぞれの時価総額を計算すると、いよぎんHDが約1兆180億円、愛媛銀行が約980億円。その差は10.4倍だ。ところが、両行の貸借対照表を開いて1株当たりの純資産を並べると、話が反転する。1株の価値では、愛媛銀行のほうが高い

本稿では、この逆転がなぜ起きるのかを、伊予銀行の含み資産の中身にまで踏み込んで洗い出す。そのうえで、統合が両行にもたらす預金基盤のスケールメリットと、愛媛県という市場に固有の営業上の利点を読む。数値は両社が開示した2026年3月期の決算短信および決算説明資料に拠り、株価は2026年7月23日の終値を用いる。統合比率の算定方法や新会社の体制は今後詰められる段階にあり、以下の比率はあくまで公開情報にもとづく筆者の試算である。

純資産で6.1倍、利益で10.3倍——二行の体格差

まず、二行がどれだけ違うのかを押さえておきたい。2026年3月期の実績は次のとおりである。

いよぎんHD(連結)と愛媛銀行(連結)の主要計数/2026年3月期
項目いよぎんHD愛媛銀行
総資産9兆5,398億円3兆826億円
預金等(銀行単体・末残)7兆2,983億円2兆7,843億円
貸出金(銀行単体・末残)6兆1,644億円2兆0,207億円
純資産8,778億円1,444億円
当期純利益742億円72億円
自己資本比率15.53%(国際基準)8.69%(国内基準)
ROE8.8%5.2%
店舗数111

いよぎんHDの自己資本比率は国際統一基準(バーゼルIII)、愛媛銀行は国内基準によるもので、算出根拠が異なるため単純比較はできない。ROEは各社開示ベース。

総資産で3.1倍、純資産で6.1倍。そして当期純利益では10.3倍の開きがある。資産規模の差より、利益の差のほうが大きく開いている点が目を引く。愛媛銀行の当期純利益72億円は前年比26.2%増と好調だが、いよぎんHDの742億円は同39.3%増で過去最高益である。

この利益差はどこから来るのか。伊予銀行単体のコア業務純益は641億円で前年から265億円増えた。貸出金の増加と利鞘の改善、外貨調達コストの低減に加えて、政策保有株式と純投資株式の売却益が大きく寄与している。株式等関係損益は284億円。これは愛媛銀行の当期純利益の4倍近い額を、株の売却だけで稼いだことを意味する。

ここに、二行の性格の違いが表れている。愛媛銀行は貸出で稼ぐ銀行だ。本紀行では以前、愛媛銀行と高知信用金庫を対比した特集で、愛媛銀行を「預金の8割近くを貸しに回す、貸す動機の強い銀行」として描いた。無尽を源流とし「思いやり」「相互扶助」を掲げてきた歴史が、その姿勢の背景にある。一方の伊予銀行は、船に貸す銀行として海運・船主業への独自審査で知られると同時に、有価証券運用でも成果を上げてきた。日本経済新聞は伊予銀行を「運用巧者」と評している。

貸出で稼ぐ銀行と、貸出に加えて運用でも稼ぐ銀行。この違いが、次章で見る含み資産の非対称を生んでいる。

伊予銀行の驚異的な含み資産——2,930億円の中身を洗い出す

いよぎんHDの決算説明資料には、有価証券評価益について「地銀トップクラスの水準」という自己評価が記されている。2026年3月末の連結ベースで、その他有価証券の評価損益は2,930億円。前年度末の2,629億円から301億円増えた。

この2,930億円という数字が、どれほどの規模かを掴んでおきたい。愛媛銀行の純資産(1,444億円)の、およそ2倍にあたる。統合相手の自己資本を丸ごと二つ分、含み益として抱えている計算になる。

その他有価証券の評価損益・内訳/2026年3月末
区分いよぎんHD(連結)愛媛銀行(単体)
株式+2,877億円+226億円
債券△142億円△144億円
その他+195億円△116億円
合計+2,930億円△34億円
うちBS計上済(税引後)1,956億円△16億円

いよぎんHDは連結、愛媛銀行は単体の開示値。「BS計上済」はその他有価証券評価差額金として貸借対照表の純資産に反映されている額。愛媛銀行の評価損益合計は前期の△56億円から改善している。

洗い出してみると、含み益の正体はほぼ株式だと分かる。伊予銀行の株式含み益2,877億円が、評価益全体の98%を占めている。債券は円金利の上昇を受けて142億円の評価損を抱えているが、株式の益がそれを大きく飲み込んでいる。

対する愛媛銀行は、合計で34億円の評価損である。株式では226億円の含み益を持つものの、債券で144億円、その他(外国証券や投資信託等とみられる)で116億円の評価損を抱え、差し引きでマイナスに沈んでいる。同じ愛媛県の二行で、含み資産の質がここまで違う。

ただし、ここで慎重に見ておくべき点がある。この2,930億円は「簿外に隠れた資産」ではない。その他有価証券は時価評価され、評価差額は税引後で純資産に直入されている。すなわち2,930億円のうち税引後の1,956億円は、すでにいよぎんHDの貸借対照表の純資産8,778億円のなかに含まれている。

含み益は、隠れているのではなくすでに1株純資産に織り込まれている。にもかかわらず1株純資産で愛媛銀行が上回るという事実は、伊予銀行の含み益の大きさが、株式数の多さによって1株あたりでは薄まっていることを示している。次章の比率逆転は、ここから生まれる。

もっとも、含み益が純資産に織り込み済みであることは、その価値を減じるものではない。株式含み益2,877億円は、売却すれば利益として実現できる原資であり、実際に伊予銀行は今期その一部を売って過去最高益を計上した。自己資本比率15.53%という厚みも、この含み益に支えられている。統合後のグループにとって、これは相当な体力になるはずだ。

意外な合併比率の逆転——終値0.71株、フェアバリュー1.19株

ここからが本稿の核心である。二行の1株当たりの価値を、三つのものさしで並べてみる。

1株当たり価値と株価指標/株価は2026年7月23日終値
項目いよぎんHD愛媛銀行
7月23日終値3,533円2,508円
発行済株式数(自己株控除後)2億8,813万株3,907万株
時価総額約1兆180億円約980億円
1株当たり純資産(BPS)3,046円3,689円
1株当たり当期純利益(EPS)253.96円184.62円
PBR1.16倍0.68倍
PER13.9倍13.6倍
フェアバリュー(含み損益洗い出し後)3,079円3,670円

フェアバリューは、その他有価証券の評価損益を税率30%で税引後に換算し、すでに貸借対照表に計上済みの評価差額金との差額を自己資本に加減して1株当たりに割り戻した筆者の試算。実効税率は各社・各期で異なるため、あくまで概算である。

時価総額では10.4対1。ところが1株当たり純資産では、いよぎんHDの3,046円に対し愛媛銀行は3,689円で、愛媛銀行が1.21倍上回る。含み損益を洗い出したフェアバリューで見ても、3,079円対3,670円で、やはり愛媛銀行が1.19倍上回る。

この結果から、株式交換の比率を機械的に試算すると次のようになる。

合併比率の試算(愛媛銀行1株に対して割り当てられるいよぎんHD株数)
算定基準愛媛銀行1株あたり逆に見ると
7月23日終値ベース0.710株1 : 1.409
簿価純資産(BPS)ベース1.211株1 : 0.826
フェアバリュー(含み資産洗い出し)ベース1.192株1 : 0.839

いずれも公開情報にもとづく筆者の試算であり、実際の統合比率は第三者算定機関の評価等を経て決定される。両行はまだ比率を公表していない。

市場価格で測れば愛媛銀行1株はいよぎんHD0.71株分だが、純資産で測れば1.21株分になる。ものさしを替えると、比率が逆転する。しかも終値ベースとフェアバリューベースでは、1.7倍もの開きが生じる。

なぜこうなるのか。答えは株式数にある。愛媛銀行の発行済株式は3,907万株にすぎないのに対し、いよぎんHDは2億8,813万株と、7.4倍の株を発行している。純資産の総額では6.1倍の差があるが、それを7.4倍の株数で割るため、1株当たりでは逆転が起きる。伊予銀行の巨大な含み益も、株数で薄まってしまうわけだ。

もう一つ、見逃せない数字がある。PBRである。いよぎんHDが1.16倍なのに対し、愛媛銀行は0.68倍。市場は愛媛銀行を、解散価値の7割以下でしか評価していない。一方でPERを見ると、いよぎんHD13.9倍、愛媛銀行13.6倍とほぼ並ぶ。

PBRで大差がつき、PERで差がつかない。これは、市場が両行を「持っている資産の量」ではなく「その資産がどれだけ稼ぐか」で評価していることを示している。ROEはいよぎんHD8.8%、愛媛銀行5.2%。純資産1円あたりの稼ぐ力の差が、そのままPBRの差になっていると読める。

ここからは筆者の見立てになるが、統合比率の交渉においては、この乖離が焦点の一つになる可能性がある。市場価格を基準にすれば愛媛銀行の株主に不利に、純資産を基準にすれば有利に働く。実務では市場株価法・類似会社比較法・DCF法などを併用して算定されるのが通例で、単一の指標で決まるものではない。ただ、純資産ベースで愛媛銀行が上回るという事実は、交渉の材料として無視できないはずだ。

預金10兆円のスケールメリットと、地銀ランキングの書き換え

統合の実利は、まず預金基盤の規模に現れる。

統合後の規模(2026年3月末・単純合算)
項目伊予銀行愛媛銀行合計
預金等7兆2,983億円2兆7,843億円約10兆円
貸出金6兆1,644億円2兆0,207億円約8.2兆円
連結総資産9兆5,398億円3兆826億円約12.6兆円

預金等・貸出金は銀行単体の末残、総資産は連結。統合後の実際の計数は連結調整等により変動する。

預金量10兆円という規模は、地方銀行のなかでどのあたりに位置するのか。本紀行でこれまで訪ねてきた地銀と並べると、その位置が見えてくる。預金18.6兆円の横浜銀行、16.3兆円の千葉銀行、13.9兆円の福岡銀行、12.0兆円の静岡銀行。このあたりが上位陣である。伊予銀行は単体で7.3兆円、全国の地銀のなかで中位からやや上に位置していたが、愛媛銀行と合わせれば10兆円を超え、上位グループの一角に入る。報道では、連結総資産ベースで国内20位以内の地銀グループが誕生するとされている。

規模が大きくなることの利点は、単に順位が上がることではない。銀行にとって預金は、貸出の原資であると同時に、調達コストのかかる負債でもある。日本銀行の利上げを背景に、いま地域金融の現場では預金獲得競争が激化している。金利が上がれば、預金を集めるために支払う利息も増える。実際、愛媛銀行の預金利息は前年の58億円から94億円へと1.6倍に膨らんだ。伊予銀行も預金利息が155億円から233億円へ増えている。

同じ県内で二行が預金を奪い合えば、金利の上乗せ競争になり、双方の調達コストが上がる。統合してグループになれば、この消耗戦を内側で止められる。県内で競合していた二行が一つの傘に入ることの最大の経済効果は、この預金獲得競争の終息にあると読める。

加えて、システム・事務・本部機能の重複も解消できる。両行は行名を維持したまま持ち株会社の傘下に入る形が検討されており、店舗網や顧客基盤はそれぞれ残る見通しだが、勘定系システムの統合や本部の共通化が進めば、コストは相当削減できるはずだ。いよぎんHDは基幹系システムの高度化をめぐる計画変更で60億円の和解金を特別利益に計上しており、システム投資の重さは同社自身がよく知るところだろう。

優良企業をめぐる金利競争が、消える

スケールメリットは預金だけの話ではない。愛媛という市場の産業構造を踏まえると、貸出の側にも、統合でしか得られない利点が見えてくる。

愛媛県の産業には、際立った特徴がある。その分野で県内に一社しかない、あるいは数社しかない大手企業が、いくつも存在することだ。

今治を中心とする海運・造船がその筆頭である。今治は日本最大の造船集積地であり、船主業(オーナー)の集まる街としても知られる。伊予銀行が船舶融資に強いのは、この地盤があってこそだ。日本経済新聞は今回の統合について、両行が注力する船舶融資などを強化する狙いがあると報じている。愛媛銀行もまた、無尽の時代から船舶融資に取り組んできた歴史を持つ。

四国中央市の製紙も同様である。同市は紙・パルプの出荷額で全国有数の規模を誇り、大王製紙をはじめとする大手が集まる。本紀行で愛媛銀行を訪ねた際にも、大王製紙との長い取引の逸話に触れた。ほかにも柑橘、タオル、化学など、県を代表する産業がそれぞれ特定の企業に集約されている。

こうした市場で何が起きるか。ここからは筆者の見立てを含むが、貸し手が二行しかいない相手に対しては、金利競争が起きやすい。そしてそれは、造船や製紙といった特定の業種に限った話ではない。財務が健全で、担保も保証も十分で、返済の見通しが立つ——いわゆる優良企業は、業種を問わず貸し手にとって奪い合う相手になる。県内トップの伊予銀行と二番手の愛媛銀行が、同じ優良先に融資を提案すれば、条件で競り合うことになる。借り手にとっては有利だが、貸し手の収益は削られる。

銀行の融資が、優良企業に集中する構造そのものは、地域を問わず見られる。本紀行でも繰り返し触れてきたとおり、貸せる相手が限られる土地では、その少数の相手をめぐる競争が激しくなる。愛媛県のように、県を代表する企業が業種ごとに数社へ集約されている市場では、その傾向がなおさら強く出る。

統合すれば、この構図が変わる。同一グループ内での金利競争は、事実上なくなる。県内の大口取引先をめぐる条件競争が消えることは、そのまま利鞘の改善につながりうる。預金側で調達コストの競争が止まり、貸出側で金利競争が止まる。統合の収益効果は、この両側から現れると読める。

さらに、与信の面でも利点がある。造船や海運は、市況の波が大きい業種だ。船価や用船料の変動、為替、環境規制の動向によって、業績は上下する。一行で大口の船舶融資を抱えるには、リスクの集中が課題になる。グループとして資本が厚くなれば、より大きな案件を、より安定して支えられる。伊予銀行の自己資本15.53%という厚みと、愛媛銀行の地元密着の審査ノウハウが噛み合えば、県内の基幹産業に対する供給力は上がるはずだ。

もっとも、県内シェアが高くなることには、別の論点もついてまわる。地方銀行の統合では、独占禁止法上の審査が焦点になってきた。長崎県では十八銀行と親和銀行の統合が公正取引委員会の長い審査を経て2020年に実現し、十八親和銀行となった。青森県では2025年、独占禁止法の特例法が適用された全国初の事例として青森みちのく銀行が誕生している。今回も、県内シェアや借り手への影響が論点になる可能性がある。借り手の立場からすれば、選択肢が減ることは金利交渉力の低下を意味しうるからだ。

ただし、今回は両行が合併するのではなく、行名を維持したまま持ち株会社の傘下に入る形が検討されている。二つの銀行として営業を続けるのであれば、店舗網も担当者も当面は残る。借り手にとっての窓口の数がすぐに減るわけではない。

二重帳簿は、統合で露見する——散発的な倒産という副作用

統合には、収益面の利点とは別に、地域経済へじわりと波及しうる副作用がある。ここからは筆者の推論を多く含むが、実務上の見通しとして述べておきたい。

複数の銀行と取引する企業のなかには、提出先ごとに内容の異なる決算書を出している先が、一定の割合で存在すると考えられる。融資を引き出したい銀行には利益を厚めに見せ、別の銀行には保守的な数字を出す。あるいは、A行には見せていない借入をB行の決算書には載せている。粉飾とまで呼ぶべき水準のものから、税務申告と銀行提出用で調整の度合いが違うといった程度のものまで、実態には幅がある。

こうした二重帳簿が成立するのは、銀行どうしが取引先の財務情報を突き合わせないからである。同じ県内で競合する二行であればなおさら、互いの与信情報は共有されない。信用情報機関を通じて借入残高の一部は把握できても、決算書そのものを照合する仕組みはない。だから、同じ会社の別々の顔が、別々の銀行の審査部に並存しうる。

統合は、この前提を崩す。持ち株会社の傘下で与信管理やシステムが共通化されれば、これまで別々の審査部に置かれていた同一企業の決算書が、同じテーブルの上に並ぶ。二つの数字が食い違っていれば、それは発見される。

発見された先がどうなるかは、乖離の程度による。誤差の範囲であれば、実態に即した数字への修正を求められて終わるだろう。だが、乖離が大きく、実質的な債務超過が判明した場合には、追加融資が止まり、既存の借入についても条件の見直しが入る可能性がある。運転資金を借入の更新で回してきた企業にとって、それは資金繰りの行き詰まりに直結する。

そのため、統合後のしばらくの期間に、愛媛県内で中小企業の倒産が散発的に増える局面がありうると見ておくのが妥当だと考える。大量に一度に起きるというより、与信の見直しが進む過程で、ぽつぽつと表面化していく形になるだろう。統合そのものが企業を潰すのではなく、これまで見えていなかった実態が見えるようになる、というだけのことではある。ただ、当事者にとっては同じことだ。

粉飾がなぜ止まれなくなるのか、そしてなぜ最後には必ず露見するのかについては、本紀行の別の特集で詳しく扱った。決済代行会社の全東信は、20年にわたる粉飾の末に負債1151億円を抱えて破産し、その債権者には愛媛銀行と伊予銀行の名も並んでいる。事業が動いている限り粉飾は毎期の辻褄合わせを強いられ、雪だるま式に膨らんでいく——その構造を、事件の内訳から読み解いている。

あわせて読む 粉飾はなぜ止まれず、なぜ露見するのか。20年の粉飾の果てに破綻した決済代行会社の内訳を、手口・債権者構成・金融環境の変化から読む → 全東信・1151億円の粉飾破綻——都市銀行が退き、地銀と信組だけが残された

もし取引先の金融機関が統合の対象になり、自社の決算内容に不安があるのなら、露見を待つより先に手を打つほうがよい。実態に即した数字を作り直し、資金繰りの見通しとあわせて自ら説明する。銀行にとって最も心証が悪いのは、審査の過程で食い違いが発覚することだからだ。まずは取引金融機関に相談してみましょう。早い段階であれば、条件変更や返済計画の見直しといった選択肢が残っていることも多いはずです。

数字は、統合の何を語っているか

ここまで見てきた数字を整理しておきたい。

時価総額では10.4対1の差がある。純資産では6.1倍、利益では10.3倍。誰が見ても、いよぎんHDが主導する統合である。ところが1株当たりの純資産では愛媛銀行が1.21倍上回り、含み資産を洗い出したフェアバリューでも1.19倍上回る。株数の違いが生む、この逆転が今回の統合の交渉を複雑にする可能性がある。

伊予銀行の含み資産2,930億円は、統合相手の純資産の2倍にあたる規模だが、これは簿外に隠れた宝ではなく、すでに純資産に織り込まれた数字である。それでもなお、株式含み益2,877億円という実現可能な原資と、15.53%という自己資本の厚みは、統合後のグループの体力として効いてくる。

そして統合の実利は、預金10兆円という規模そのものよりも、競争が止まることによって生まれる。県内で預金を奪い合う必要がなくなり、優良企業をめぐって金利で競り合う必要もなくなる。利上げ局面で調達コストが上がるなか、この二つの競争が同時に止まる意味は小さくない。

本紀行では、愛媛銀行を「貸す動機の強い銀行」として、伊予銀行を「船に貸す銀行」として、それぞれ別々に訪ねてきた。無尽を源流とし相互扶助を掲げてきた第二地銀と、第二十九国立銀行を源流とする県のトップバンク。出自も性格も異なる二行が、一つのグループになる。統合後、その違いがグループの厚みとして生きるのか、それとも均されていくのか。それは、これから発表される統合の中身と、その後の運営が答えることになる。

この特集で扱った二行の個別記事

伊予銀行——船に貸す銀行は、なぜ預金の9割を貸せるのか
預貸率90.2%・自己資本14.19%・不良債権1.5%。海運県・愛媛のトップバンクが、船主業への独自審査でよく貸し、なお焦げ付きが少ない理由を読む。

愛媛銀行——野武士「ひめぎん」は、船に貸す伊予銀のとなりで何に貸すか
預貸率77.8%・店舗111。1915年の東豫無尽蓄積を起こりとし、「思いやり」「相互扶助」を継ぐ第二地銀。投機を避けてバブルを軽傷で越えた歴史を読む。

その他有価証券の評価損益とは 銀行が保有する有価証券のうち、売買目的でも満期保有目的でもないものを「その他有価証券」という。これらは時価で評価され、取得原価との差額が評価損益となる。評価差額は損益計算書を通さず、税効果を調整したうえで貸借対照表の純資産に直接計上される(全部純資産直入法)。したがって含み益は、売却しなくても自己資本を厚くする一方、株価が下がれば自己資本も目減りする。

執筆・監修:燧徹史(¥Today 編集責任者)

出典:いよぎんホールディングスおよび愛媛銀行の2026年3月期決算短信(連結)・決算説明資料(総資産・純資産・預金・貸出金・当期純利益・自己資本比率・ROE・1株当たり純資産・発行済株式数・その他有価証券の評価損益および内訳・評価差額金)。
株価(2026年7月23日終値)=各証券会社および株式情報サービスの公表値。時価総額・PBR・PER・フェアバリュー・合併比率の各試算は、上記開示値と終値にもとづく筆者の計算。
経営統合に関する事実(2027年4月をめどとする統合、持ち株会社方式、行名の維持、連結総資産12兆円規模、船舶融資の強化)=共同通信・時事通信・日本経済新聞・朝日新聞等の2026年7月23日以降の各報道。
愛媛県の産業(今治の海運・造船、四国中央の製紙)に関する記述=各種公開情報および本紀行既出記事。
長崎県・青森県における地銀統合の経緯=各種公開情報および本紀行既出記事。
与信管理の共通化により取引先の決算内容の相違が判明しうること、およびそれに伴う倒産の見通しに関する記述は、いずれも筆者の推論であり、両社が示した方針ではない。特定の企業を指すものでもない。
※本記事の合併比率・フェアバリューの試算、統合の収益効果に関する解釈は、いずれも公開情報にもとづく筆者の推論であり、両社が公表した数値ではない。実際の統合比率および統合の詳細は、両社の正式発表を参照されたい。

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