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中ノ郷信用組合——賀川豊彦が遺した下町の信組は、墨田で何に貸すか

預貸率49.6%、預金2,026億円、自己資本比率10.66%、不良債権比率7.79%。東京都墨田区に本店を置く中ノ郷信用組合。関東大震災の救護から賀川豊彦が起こした下町の信組が、何に貸すのか。同じ東京の信用組合と比べながら、その数字と歴史を読む。

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東京都の墨田区に本店を置く中ノ郷信用組合は、預金2,026億円を持つ信用組合だ。店舗17。地元では「なかのごう」と呼ばれる。本店のある東駒形の旧地名「中ノ郷」を名に冠し、墨田区を中心とする東京の下町に根ざしてきた。

本拠の墨田区は、隅田川の東に広がる東京の下町だ。古くから町工場と小さな商いが集まり、皮革・金属加工・繊維・印刷など、ものづくりの零細事業者が層をなしてきた。いまも墨田区は「ものづくりのまち」を掲げ、小さな工場や工房が暮らしと混じり合って並ぶ。スカイツリーがそびえる一方で、路地裏には職人の手仕事が残る。中ノ郷信用組合は、こうした下町のものづくりと商いに根ざし、零細事業者と住民を組合員として支えてきた信用組合だ。

この信組の数字で目を引くのは、預貸率49.6%という標準的な水準と、不良債権比率7.79%というやや高めの数字だ。預金のおよそ半分を貸出に回す一方、焦げ付きはやや高い。なぜ、下町の信組は、こうした数字になるのか。同じ東京を地盤とする信用組合とも比べながら、数字を読みにいく。

数字を並べてみる

まず、絶対値から。中ノ郷信用組合の預金は2,026億円、貸出金は1,005億円。預貸率は49.6%で、預金の半分弱を貸出に回している。自己資本比率は10.66%、不良債権比率は7.79%。店舗数は17、中小企業等への貸出残高は969億円、貸出先は3千件を超える。

同じ東京都を地盤とする大東京信用組合(預貸率49.9%・不良債権比率2.94%)と比べると、両者は東京の中小・零細に貸す信用組合だ。預貸率は中ノ郷信用組合(49.6%)が大東京信用組合(49.9%)とほぼ並び、どちらも預金の半分弱を貸出に回している。一方、不良債権比率は中ノ郷信用組合(7.79%)が大東京信用組合(2.94%)を大きく上回る。同じ東京の信用組合でも、焦げ付きの水準には差がある。墨田の下町で、ものづくりの零細事業者に深く貸すぶん、その小さな事業の浮き沈みを引き受け、焦げ付きが高めになっていると読める。

東京都の二つの信用組合(令和7年3月末)
 中ノ郷信用組合大東京信用組合
本店墨田区新宿区
預金2,026億円6,614億円
預貸率49.6%49.9%
自己資本比率10.66%
不良債権比率7.79%2.94%

ともに東京の中小・零細に貸す信用組合。預貸率は近いが、焦げ付きの水準には差がある。下町のものづくりに深く貸す中ノ郷の事情が、不良債権比率に表れている。

関東大震災の救護から——中ノ郷信用組合の歩み

中ノ郷信用組合の歩みは、一人の社会運動家の活動に発する。キリスト教社会運動家の賀川豊彦が、関東大震災(1923年)の被災者の救護活動として始めた取り組みが、この信組の嚆矢とされる。震災で焼け出された下町の人々を助けるため、賀川は救済の事業を立ち上げた。その流れのなかで、1928年(昭和3年)、「中ノ郷質庫信用組合」として設立認可を受ける。質屋(質庫)の機能を持つ信用組合として、担保になるわずかな品を預かって小口の資金を融通し、その日暮らしの庶民を高利貸しから守ろうとした。初代組合長には田川大吉郎が就いた。

賀川豊彦は、協同組合運動の先駆者として知られる人物だ。「相互扶助」——困っている者どうしが助け合い、自分たちの金融の仕組みを自分たちで持つ、という思想を、賀川は下町の現場で形にした。中ノ郷信用組合は、その思想を源流に持つ信組として、墨田の下町でものづくりの零細事業者と庶民に寄り添ってきた。賀川は晩年、この信組の組合長も務めている。質屋から始まった小さな相互扶助の組織が、いまは預金2千億円を超える地域信組へと育った。

49.6%を、下町から読む

中ノ郷信用組合の預貸率49.6%という水準は、墨田の下町で、組合員の資金需要におよそ半分応えていることの表れだと読める。町工場と小さな商いが集まる下町は、信用組合が貸す相手のある土地だ。中ノ郷信用組合は、賀川豊彦に発する相互扶助の精神のもとで、ものづくりの零細事業者と庶民に密着して貸し、預金の半分弱を貸出に回している。

不良債権比率7.79%というやや高めの数字は、担保や規模に乏しい下町の零細事業者に深く貸し、その浮き沈みを引き受けてきたことを映す。小さな町工場や商店は、景気や後継ぎの事情に揺れやすく、焦げ付きを一定程度抱えやすい。自己資本比率10.66%は、信用組合として基準を満たす水準で、その焦げ付きを吸収する備えとなる。下町のものづくりと庶民に、相互扶助の精神で深く貸し、その浮き沈みを引き受ける——それが、中ノ郷信用組合の数字に表れた生き方だと読める。質屋から始まった信組が、いまも下町に根を張っている。預貸率という数字をどう読むかについては、預貸率の読み方もあわせてどうぞ。

東京の経済とともに

中ノ郷信用組合の数字は、墨田の下町という土地と、関東大震災の救護から始まり相互扶助の精神でものづくりの庶民に貸してきた信組の歩みの、両方を映している。預金の半分弱を地元の組合員に貸し、町工場と小さな商いを支えてきた。下町のものづくりの経済が、49.6%という預貸率と、7.79%というやや高めの焦げ付きに表れている。

銀行や信用組合の数字は、その土地の経済と、その金融機関の生き方を映す鏡だ。中ノ郷信用組合を見れば、墨田の下町の経済と、相互扶助の精神で庶民に貸す信組の姿が浮かぶ。東京都の他の金融機関は、新宿の大東京信用組合、人を見て貸す第一勧業信用組合、城東の下町に貸す東京東信用金庫もあわせてどうぞ。預貸率という数字の読み方については、預貸率の読み方へ。東京都の他の金融機関と並べて眺めたい方は、東京都の地域金融機関のページへ。

中ノ郷信用組合と融資・保証のはなし

預貸率49.6%の中ノ郷信用組合は、下町に根ざして組合員に貸す信用組合です。借りる・備えるのどちらを考えるにしても、土台になるのは日頃の取引と信用。口座づくりから保証制度まで、どんな立場でも知っておきたい融資・銀行取引の基礎をまとめました。

不良債権比率とは 不良債権比率とは、貸出金などの債権のうち、返済が滞るなどして回収に懸念のある債権の占める割合。比率が高いほど、焦げ付きのリスクを抱えていることを示す。ただし、比率の高さは必ずしも貸し方の甘さを意味しない。担保や規模に乏しい下町の零細事業者に深く貸す信用組合は、その小さな事業の浮き沈みを引き受けるぶん、焦げ付きを一定程度抱えやすい。自己資本比率とあわせて見ることで、その焦げ付きを吸収できる備えがあるかが見えてくる。 → あわせて「預貸率の読み方」もどうぞ

執筆・監修:燧徹史(¥Today 編集責任者)

出典:預金・貸出金・預貸率・自己資本比率・不良債権比率・中小企業等向け貸出残高・貸出先件数・店舗数=金融庁「中小・地域金融機関情報一覧」令和7年3月末(信用組合の計数は百万円単位を億円に換算。預貸率は貸出金÷預金で算出)。大東京信用組合の数値も同出典。
沿革・地域(墨田区に本店を置き東京の下町を地盤とする信用組合であること、キリスト教社会運動家・賀川豊彦が関東大震災の救護活動を嚆矢とし、1928年に「中ノ郷質庫信用組合」として設立認可を受け初代組合長に田川大吉郎が就いたこと、賀川が協同組合運動の先駆者で晩年に組合長を務めたこと、「中ノ郷」が本店所在地・東駒形の旧地名に由来すること、墨田区が町工場と小さな商いの集まる「ものづくりのまち」であること)に関する記述=中ノ郷信用組合および各種公開情報にもとづく。
墨田・下町の地理・経済(墨田区、東駒形、下町、町工場、皮革、金属加工、繊維、印刷、ものづくり、スカイツリー)に関する記述=各種公開情報。

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